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第一王子の不自由な日々に終焉を。

作者: れじい
掲載日:2025/11/08

今日は来客があるというのに、授業が時間通り終わらなかった。

自分が不甲斐ないからだ。仕方がない。

走って庭園まで急いだ。

あの少女が来ているはずだから。


親が決めた婚約者。

公爵家の長女で、品のある少女だった。

まだ、自分か弟か決まってはないけれど、このまま順調にいけば自分の婚約者になるはずだ。


ミルクの入った甘いチョコレートのような茶色の髪色に、新緑の瞳。

一目見て可愛らしいと思った。

小鳥がさえずるような声は、もっと聞きたいと思った。

早く会いたい。


息切れしながらも、少女が目に入る。

庭園にあるテーブルにその子が座っていた。

嬉しくて、マナーは悪いが手を振ろうと思った。


「私、大きくなったら貴方と結婚したいな!」


その言葉は自分に向けたものではなかった。

ニコニコした表情の正面で、弟が顔を赤く染めている。

なんて楽しげなんだろう。


心臓の鼓動が嫌な速度になっていく。

浮ついた心はズシリと重くなり、足はそこから一歩も動けなかった。


「王子、この歳になっても魔法が使えぬのであれば困ります。王子は将来国王になられるのですから。」


そんなこと言われたって使えないものは使えないのだ。

才能がない、向いていない・・・、努力していない。

言い訳ならいくらでもある。

しかし、そう言おうものなら、教師の持つ鞭が飛んでくるのは想像が容易いことだった。


「もう一度、この詠唱を。」


教師に言われた通りにするものの、机の上に変化はない。

今は、一番簡単な火を灯す魔法のはずだったが。


この国の第一王子として生まれ、7歳になった頃から、様々なことを学び始めた。

読み書きが終われば、政治、経済、音楽、乗馬といった多岐にわたる学問。

やってもやっても終わらない。

自分的には上手くやれていたと思う。魔法を除いては。


この国には、魔法を使える人と使えない人がいる。

差別はない。できるかできないかの問題だから。

しかし、王子として生まれたからにはそうとはいかなかった。

“由緒正しい血筋なら使えて当たり前”という認識があったからだ。

現に、弟は5歳からその才能を発揮し始めた。


「弟君であるルーベキア様は使えるのですから、王子もできるはずなのです、さあ!」

「できないよ、もう無理だ。私には魔法を再現する能力がない。」


ポツリとこぼれた言葉が、教師を激昂させてしまった。

“できないはずはない”、“第一王子なのだから”と、言葉と鞭を振るってくる。


「痛い、痛い、やめて、やめてくれ!」


頭を手で覆って、体を縮める。

第一王子といえど、学問をできるようになるならば、多少の暴力も目を瞑っていたのだと思う。

父である国王も、母である王妃も、僕がどんなにどんなに辛くても助けてはくれなかった。


窓の外から、弟が訓練所で楽しそうに氷の魔法を放っている姿が見えた。

隣にいた魔法士らしき大人は、笑顔で満足気に弟を見ていた。

もう疲れた。

どうすればいいんだろう。

何がダメなのか。

そんな幼少期だった。


16歳になると、学園に通うようになった。

学問はどれも習ったものばかりだったが、通わないわけにもいかなかった。


貴族ばかりが通うこの学園では、味方になるか、敵になるかの見分けがもう始まっていた。

まあ、ほとんどは、自分に擦り寄ってきたが。

当たり前だと思う。進んで第一王子、将来の国王に向かって反抗するやつなんかいるわけがない。

その代わり、どいつもこいつも、似たようなお世辞に、中身のない話ばかりで一緒にいるのが疲れるばかりだ。


この頃、婚約者であるオルレアとも上手くやり取りができていなかった。

可愛らしかった少女は大人に近づき、美しい女性に変化していった。

同時に、彼女も王妃教育が始まり中々会えない日々を送っていた。

・・・それは言い訳か。彼女は僕なんかよりも・・。


1年経つと生徒会長になり、“小さな国家”を運営するようになった。

貴族は、この頃が華だと言うが、自分にはとても学園生活を謳歌するほどの余裕なんてない。

会長ともなれば右腕となる男も、他の生徒会の仲間もいるが、多忙だ。

自分は不器用な方かもしれない。


「王子、もうお帰りになった方が良いかと。」


右腕であるリンドは心配そうな顔だった。

このところ、休めていない。

学園一代イベントである建国パーティーの運営をしなければならなかったからだ。


「少し外の空気を吸ってくるよ」


外のベンチに座って空を眺める。

先ほどまで青空が広がっていたはずなのに、今はもう夕暮れだ。

自分が帰らないと、他の生徒会の生徒が帰れない。

それはわかっている。でももう少しキリのいいところまで・・・。


「あの!」


驚いて、声のする方を向いてしまった。

名前を呼ばれている訳でもないが、ここには自分しかいない。


声の主は、婚約者とは真反対な女性の生徒だった。

落ち着きがなくて、可愛らしい。

容姿は銀髪にオレンジの瞳。婚約者のオルレアよりも派手な見た目だった。


「第一王子の、ギルフィー様、ですよね!?」


両手を胸の前で合わせ、祈りのポーズと似ていた。

いや、緊張しているのか。

淑女らしからぬ大きな声。

そして、第一王子である僕に、学園にいる誰よりも有名な僕に名前の確認までしてくる始末。

不覚にも、呆けてしまって声が出ない。


「私、退学になりたいんです、お願いします!」


わけのわからない令嬢は、真剣そうな言葉で頭を垂れていた。


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