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第二章 冷たい鎖の箱庭〈1〉

毎日投稿3日目。

 修道院から連れ去られたヴィオレッタは今、冷たい石畳の上にいる。目の前には、自分を追いやったはずの聖女アリアの姿があった。


「遠路はるばる、ようこそ。――お義姉様」


 アリア。


 ヴィオレッタにとって、彼女は気に入らない存在だった。セラフィーナ侯爵家唯一の侯女だった自分の地位を脅かす、卑しい身分の養女。

 なのに、ヴィオレッタの周囲はあっという間に小娘に毒されてしまった。民衆や教会はもちろん、屋敷の人間さえも皆、アリアを称える。自分のものだと思っていたものが、次々と奪われた。

 そして、最後には後継者の地位も、婚約の立場も奪われ、ヴィオレッタは田舎の修道院に閉じ込められた。


 そのようなアリアへの嫌悪の中に、些かな恐怖が混じっていることをヴィオレッタは噛み殺す。それは、未知のものへの本能的な怖れであった。

 アリアはそれこそ出会った時から、ヴィオレッタにある種の執着を見せた。ヴィオレッタを見る目に宿る異様な光。その欠片が垣間見える度に、ヴィオレッタはアリアを遠ざけたくて仕方なくなる。


 今、ギラギラとした狩人のような瞳が、なすすべもなくヴィオレッタに注がれていた。まるで指で輪郭をなぞるように、その視線がヴィオレッタを舐めまわす。ヴィオレッタの体の震えが大きくなった。


「会いたかったですよ。お義姉様とこんなに長く離れて、とてもつらかったです」


 まるで仲のいい姉妹かのように声をかけるアリアに、ヴィオレッタの背が凍った。しかし、その異様さ故に、身動きもできない。


「…………どういうつもりなの?」


 ヴィオレッタを追いやったのは、アリアのはずだ。彼女が訴えたから、王家が動いた。アリアはヴィオレッタに消えて欲しかったのではないのか。

 尚更、アリアの意図がわからず、ますます恐怖が大きくなる。やはり理解できない。


 ヴィオレッタの問いに、アリアは鼻唄でも歌いそうにご機嫌だ。まるでおもちゃの宝箱を前にした無邪気な子どものように、アリアはヴィオレッタを眺めていた。


「ふふーん。どうしよう?……教えよっかなぁ? でも、それはもったいない気がする!ねえ、お義姉様。まずは自分で考えてみて?」


 苛立ちが、少しの冷静さを連れてくる。立ち居振る舞いは天真爛漫な少女のものなのに、それ以外は全て異常だ。ヴィオレッタは意を決して義妹に尋ねる。


「……わたくしに何を望んでいるの?」


 アリアの天真爛漫な笑顔は変わらない。けれど、その口元は獰猛な曲線を描く。そして、瞳の異様なきらめきが増した。


「お義姉様が悪いんですよ」


 脈絡のない言葉であることと、責任転嫁のような言葉であることに、ヴィオレッタの苛立ちが募る。だが、次の瞬間、ヴィオレッタの苛立ちは恐怖へと塗り替えられた。

 二人の間にある距離が、アリアの一投足により瞬時に詰められる。アリアの小さく、少し硬い指先が、ヴィオレッタの顎に添えられた。くいっと顔を上げられ、二人の視線が交差する。


「本当にきれい。ずっと前から思ってたんです。お義姉様の瞳を舐めてみたいって」


 アリアは本当に嬉しそうに嗤った。


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