第一章 アリアとヴィオレッタ〈3〉
毎日投稿2日目。
アリアは健気な少女であった。王家の、教会の、侯爵の、求めに応じようと、努力を重ねる。
魔物討伐に、疫病防止に、要人の警護に。求められれば、いつも駆け付け、力を使った。同時に、高位貴族に相応しい教養やマナーの授業もある。
この時のアリアは無意識にわかっていたのかもしれない、成果を上げなければ自分が酷いことになるだろうことを。
そんな忙しない生活な中でも、アリアはヴィオレッタにお近づきになろうとした。初対面の次に、初めて声をかけた時は、
「薄汚い平民が」
と、すげなく侮蔑された。
きっと自分は庶民らしさが抜けない、田舎臭がするから、そのように言われるのだと、アリアは自分に言い聞かせた。
アリアはがんばった。短いながら精一杯に生きた10年間以上に、努力し、貴族としてふさわしい自分になるとした。
「触らないでくださる? あなたの汚れがつくわ」
彼女の落としたハンカチを拾って渡そうとすると、そう吐き捨てられ、目の前でハンカチを捨てられた。
アリアは健気な少女であったが、無償の優しさが無限にあるほど、できた人間ではなかった。
貴族学園に入学する13歳の頃には、すっかり義姉が嫌いになっていた。苦手、とも言っていい。
洗礼式から3年、懸命に働いてきたこともあって、徐々にアリアは認められていった。未だに上流階級からは成り上がり者と見下されることはあれど、民衆からの人気は肌で感じるほど。
「この光の魔法で、たくさんの人を助けたい!」
アリアの言葉を、多くの人たちが称賛した。貴族学園に入ると、最初こそ時に侮られもしたが、日を経るごとに皆がアリアを見直していく。なかには、アリアを王族同然のように扱い、礼儀を尽くす者も現れた。
自分の努力が報われ始めたと、アリアは感じる。
けれど、他の人たちとは違って、ヴィオレッタの態度は初志貫徹していた。
「やはり成り上がり者は浅ましいですわね」
蔑みの目にも慣れた。
いいや、慣れない。
アリアは自分に戸惑った。確かに自分は傷ついている。義姉は嫌いだ。憎んでいる。もしも彼女が怪我を負っても、素直に助けたいとは、とてもじゃないが思えない。それほど、ヴィオレッタからの扱いは人間の尊厳を踏みにじるものだった。
だが、同時に、ヴィオレッタの中に確かに自分の存在があることに悦びを感じる。彼女が自分を蔑んでいる時は、彼女の目にはアリアしかいないのだ。そのことに、どうしようもないほどの満足感と、もっとと求めてやまない飢餓感の両方が生まれる。
出会った時から、幼い丸さが消え、だんだんと大人の女性になっていくヴィオレッタの身体から、目を離せない。
一緒にいたい相手ではないのに、屋敷内でも学校でも、彼女を避けて暮らそうとは思えない。玉のような白い肌、よく手入れされた長い黒髪、宝石のような青紫の瞳。ああ、全てが愛おしい。
きっと自分は義理とはいえ、孤児である身の上にできた家族と仲良くなりたいのだ、とアリアは自分に自問自答する。確かに存在する違和感は無視した。
貴族学園に入学して、優等生として認められ、称賛されても、アリアはがんばることをやめない。いつか、義姉が自分に笑いかけてくれる、と信じて。
しかし、現実は変わらない。
「わたくしがあなたを認めることは絶対にないでしょう」
相変わらず、ヴィオレッタの目は汚いゴミを見るかのようだった。
アリアはその場に立ち尽くした。心臓がどくどくと血を急速に送り出しているのを感じる。自分でも、今の気持ちがわからない。どうしようもなく、感情が暴れている。
ただただ、思いのままに呟きがふと漏れた。
「あのひと、どうして、あんなに綺麗なの……」
その場にはアリア一人しかいなかった。
だから、誰も知らない。
この時のアリアの顔は、真っ赤に染まり、恍惚に蕩けていたことを。
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