第二章 冷たい鎖の箱庭〈2〉
毎日投稿4日目。
ここは、セラフィーナ侯爵家所有の屋敷の一つらしい。ヴィオレッタに与えられた部屋は、修道院の部屋に比べれば格段にお金と手間のかけられたものだった。
この部屋に連れられた時に、アリアが得意そうにそう言っていたのだ。
けれど、ヴィオレッタには、まるで子どもの頃に遊んだドールハウスのように感じられた。ここはアリアの設えた箱庭だ。外面を良くても、内実は変わらない。
その証拠に、ヴィオレッタの足には枷が嵌められ、部屋の扉には通常鍵がかけられている。使用人たちはヴィオレッタの世話こそするが、会話することすら禁じられている。
ヴィオレッタが言葉を発するのは、不本意ながら、定期的にアリアが訪れる時だけだった。
「お義姉様に助けは来ませんよ」
誘拐されて初日、きっと助けがくると喚くヴィオレッタに、アリアは可笑しそうに言った。
「違和感を覚えませんでしたか?修道院のお義姉様の部屋の扉が開かなかった。助けを呼んだのに、誰も気づいた様子がなかった。修道院は塀に囲まれているのに、幌馬車は門をどうくぐったのか――」
アリアの言葉に、焦りで熱くなっていた頭が冷や水を被せられたようにすっと寒くなる。確かに、落ち着いて振り返ってみると、オカシな点が気づく。
「ま、まさか、おまえが……」
「ふふっ、皆さん、全容は知らせていませんよ。下女には扉に鍵をかけるようにと、修道院長には部屋が騒がしくなっても気にしないでと、門番には少しのお金を掴ませて」
見目は聖女なのに、語っている内容は悪魔だった。
「朝にお義姉様の不在に気づかれても、きっとお義姉様が”自主的に”逃亡したと判断されるでしょう。だって、不審な点はないんです。修道院に入れられた令嬢が、誰かイイ人を見つけて、一緒に逃げる。ありふれた話ですよね」
「きっと、お父様がッ!」
「そうですね。侯爵はお義姉様をお探しになるでしょう。でも、どうやってあなたを探すのです? だって、わたしとあなたを直接誘拐した男以外、誰も計画の全容を知らないんですよ。そもそもこれが計画的な誘拐なのか、ましてや首謀者がわたしなんて、辿りつけはしないでしょうね」
ヴィオレッタは思わず唇を噛む。
貴族令嬢がなんらかの理由で修道院に入れられるのはよくある話だ。そして、修道院から逃げる、という選択肢をとる令嬢がいることも、ゴシップに興味のないヴィオレッタも小耳に挟んだことがあるぐらいにはありふれた話。
「ごめんなさい、お義姉様。あなたを悲しませるつもりはなかったの。どうか唇を噛まないで、傷になっちゃう」
恍惚とした様子のアリアが、ヴィオレッタの唇をそっと撫でる。勝気な娘なら指に噛みつくくらいのことはしそうな動作だったが、ヴィオレッタはただの令嬢。ただ震えながら、なされるがままになるしかなかった。
そして、今日もまた、アリアはまるで遊び場にでも来るように、ヴィオレッタの部屋を訪れる。アリアは何をするでもなく、怯えるヴィオレッタをニコニコと眺めているだけ。扉の側の椅子に座った彼女を、ヴィオレッタは警戒するしかない。
何もされない――アリアが何をしたいのか、なぜわざわざヴィオレッタを攫い監禁するのかがわからないからこそ、ヴィオレッタをより一層恐怖する。忍び寄る怖気から、意を決して、ヴィオレッタは問いかける。
「――わたくしをどうするつもりなの?」
口にした問いは、ひどくか細く震えていた。アリアはますます、楽しそうに顔を喜色に染める。
「またその質問をするんですか? もうお答えしましたでしょう?」
「……意味がわからないのよ。わたくしの瞳を舐めたいなんて」
ヴィオレッタには理解できない。彼女が考えたことも、聞いたこともない事柄だからだ。
アリアは椅子から立ち上がると、ヴィオレッタのもとへと歩み寄る。近くに来た彼女の手が、ヴィオレッタの方に伸ばされるのを、咄嗟に払いのけてしまった。
「――ッ!?」
「ねえ、どうしてそんな顔をするの。あなたが散々、わたしを見下してきたのに」
強く払われて、少し赤くなった手を気にすることなく、アリアの注意はヴィオレッタから外れない。たった今、傷つけられたというのに、喜色が消えない。
ヴィオレッタは限界に近かった。
「触らないで!……ぃっ、いや、いや!」
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