第二章 冷たい鎖の箱庭〈3〉
毎日投稿5日目。
泣き喚こうと、どうしようと、ヴィオレッタの日々は変わらない。義妹によって完璧に整えられた箱庭で、時間を無為に経ていく。
何かが変わるのは、その張本人である義妹自身が部屋を訪れた時だけ。
日がな一日、独りで変わり映えのしない部屋に閉じ込められ、唯一接触できる人が一人だけでは、情緒がおかしくなっていく。侮蔑と憎悪、そして恐怖の対象であるはずの人を大人しく待っている自分に、無性にイライラする。
例え物に当たろうと、気づけば新品に置き換えられ、それがヴィオレッタ自身であっても寝て起きれば治癒魔法で治されている。
ヴィオレッタは死ぬこともできずに、ただ生かされていた。
部屋の中に監禁され、外に出ることもなく、運動もほぼしない生活だというのに、ヴィオレッタの身体は日に日にやせ細っていく。
最近は、食事も満足にとることができない。豪勢な食事が並ぼうとも、食べたいと思えないし、口にしても喉につっかえてしまう。水分すら、摂取するのが億劫になってくる。
清潔で柔らかなベッドに横たわったヴィオレッタの側には、アリアの姿があった。こうしていると、まるで世界にはアリアとヴィオレッタの二人しかいないようだ。
「お可哀そうな、お義姉様。こんなにお痩せになって」
アリアの手がヴィオレッタの手を触る。
「せめて水分だけでもとってください」
優しく看護され、少しずつ、水を口に含ませられる。
この場面だけを何も知らずに切り取ったなら、さながら病の姉に献身する妹という慈愛の風景だろう。どこかの絵画の題材になりそうだ。
しかし、実態が違うことは、当事者二人とも、よくわかっていた。
えずくことなく水を嚥下する義姉に、アリアは口角を上げる。もう話す気力をなくなり始めたヴィオレッタに、一方的にアリアは喋りかけ続けた。
「やっと侯爵も、あなたをお探しになるのをお止めになりましたよ。一向に証拠はでないというのに、ご苦労な事です。親の愛は偉大ですね。……まあ、侯爵が調査に使った役人も密偵も、既にわたしの手の者になっていましたから、無駄な努力でしたけれど」
ヴィオレッタが隠されている間にも、外の世界では目まぐるしく情勢に変わっている。
「第二王子殿下はダメな人ですね。わたしは聖女としての仕事があるから、領主としての仕事を任せたいのに、全然勉強が進んでないんです。臣籍降下する予定なのに、いつまで王子気分でいるんでしょう」
気持ちよくお喋りをしている様子だったアリアだが、王子の話題になると不快げに顔を歪める。よほど、腹に据えかねるらしい。
「お義姉様はあの王子の何が良かったんですか? お義姉様の失脚も気にかけなかった男ですよ」
「…………奪ったのは、あなたじゃない」
「言い寄ってきたのはあちらからです。わたしはただ聖女として接しただけなのに、勝手にのぼせ上がって」
なんとかヴィオレッタが絞り出した返答に対する、アリアの応えは淡々としている。ヴィオレッタの目には、学園時代のアリアと王子はイイ仲のように見えていたのに。
「じゃあ、なぜ…………なぜ、わたくしをこんな目にっ」
悲痛な叫びも、やつれた体ではか細い。けれど、しっかりアリアの耳には届いていた。アリアはやっと気づいてくれたと言わんばかりに笑う。
「最初から言っているでしょう? わたしはずっと、お義姉様がほしかっただけですよ」
アリアの目が妖しく光る。
「ずっと、ずっと、この時を手に入れるために動いていました」
さながら演説だ。観客はただ一人――ヴィオレッタだけ。
大事な宝物を相手にするように、アリアはヴィオレッタを覗き込み、肌に触れる。
「だって、断罪されれば、罪人のお義姉様には、もう、わたししかいませんから」
もう逃れることはできない。
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