兄の独白
アメリアに紗奈を思い出すまでの話
私の妹、アメリア・ペンブルックはどこか奇妙な子であった。奇妙と言っては語弊があるが、どこかふわふわと浮世離れし、この世界に地に足がついていないかのような子だった。三つの時に、乳母であったエリシア・ロートンを病で失ったからだろうかとも思ったが、それもまた違う。
作り物めいた美しい笑みを浮かべ、自己主張がなく、人形のような子だった。親や私の後ろをついてまわるだけの子供。何かがしたい訳でもなく、かまわずにいたら、何時間もその場で佇んでいるような子。それがどうも寂しくて私は、ありとあらゆるところに連れて行った。お気に入りの川や、裏山。花畑や海沿いの景色。
微睡むような笑み以外が見たくて足掻いても一切動くことなく魅力的なだが生のある者では見えない笑みを浮かべていた。
その日は何度目かの連れ出しで、最近ハマっていた乗馬の様子を見せにきていた。いつも通りただ頷きついてくる。共に、馬に乗ろうとした時、リアがつんのめって転び額を打ち付けた。
その時リアは初めて泣いた。生まれた時や、物心がつくまでの間のような生理的な物ではない。自らの意思で、痛いと本能的な泣き方をした。
その時私は歓喜した。安堵と感動で胸が震えるとはこのことかと。今まで色んな物に触れさせ、色んな経験を積ませたのは間違いではなかった。感動で泣きながらも、痛みで混乱したリアの手を引き、侍女に部屋に連れて行かせ、手当を申し付けた。そのままの足で母の部屋へと押しかけた。リアの心が動いた。この吉報は屋敷中を駆け巡り、その日はお祭り騒ぎであった。
目が覚めたリアは変わっていた。あの作り物めいた笑みは消え、怯えるようになった。何か一つでも自分から離れてしまうのを怯えていた。それでも皆は自らの意思で喋り、動き、笑い、泣く。ただ普通のそれだけのことがどうしようもなく嬉しかった。
後から母から聞けばリアは別の所から女神の導かれた子だそうだ。他の場所で沢山の経験を積みアメリアとなったらしい。ならば今までのはきっと、魂が体に定着するのに時間が掛かったのだろう。それならばしょうがない。今のリアは魔法の適性も見え勉強にも意欲が見える。
きっと今までの経験を元にさらに大きくなるのだろう。どうかその力が破滅へと向かわないように、兄としてできる限りの手助けをしてあげたいものだ。
紗奈はどこかアメリアを愛された娘というフィルターをかけていたことがわかります。