第一章 アリアとヴィオレッタ〈2〉
毎日投稿2日目。
アリア・ミラーは、しがない庶民の生まれだ。
幼い頃に家族を流行り病で亡くし、以後は王都の孤児院で養育された。決して豊かなくらしとはいえなかったが、信心深く親切なシスターたちや元気いっぱいな孤児仲間たちとの生活は充実していた。いっしょに腹ペコに苦しみながら野山で食べられる植物を探したり、建付けの悪く隙間風の入る礼拝室でシスターたちと聖歌を合唱したり。
貧しかったけれど、アリアにとっては忘れられない大切な思い出。
10歳になった年、アリアは大きな教会で洗礼式を受けに行った。
リュシエール王国の子どもは全員、10歳までに教会の洗礼を受けることが義務になっている。洗礼式では、稀に神の恩寵をもった者が現れる。けれど、庶民にはまず現れない。
だから、アリアは軽い気持ちで洗礼式に行った。同い年の孤児仲間と、初めて着た小綺麗な服に浮かれた。初めての場所に緊張を滲ませて、シスターにからかわれた。今日の夜ご飯はどうしようと頭を悩ませた。
これまでの生活が、これからも続くと信じ切っていた。
「こっこれは!?」
「ああ、神の祝福!」
「おめでとうございます。”光の魔法”ですよ!」
けれど、そのようなアリアの思い込みは裏切られる。
アリアに神の恩寵が現れたのだ。それも、王侯貴族にすら極めて珍しい”光の魔法”である。
その日、アリアは孤児院に帰れなかった。次の日も、その次の日も。恩寵が現れたアリアに喜んでくれたシスターと仲間たちの姿が、最後の思い出になった。
光の魔法が現れたアリアはすぐさま、教会に保護され、あれよあれよと高位貴族の家に養子入りすることが決まる。
庶民に恩寵が現れた場合、貴族の養子になることは慣例になっていた。だが、セラフィーナ侯爵家という大貴族に、となったのは前例がないこと。それだけ、光の魔法への期待は大きく、王家肝入りの養子縁組であった。
そこに、アリアの意思は考慮されない。アリアが養子入りという囲い込みに抵抗することは不可能なことだった。
といっても、このような上流階級の意図を理解できる頭を、当時のアリアは持っていなかった。だから、ただ流されるままに貴族入りすることになる。
見たこともない高価なドレスを着せられ、物語の中に想像するしかなかった馬車に乗せられて、セラフィーナ侯爵家の屋敷へと送られた。教会に迎えに来た侯爵は、いかにも貴族という風貌で、アリアへの態度も紳士然としていた。養父になる人が、相手が平民だからとあからさまに侮蔑の態度を表にする人ではなかったことに、まず安堵した。
セラフィーナ侯爵家の屋敷は、王都の中でも特に立派な家の一つだ。王都の端の端、貧民の中で育ったアリアにとって、このような上流層の区画は訪れたこともない。
たくさんの使用人に出迎えられて、アリアはセラフィーナ侯爵家に入った。
玄関ホールは孤児院の共同寝室よりも大きかった。
男の使用人の先触れがなされ、彼女が現れた。その令嬢は二階から、緩い螺旋階段を下って、侯爵とアリアの前に出てくる。
(――きれい……)
漆黒の髪に、青紫の瞳。すらっとした体で上品なドレスを着こなし、その容姿は美しいの一言に尽きる。教会で見た聖母や聖女の大理石像のようで見惚れ、思わず感嘆の吐息が漏れた。
こんな美しい人を、アリアは見たことがない。
彼女はアリアより一歳年上の11歳らしいが、とてもそう思えない鋭利な美貌。でも同時に、幼少の良い面にあたる、かわいらしい無垢さも持ち合わせていた。
アリアらの目の前に立った彼女は、父である侯爵に優雅なカーテシーを披露する。侯爵も嬉しそうに娘に声をかけた。
「おかえりなさいませ、お父様」
「ああ、我が愛しい娘ヴィオレッタ。出迎え、ありがとう」
その青紫の瞳に、自分も映してほしい。この時、アリアは一生の中で初めて湧きあがった衝動でいっぱいだった。
侯爵と令嬢の会話が一段落ついたのを見て、アリアは堪えきれず口を開いた。
「はじめましてっ! わたしの名前は、あっ、アリア・ミ……セラフィーナともうします!」
「……わたくしは名誉あるセラフィーナ侯爵家の後継者でしてよ。あなたのような下賤な者から、話しかけないでくださる?」
これが、アリアとヴィオレッタのファーストインプレッション。
その言葉自体はショックなものだったが、不快そうに細められた瞳に自分が目一杯映されたことに、不思議な満足感を覚えた。
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