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悪役令嬢は断罪フラグをへし折って、カレーで人生大逆転します!~婚約破棄されたので、胡散臭い商人と国民食を作って幸せになります~  作者: 緋村ルナ


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第11章 仮面の聖女、化けの皮

 エリザベスの誠実で力強い対応により、王都を覆っていた黒い噂は急速に沈静化していった。それどころか、「毒草騒ぎにも負けずに頑張る食堂」として、かえって『スパイス・パレット』の評判は以前にも増して高まり、店は再び活気を取り戻した。

 この状況に、最も焦りを感じていたのはマリアだった。自分の仕掛けた罠が、結果的にエリザベスの人気を後押ししてしまったのだ。アレクシス王太子が、エリザベスの店の噂を耳にするたびに、どこか感心したような表情を浮かべるのも、マリアの嫉妬心をさらに燃え上がらせた。

(このままでは、ダメ……もっと直接的な方法で、あの女を潰さないと……!)

 焦ったマリアは、もはや小細工ではない、より悪質な妨害を計画する。腹心である貴族に命じ、ならず者のチンピラを数人雇わせた。計画は、店でカレーを食べた客が食中毒になったと大騒ぎを起こし、『スパイス・パレット』の信用を完全に失墜させる、というものだった。

 計画は、ある日の昼下がり、実行に移された。

 店が客で賑わう中、チンピラの一人が、わざとらしく大きな声でカレーを注文し、勢いよく食べ始めた。そして、皿が空になるかというタイミングで、計画通り、彼は椅子から転げ落ちた。

「う、うぐっ……!は、腹が……!い、痛い……!!」

 男は腹を押さえて床を転げ回り、苦しみ始めた。

「この店の料理に……ど、毒が入ってるんだ!助けてくれ……!」

 突然の出来事に、店内にいた他の客たちは騒然となった。悲鳴を上げる者、蒼白になる者。店の空気は一瞬にして凍りついた。

「お客様、大丈夫ですか!?」

 私が駆け寄ろうとした、その時。

「衛兵を呼べ。この男を、すぐに調べさせろ」

 凛とした、静かな声が響いた。

 声のした方を見ると、店の隅のテーブルで、ずっと静かに食事をしていたフード姿の客が、すっくと立ち上がっていた。その客がフードを取ると、現れた顔に、店内の誰もが息をのんだ。

 王太子、アレクシス・フォン・ヴァインベルグ。

 彼が、なぜこんな下町の食堂に。誰もが驚きで言葉を失う中、アレクシスは鋭い目で、床で苦しむチンピラを観察していた。彼の目には、同情ではなく、明らかな不審の色が浮かんでいた。

「芝居が、少々大袈裟すぎるのではないか?」

 その冷たい指摘に、チンピラは一瞬、苦しむのを忘れて動きを止めた。

 そこへ、厨房から出てきたカイが、冷静に言い放った。

「殿下のおっしゃる通りですな。食中毒にしては、ずいぶんと都合のいいタイミングで発症するもんだ」

 カイは屈み込むと、チンピラの口元をクンと嗅いだ。

「……なるほど。これは、下剤の効果を早める薬草の匂いだ。食中毒じゃない。こいつは、ここへ来る前に何かを飲んでいる。ただの、当たり屋の芝居ですよ」

 カイの的確な指摘に、チンピラは顔面蒼白になった。王太子と、鋭い洞察力を持つ商人に挟まれ、もはや逃げ場はない。

「さあ、白状したらどうだ。誰に頼まれた?」

 アレクシスの厳しい追及に、追い詰められたチンピラは、ついに観念して叫んだ。

「お、俺は頼まれただけだ!とある貴族様に、金で雇われて……!」

「その貴族の名は?」

「……ベ、ベルンシュタイン様と親しい、子爵様だ!」

 チンピラが叫んだ依頼主の名。それは、マリアの腹心として知られる貴族の名前だった。

 その名を聞いた瞬間、アレクシスの顔から、すっと血の気が引いていくのが分かった。

 彼は全てを悟ったのだ。エリザベスを貶める黒い噂も、今日のこの騒動も、すべてが誰の仕業だったのかを。自分が純真無垢な聖女だと信じて疑わなかった少女の、その裏の顔を。

(マリア……君が、こんなことを……?)

 アレクシスの心の中で、今まで築き上げてきたマリアへの信頼と淡い恋心は、ガラガラと音を立てて崩れ落ちていった。

 店内に満ちていたカレーの温かい香りは、いつの間にか、凍てつくような真実の冷たさに取って代わられていた。

 聖女の仮面が、今、完全に剥がれ落ちた瞬間だった。

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