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「ここから最も近い宇宙港は、小型艇でも半日とかからない距離にあるようです。待つよりは……」
ダヒシールが、腕を組んだまま低い声で言った。彼の視線は、絶えず情報を垂れ流す壁のモニター群と、周囲の雑踏と
を、まるで獲物を探す猛禽のように鋭く行き来している。
「ええ。あるいは、今この星に停泊している大型艇をすべて調べ、交渉の余地を探るのが現実的でしょう」
冷静なリャチの声が、ダヒシールの焦りをいさめるように続く。だが、その提案に、メゼキラカフは深く、そして重い溜息で応じた。
「そうだが、完全ではない。正直に申せば、わしらの状況は、だいぶ『詰み』に近い」
「……?……それはどうして?」
老宰相は、王子を諭すように、しかしその瞳の奥には諦観の色を浮かべて続けた。
「都合よく船が見つかったとして、その停泊期間までは変えられませぬからな。2日後にここへ来るという定期便でさえ、その出航が1
週間後ともなれば、我らは完全にこの地に捕らえられる。それに、元兵士のお前たちなら分かるだろう。あわてて星中の大型船
の情報を探るという不審な動きそのものが、敵の監視網にとっては、これ以上ないというほどの目印になるのだ。自ら
光の中に飛び込む蛾と、何ら変わりはない」
その言葉が、場の空気を再び絶望で満たす。正攻法の道はもう残されていない。そこで沈黙を破ったのは、これまで静
かに思考を巡らせていたセダスタだった。
「……う~ん。正攻法が通用しないなら、裏の手を打つのは?密入星を請け負うブローカーを頼れないか?
もう、背に腹は代えられないよ」
その、王族らしからぬ提案に、メゼキラカフは侮蔑の色さえ隠さずに、鼻で笑った。
「殿、お言葉ですがな、そのような、星から星へ大型船を自在に動かせるほどの財力と権力を持つ、
チンピラなど、この老いたメゼキラカフ、いちども耳にしたことがありませぬ。それほどの才覚があるなら、表の商売をした方がよ
っぽど儲かりますゆえ」
「じゃあ、表の商売もしている”チンピラ”を探し出すってのは?」
セダスタが、食い下がるように、しかしどこか楽しむような光を目に宿して切り返す。その、いかなる状況でも希望を
探すことをやめない主君の姿に、メゼキラカフは一瞬言葉を失い、やがて、最後の通告のように静かに首を振った。
「……それは、我らに残された『時間』という、最後の資源を浪費するだけの愚策にございます」
「……なら、船は諦めてこの星に潜るしかないか。マフィアから偽の戸籍でも買って……」
今度こそ、セダスタの声からは、先ほどまでの楽しげな色が消え、苦し紛れの響きだけが滲むようになった。その言葉が意味する先
の見えない未来に、誰もが押し黙る。重い沈黙が、フードコートの喧騒を遠ざけていった。 誰もが相槌のように唸るばかりだった。




