表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢は断罪フラグをへし折って、カレーで人生大逆転します!~婚約破棄されたので、胡散臭い商人と国民食を作って幸せになります~  作者: 緋村ルナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/20

第14章 二つのプロポーズ

 国を救った英雄。それが、今の私、エリザベス・フォン・クライネルトに与えられた新しい称号だった。

 私は再び、王宮の謁見の間に呼び出された。しかし、以前の糾弾の場とは雰囲気が全く違う。私に向けられるのは、称賛と尊敬の眼差しだけだった。

 玉座の前に立つ私に、国王陛下は満足げに頷いた。

「エリザベス・フォン・クライネルト。そなたの功績、まことに見事であった。国を代表して、心から感謝する。褒賞として、そなたの望むものを何でも与えよう。遠慮なく申してみよ」

 貴族の地位、広大な領地、莫大な金銭。私が望めば、何でも手に入るだろう。周囲の貴族たちは、私が何を望むのか、固唾をのんで見守っていた。

 その時、私の前に一人の人物が進み出て、静かに跪いた。

 アレクシス王太子だった。

 彼は、以前とは比べ物にならないほど真摯な、そして少しだけ緊張した面持ちで、私を見上げた。

「エリザベス」

 その声は、謁見の間にいるすべての人々に聞こえるほど、はっきりと響いた。

「私は、愚かだった。君という人間の本当の価値に、君を失ってからようやく気づいた。君の強さ、優しさ、そしてその情熱。そのすべてに、私は心から惹かれている。どうか、もう一度、私にチャンスをくれないだろうか。私の妃に、なってほしい」

 心からの、再プロポーズ。

 周囲の貴族たちは、ざわめいた。王太子と救国の英雄の復縁。これ以上ないほどの、美しい物語だ。誰もが、私が頷くことを期待していた。

 しかし、私は静かに首を横に振った。

「……殿下。そのお気持ちは、大変嬉しく思います。ですが、お受けすることはできません」

 きっぱりとした私の返答に、アレクシスは悲しそうに瞳を揺らがせた。

 私は彼に向かって、穏やかに微笑んだ。

「今の私があるのは、公爵令嬢の地位を捨て、自分の足で歩き始めたからです。私の居場所は、豪華な王宮ではなく、スパイスの香りが満ちるあの厨房です。お飾りの妃になるつもりは、もうありませんの」

 それは、私の偽らざる本心だった。王太子妃のきらびやかな地位よりも、料理人として生きる、埃と油にまみれた日常の方が、私にとっては遥かに価値がある。

 私の毅然とした態度に、アレクシスは全てを悟ったようだった。彼はゆっくりと立ち上がると、寂しげに、しかしすっきりとしたい表情で微笑んだ。

「……そうか。君らしい答えだ。君の幸せを、心から願っている」

 彼は、潔く身を引いた。失恋の痛みを受け入れ、相手の幸せを願う。それは、かつての義務感に縛られていた彼にはできなかったことだ。彼もまた、この一連の出来事の中で、大きく成長したのだった。


 謁見が終わり、私が王宮の廊下を歩いていると、夕日があたる窓辺で、一人の男が私を待っていた。

「よぉ、救国の英雄サマ」

 飄々とした口調で私を迎えたのは、カイだった。

「カイ……待っていてくれたの?」

「当たり前だろ。あんたの晴れ舞台なんだからな」

 彼は私の隣に並んで歩き出すと、ふと立ち止まった。そして、真剣な目で私を見つめた。

「さて、未来のカレー王。俺もあんたに、一つ取引を持ちかけたいんだが」

「取引?」

 首を傾げる私に、カイは悪戯っぽく笑うと、懐から小さなベルベットの箱を取り出した。

 パカっと開けられたその箱の中には、シンプルな銀の指輪が、夕日を浴びてキラリと光っていた。

「俺を、君の生涯のビジネスパートナー兼、夫にしてくれないか?」

 いつもの飄々とした態度。しかし、その瞳は、今までに見たことがないほど真剣で、深い愛情に満ちていた。

「君の作るカレーを、毎日食べたい。朝も、昼も、夜も。世界で一番の特等席でさ。……それじゃ、ダメか?」

 それは、彼らしい、少し不器用で、でも最高にストレートなプロポーズだった。

 予期せぬ言葉に、私の目からは、大粒の涙がとめどなく溢れ出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ