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学があるということ

お勉強の開始です!!

「セーラ、私の要求が通った。だから図書館へ案内してくれない?」


セーラは、この四歳の少女が発した言葉が、もはや遊びの要求ではないことを知っていた。その瞳には、すでに侯爵家の図書館の蔵書という膨大な情報の海を見据える、探究者の光が宿っている。どこか好奇心で溢れている瞳にじっと見つめられ、背けたくなるが一つ提案しなければならないことがあった。


「もちろんでございます、お嬢様。ですが、ご病み上がりでございますので、まずは必要最低限の書物をこちらへお持ちいたしましょうか。そちらでご体調を整えながら、徐々に……」


セーラは、侍女としての職務を全うしようと、慎重な提案をした。しかしリアは首を横に振った。

「いいえ、セーラ。私が欲しいのは、ここにある知識の全てよ。あなたには、私の専属の家庭教師になってほしいの」

リアは椅子から降りると、セーラの袖をそっと引いた。


「私、知りたいの。この国が、この世界が、どういう仕組みで動いているのか。知らなければ、何も成し得ない。それに、私に才があるのなら、どこまでその力でこの世界に通用するのか、知りたいの」


セーラは、リアの小さな手から伝わる並々ならぬ決意を感じた。彼女は深く一礼する。


「承知いたしました、アメリアお嬢様。図書館へとご案内いたします。このセーラが、お嬢様が求める知識の全てを、余すところなくお渡しいたします」


 こうして、侯爵家の次期当主の妹、アメリア・ペンブルックの、知識という名の最初の特訓が、静かに幕を開けたのだった。

侯爵家の図書館は、リアの想像を遥かに超えていた。羊皮紙とインクの匂いで満ち、それは、単なる書庫ではなく、王立学院の蔵書に匹敵する、知識の宝庫だった。歴史、経済、法、地理、はたまた金箔で彩られた本などかそして教会が禁じる古代魔術の記録まで、だが


「しまった、何もわからない」


そうだ。私今、4歳だった。文系の人間がいきなり大学レベルの原子の本を読まさせられるような、理系の人間がいきなり哲学書を読まさせられるような。要するに単語がさっぱりわからないのだ。文法はわかる。だけど単語が知らないものだらけ。


「セーラ、今すぐ辞書を持ってきて」

「かしこまりました。」


返事に笑いを含みながら、セーラは返事をする。だってわからないなら、単語一つ一つ知って覚えていくしかない。


「こちらでございます」


戻ってきたセーラが持っていたのは辞書ととある教本だった。


「これ、何」

「こちらは庶民向けの学校などで使われる教科書でございます。まずはこちらから進めるべきかと」

「妥当ね」


前世は中学校までは学年5本指をキープしたものだった。少しでも母に褒められたくって。でも高校に入ってからはあきらめた。懐かしい。そういえば勉強だけは好きだった。


「ありがとうありがとうセーラ」


そうだ、まずは地道にやっていくしかないのだ。


「ひとつ提案がございます」


セーラは、そっとリアの様子を伺った。

「なあに」


「アルバート様に教えを乞うてはいかがですか」


「お兄様に?ご迷惑じゃないかしら」


「きっと受けてくださいますよ。アルバート様は学問を愛しておられますし、何よりお嬢様のことを心から心配されておいでですから」


セーラの提案にのり、翌日、早速お兄様に伺いを立てることにした。

翌日、アルビーが私室で文書を広げているところに、リアはセーラに連れられて訪れた。


「お兄様、お忙しいところ失礼します。」


アルビーは優雅な仕草でペンを置き、青い瞳をリアに向けた。その表情は、貴族然とした威厳と、妹への温かい歓迎が混ざり合っていた。


「リア。図書館はどうだい?まさか、もう読み終えたわけではあるまい?」


アルビーは、軽く笑って尋ねた。

リアは素直に答えた。


「それが、全然わかりませんでした。知らない単語が多すぎて、頭に入ってきません。それで、セーラから庶民の教科書をもらって、基礎からやり直すことにしたの」


アルビーは、妹の正直な告白とに少し笑う。だがそこで誰かに教えてもらうという行動に出た妹を密かに評価した。彼は椅子から立ち上がり、リアの目の前に膝をついた。


「そうか。君は急ぎすぎたね。君の努力は素晴らしいが、この世界の言葉と常識という土台がなければ、知識の塔は建たない。それは当然のことだ」


アルビーは、リアの緋色の瞳をまっすぐ見つめる。


「君の最初の勉強に、僕も参加させてもらおう。セーラが家庭教師なら、僕は先生だな」

アルビーは兄としての愛を、この言葉に込めた。


「君がこの侯爵家の知識を学ぶということは、この世界の理を学ぶということだ。僕が毎日、一時間。君の教科書を見てあげよう。わからない単語や、侯爵家ならではの裏の意味を教えてあげる。だが、その代わり、君は決して無理をしてはいけない。いいね?」


リアは、兄の貴族的な優雅さの奥にある、純粋な愛情と理性を感じた。


「はい、お兄様!ありがとうございます!」

リアは、満面の笑みで答えた。


そして、リアの地道な特訓が始まった。朝から昼は礼儀作法、夕方から夜は座学というように。セーラとアルバートを専属の家庭教師として、リアは庶民向けの教科書から貴族向けの教本へと段階を踏み、まずはこの世界の言葉、歴史、基本的な概念を徹底的に頭に叩き込んだ。リアの前世の経験と記憶力は、この基礎学習において驚異的な効率を発揮した。





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