第11章 それぞれの愛の形
それから半年が経った。
私は高校3年生になって、進路のことを真剣に考えるようになった。
「ウェブデザインの専門学校に興味があるんです」
進路相談で先生にそう伝えた時、自分でも驚いた。でも、きっとこれは偶然じゃない。お父さんの影響だと思う。
ISAMUさんとして出会った時から、お父さんのウェブデザインの仕事の話を聞いて、なんとなく興味を持っていた。クリエイティブな仕事で、人を幸せにできる仕事。
私もそんな仕事がしてみたい。
配信も続けている。今では結構有名になって、たくさんの人が見に来てくれる。でも、私にとって一番大切なのは、あの短いコメントをくれる人。
きっと今日も見てくれている。
「皆さん、私事ですが、将来はウェブデザイナーになりたいと思ってます!」
配信で発表した時、チャット欄が一気に盛り上がった。
「すごい!」「頑張って!」「応援してる!」
そして、いつもの短いコメントが流れた。
「素晴らしい選択だね。きっと素敵なデザイナーになれるよ」
私の目に涙がにじんだ。お父さん、喜んでくれてる。
母さんにも報告した。
「ウェブデザイナーになりたいの」
「あら、お父さんと同じ仕事ね」
「うん。偶然じゃないと思う」
母さんは優しく微笑む。
「きっと、お父さんも喜んでるわ」
「お母さん、お父さんのこと、まだ愛してる?」
突然の質問に、母さんは少し驚いたような顔をする。
「愛してるというか…今でも大切な人よ。結衣のお父さんだし」
「私も、お父さんのこと愛してる。恋愛的にじゃなくて、家族として」
「結衣…」
「お父さんは、私のことをずっと見守ってくれてたの。気づかないように、遠くから」
母さんの目が少し潤んだ。
「そう…らしいわね、あの人」
「いつか、普通に『お父さん』として会えるかな」
「きっとね。でも、今はまだその時じゃないのよ。お父さんも、結衣も、それぞれ成長が必要な時期なの」
母さんの言葉が、胸に響いた。
そうだ。今はまだ、遠くから見守ってもらう時期なんだ。そして、私が本当に大人になった時、きっと普通に会えるようになる。
それまでは、この形の愛で十分。
私は幸せだ。
お父さんの愛を感じながら、自分の道を歩いていこう。
そして、いつかお父さんが誇りに思ってくれるような、素敵な女性になろう。