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鏡写し

アメリアついに家族と対面です。10月2日加筆修正

  セーラや他の侍女たちに連れられ、アメリアはダイニングルームへと移動していた。どうやら、私がいた部屋は3階らしい。長い廊下を抜け階段をおり一階のダイニングルームへと向かった。でかい。前に住んでいたのはワンルームの郊外の家で、隙間風が酷かった。実家も特に大きい訳でもないマンションの一室だったため、こんなにでかい家をそうそうまじまじと見る機会はない。家の中を観察しながら緊張を紛らわす。言ってはなんだが、記憶を取り戻してから一回目の対面である。


(まずは一人ずつ対面したかった)

 

 そうぼやいても仕方ない。扉の前で少し深呼吸を一つ。セーラに目配せをし、開けてもらう。

重厚な扉を開けるとそこには日差しが入り込み広々とした空間があった。長くやたらと

艶々としたテーブルがあった。そこには椅子が四つ並べてあり、一つ以外にはもうすでに座っているものがいる。その一番奥、侯爵家の当主の席に座るのは父、ライオネル・ペンブルックだ。アメジストブロンドの髪に青い瞳。柔和な笑顔で私を見つめている。彼の隣には兄のアルビー。6歳の彼は、父と同じ髪と瞳の色を持ちながらも、どこか母譲りの冷徹な面立ちで私を見ていたその前に座るは、母、ベアトリス・ペンブルック。ルビーブラウンの髪と、私と同じ緋色の瞳が、私を見つめて安堵に細められていた。

彼ら三人の視線が、私だけに注がれていた。その視線には、前世で私が誰からも向けられることのなかった、純粋な愛情と深い安堵が満ちている。


「おはようございます。お父様方。」


記憶通りに挨拶をし、母の隣の椅子をメイドに引いてもらい腰掛ける。セーラは後ろに控えた気配があった。


「おはようリア。無事に熱が引いたようで何よりだ。」

記憶通りの穏やかな笑顔を父は私に向ける。


「ええ、ほんとに。この人ったらもう少し帝都にいるはずだったのに慌てて帰ってきたのよ」


母が少し揶揄うような笑みを父に向けながら声に安堵を滲ませゆっくりと私の頭に触れる。


「本当に、よかった。あなたが頭をぶつけたと聞いて母はすごく肝が冷えました。アルビーったら半泣きで私の部屋に駆け込んできたのよ。」

「お母様、それは言わないって約束だったはずでしょう!」

「あら、そうだったかしら。でも妹を案じたというのは恥ずかしがるものではなくてよ」


 そこには私の知らない家族があった。いやアメリアは知っているはず。アメリアなら無邪気に会話に入って年相応に親に甘えながら無邪気に話していたのだろう。羨ましい。だが紗奈は違う。朝、起きたら家にも誰もいない。適当に置かれている菓子パンを食べ小学校に行き、帰ってからは母が帰ってくるまでは簡単な家事をし晩御飯は父にお酒が入ってないことを願う。会話なんて生まれない。母であるより、女であることを選んだ人。家族を理解せず、一人気ままに遊ぶ人。これは本来アメリアに向けられるはずのものだ。紗奈には向けられるものではなかった。紗奈はこれを知らなかった。どう受け答えすればいいかを私は知らない。その優しさに触れていたい。でも返せない。返事の返しに迷い、視線がうろつく。母の顔が心配に満ちていくのがわかった。


「リア?どうかしましたか。まだ体調がすぐれませんか」


そっと母の手が私のデコに伸びてくる。その手がどうしてもあの手に見えて身構えてしい、咄嗟に払う。


「リア…?」


どこか不思議そうにそして悲しそうな顔を母は向けてくる。最近あった話題で盛り上がっていた兄と父も案じるかのように見えた。


(違う!!そうじゃないそんな顔を向けてほしい訳じゃない、そんな顔してほしい訳じゃない)


 胸が苦しくなってどうしても悲しくなる。返せない。私はアメリアみたいに笑顔も何も返せない。この愛に報いることができない。


(どうしたらいい)


急に路上に放り出された迷子のような気持ちになる。この場にいたらますます不審がられてしまう。


「ごめんなさいお母様。まだちょっと頭が痛いみたいです。お部屋で休んできます。」

「そうか。私は後期の会議があるからこの後また帝都に帰らねばならない。リア、体調管理を怠らないように」

「そうだよ、リア。何かあったら呼んでくれ」


父に続いて兄もそう言葉をくれ、私は退席した。帰りはセーラが私が頭が痛いと言ったため、抱き抱えて部屋に連れて帰ってくれた。どうしたらいい、本当に私はこんなの知らないのに!!緊張から解放され本当に頭がガンガン痛む。


どうしようもない鬱屈とした感情を抱えながら、ベットに倒れ込み枕に顔を埋める。


「アメリア様。頭が痛いのはわかりますが、まずはリラックスできるように着替えましょう。」


 何を思ったのかセーラは朝は二、三人で着替えさせていたのを一人でこなし始めた。そっと髪を解きスカートを外しブラウスを脱がせスリープウェアに着替えさせ、そっと寝かせてくれた。少し逡巡する様を見せたからセーラは口を開く。


「アメリア様。私は侍女でございます。アメリア様付けのアメリア様のための侍女でございます。もし何か悩み事などがございましたら存分にご相談ください。」


セーラは使用人だ。だからもし今話したらきっと、両親に伝わるだろう。でもどうか相談相手が欲しい。心が、記憶はセーラに秘密として話したいと願っていた。


「ねえセーラ。もし仮に、仮の話よ。ある日全くの知らない人になっていて、その家族が自分じゃ返せないものを家族がさしだしてきていて、それがすごく怖くなってしまったらどうする?」


朝食の場を思い出したのだろう、セーラは少し迷いながら言葉を発す。


「私ごとの話をしても構いませんか」


軽く頷き続きを促す。


「私は庶子でございます。父はロートン家の当主ではございますが、母は商家の娘でございました。義母様がロートン家の血を外に流すのはいかがなものかと引き取っては下さりましたが、愛人の娘には少々肩身が狭くありました。」

「そんな中その家の長女のエリシア様、お姉さまが目をかけてくださいました。それは何時の時か、お姉さまに勉強を教わっている時に聞いてみたことがあるのです。」


懐かしそうに、セーラは目を細める。


「どうして目をかけてくださるのかと。

ただ無邪気にお姉様はこう言いました。お母様がそうしてくれたからと。そしてあなたと仲良くしたいからと。私はこう返しました。私はあなたに愛を優しさを返せないと。お姉様は、『どうして』と言いました。どうして返そうとするのと。私が勝手にあげたものだから返さなくていい、あなたが笑っていてくれるならそれでいいって。」


セーラはいつも大人びていた。そんなセーラが少女めいた表情で穏やかに笑っていた。


「お姉様は愛されていた。そしてその愛を人に差し出せる強さを持っていた。その時私はこう思ったのです。何があっても私はお姉さまの味方であろうと、この先何があってもそばにいようと。」


そっとセーラは私に視線を向けてくる。


「返せなくてもいいのです。愛とはただ受け取るだけでいいのです。」


セーラの手がそっと髪に伸びてくる。ゆっくりと撫でながらセーラは囁く。


「覚えていますか、私の姉エリシア姉様は貴方の乳母だった人なんです」


ええ覚えている。アメリアの記憶にしっかりと。柔らかく撫でられるて温かい子守唄。


「貴方様が何に怯えているかはわかりません。ですがどうか姉様は貴方を愛していたことをできれば知っていてください。最後の時まで」


そうだ、そうだった。優しいあの手はいつの間にかいなくなっていた。アメリアはいつも迷子だった。ずっと眠っている様な感覚で、兄が色んなところに連れて行ってくれても、何もできなかった。捨てられるのが怖かった。何も感じなかった。だから紗奈が起きたのだ。愛してくれた人の、絶対的な味方の喪失、愛してくれる人がいない無情感。アメリアも紗奈も愛の受け取り方がわからなくなっていたのだった。だから『愛』が怖かったのだ。笑み以外の返し方を知らなかった。

今回はアメリアと紗奈の共通点の話です。どちらも安全基地がないんですよね。

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