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第三章 恋と愛と、憎しみ〈1〉

毎日投稿6日目。

 修道院から拉致され、今、床に転がされた義姉の姿に、アリアは喜びに震えた。

 そんなアリアの様子を、実行犯の男が気味悪そうに見る。


「ふふっ、ごきげんよう。遠路はるばる、ようこそ。――お義姉様」


 目隠しをとると、義姉の瞳は涙目だった。口も食いしばるように、きつく結ばれている。いつも気品よく、堂々とアリアを睥睨していたヴィオレッタの姿は、微塵もなかった。

 義姉の新たな一面が見れて、自然とアリアの笑みが濃くなる。


 やはり想像した通り、ヴィオレッタは恐怖に慄きながらも、必死に助けがくると言い募った。現実がわかっていない彼女に、丁寧に事情を話してあげる。


 ヴィオレッタの顔が歪むが、自分は親切な方だ、とアリアは考えていた。

 突然、全く違う世界に投げ込まれたアリアに、義姉は何もしなかった。社会の底辺と上流層では、それこそ歩き方ひとつとっても違う。誰も作法を教えてくれず、恥をかいたことも数えきれない。

 アリアはメイドに、侍女に、家庭教師に、とにかく自分から全力であたり、聖女としての”アリア・セラフィーナ”をつくりあげた。


 それに比べたら、置かれている状況を懇切丁寧に説明してあげたぶんだけ、自分は優しいと思う。


「ここがお義姉様の部屋ですよ」


 この時のために、入念に用意した部屋へとヴィオレッタを導く。武骨な屋敷の中で、この部屋だけは貴族令嬢らしく華やかな調度品が置かれ、女性らしい雰囲気がある。

 せっかく準備したというのに、ヴィオレッタの顔は歪んだままだ。けれど、それでいい。アリアにとっては、どのような姿であっても、それがヴィオレッタという人間なら、全てを許せる。全てが愛おしかった。


 彼女を部屋に入れ、扉の鍵を締める。この瞬間だけは、自分の手でしっかりと錠をかけたかった。

 気づけば、アリアに付き従っていた男はどこかに消えている。


 アリアは扉に自分の背をつけ、ずるずるとしゃがみこんだ。床の冷たさに、自分の体温が随分と上がっていることを自覚した。

 両手で顔を覆って、はぁっと大きく息を吐く。落ち着け、と自分に言い聞かせるが無駄だった。


「――――――あの美しい、決して手の届かなかった肢体が、わたしのものに!」


 指と指の間からのぞける目は、異様に爛々としている。恋焦がれたものが、遂に手中に収まったことに歓喜した。

 初めて会った時、優雅に階段を下りる彼女に見惚れた。日に日に、年々、変化していく美しさに目を奪われた。彼女の瞳を、関心を、ただ自分一人だけのものにしたかった。


「ねえ、堕ちてきて。かわいい、かわいい、お義姉様」


 気高く、見目麗しいお義姉様。

 そんな尊き方に懸想し、とても開けっ広げにはできないドロドロとした欲情を抱く自分。


 どうか、どうか、自分の腕の中に堕ちてきて、とアリアは願う。


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