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https://ncode.syosetu.com/n7119lt/


本稿は、企画「ぴくの雑想ノート」の一環として執筆されています。

それは、1人の脳内で生まれた断片的なアイデアが、ひとつの強固な世界へと結晶化していく過程――その「メイキング」自体をエンターテインメントとして共有する、新たな創作の試みです。


以上のURL(設定資料)にある「世界の設計図」を紐解くことで、この物語の解像度は飛躍的に高まるはずです。


【Note】

本作は、シェアードワールド「ソーミティアユニバース」の世界観でどのような物語が描けるか、その可能性を提示するためのサンプルストーリーです。

世界観の共有を最優先として急ぎ執筆したため、とくに物語の後半は未整形のプロットや、断片的なアイデアを書き留めた「スケッチ」の状態となっております。

完成された作品ではありませんが、この宇宙の広がりを感じていただくための素材として、あしからずご了承ください。




輪郭の不確かなものが、そのままの姿で存在を許される。それは空という領域だけの特権かもしれない。


夜半。白い叢雲が生まれたままの姿で天へと猛り、底知れぬ奥行きを湛えている。

末端を風に綻ばせては、巻き毛のよう大胆な渦を描く様は、さながら地上の渓谷だ。


その只中を、1隻の飛空艇が突き進む。圧倒的な雲海に対し、人と見紛うほどに矮小な影。

その姿には、自らに課された過酷な運命に抗う、孤高の挑戦者の意志が宿っていた。


王侯貴族を乗せるに足る絢爛と、戦場を生き抜く武骨。相反するふたつの要素を兼ね備えた、美しくも逞しい甲鉄の船。それが、この挑戦者の正体だ。


船体に備え付けられた無数のプロペラが完全に同調して旋回する一方で、両舷にある大小の推進翼は、クジラの呼吸よりも永い間隔でゆっ

たりと羽ばたく。その進み方が、悠久の時を経て再会した恋人たちの、脇目もふらぬ一途な疾走

を思わせるのは、推力の大半を船尾の大型スラスターに依存しているためだ。


飛空艇「レッダーメ」は、今やどの天体の引力にも縛られず、夜空と見紛う広大な宇宙そのものを航行している。この世界『ソーミティア』の法則は、地球といういち惑星の環境を億光年の彼方まで引き延ばしたかのようなものであり、宇宙空間といえども、その見た目、気候、そして遍在する元素に至るまで、一切が地上の青空の延長線上にある。


時刻は深夜0時を回り、とある「惑星」を後にして次なる目的地へ向かうこの船の旅も、4日目を迎えた。舳先から艫まで1800m

弱という壮大な船の進路を阻むものは、今のところ何ひとつなかった。


だが、その平穏もここまでだ。逆説的ではあるが、だからこそ私は、この、”何かが起こる直前”から物語を紡ぎ始めたのである。


艦橋の乗組員たちの注意は、前方の巨大な雲の断崖へと向けられている。


「バラスト側、ちょっと圧かかりすぎてるな。後で微調整頼む」

「了解、温度も見ときます。エンジン側の冷却ライン、今んとこ異常なし」

「雲の縁、すごい綺麗だなぁ……」

「針路修正、2度西へ――クリアランス確保」

「……次の気圧谷、通過は0時32分見込み。外の風、かなり荒れそうだ」


誰もが計器と、遥か前方の壮大な光景とに意識を向けていた、その一瞬の隙。それを、”追跡者”は見逃さなかった。

狡猾な影は、満を持して、その本格的な姿を現したのである。


はじめ「レッダーメ」の足下といえる雲の中を黙々と滑っていたひとつの影は、

艦橋の複雑な凹凸を背ビレのように押し出し、綿密な白い雲を切り裂きながら、次第に速度を上げていく。

そしてついに、己の全容を宇宙の夜空へ凧のごとく解き放つと、船足を一気に伸ばし、まとわりついた雲の残滓を細い紐のように引きずりながら、

音もなく、大型艇の側面へと一直線に忍び寄った。


2隻の距離が詰まった瞬間、スチームパンク調のジェットウィングを背負ったパワードスーツの一団が、小さな艇を後にした。

遠目にはゴミ袋から逃げ出すハエの群れのようにしか見えなかったその影たちは、巨船の船腹へと次々に取り付き、近づいてみて、はじめてわかる装甲の微細な凹凸や、鉄板の継ぎ目、あるいは作業用の手すりを正確に掴み取り、鮮やかに乗り移っていった。


作業用ハッチの円い鉄蓋、その近くに首尾よくたどり着いた者は、さらに厳密を期すように、その方へと外壁を登攀する。


1人の工作員が腰の大ぶりなポーチを探り、粘着性のタブレット端末を取り出すと、

手際よくハッチの脇に貼り付けた。この装置もまた、現代的な機能性と「蒸気と歯車の芸術」と呼ぶべき華美な意匠を兼ね備えている。


タブレットの画面に内部のX線映像が映し出される。その像を見極めて、

1人の工作員が壁面の2箇所に赤マジックで素早く印を付けると、這うようにしてその場を離れる。


続いて現れたのは、銅板を真鍮と銀線で補強されたドリルの担い手。彼はタブレットで進捗を監視しながら、外壁を正確に掘り進む。

2層目に到達したところで、先の工作員から指示が飛ぶ。画面には、複合装甲の3層目までが明示されていた。


「その格子状の層で止めろ」

「ああ」

引き抜かれたドリルビットの先端は赤熱し、穿たれた穴から細い煙が立ち昇る。


「ひとつ目よし。ふたつ目に移る」

「了解」


同じ作業が繰り返され、開けられた2つの穴へと、深紅に彩られた葉巻状のテルミット剤が、手際よく差し込まれていく。


「……テルミット剤、よし!」

「下がれ、下がれ!」


仕上げに取り付けられたのは、粘着式の起爆装置。淡い発光を伴いながら、装置はハッチに吸い付くように据えられる。

工作員たちは一斉にその周辺から退避した。


「いくぞ、10秒前!……3、2、1!」

「点火!」

次の瞬間、激しい火花と煙が走り、1拍遅れて轟いた爆発が鋼鉄のドアを吹き飛ばした。だが、人の度肝を抜くこの破壊工作さえ、吹き荒れる宇宙の風の中では瞬く間に彼方へ流され、矮小な景色の一部と化していく。



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