第10章 新しい始まり
それから1ヶ月が経った。
ISAMUさんは本当に来なくなった。でも、時々、知らないユーザー名で簡潔なコメントが流れる。きっとお父さんだと思う。
匿名の贈り物も来なくなった。
でも、私は悲しくない。
お父さんは、ずっと私のことを愛してくれていた。遠くからでも、見守ってくれている。それが分かっただけで、私の心は満たされている。
私が感じていた「恋心」は、確かにお父さんが言った通り、父親の愛情を求める気持ちだったのかもしれない。でも、それに気づけたことで、私は一つ大人になれた気がする。
「結衣、最近すごく大人っぽくなったね」
美咲に言われて、私は微笑む。
「そうかな?」
「うん。なんか、前より落ち着いてるし、優しくなった気がする」
確かに、私は変わった。ISAMUさん…お父さんとの出会いを通して、愛にはいろんな形があるってことを学んだ。
恋愛だけが愛じゃない。
家族の愛、友達の愛、見知らぬ人からの優しさ。そして、遠くから見守ってくれる人の愛。
私は配信を続けている。以前より自然に、楽しく話せるようになった。きっと、心に安定した愛情があるからだと思う。
「今日も見てくれてる皆さん、ありがとうございます!明日もまた、楽しい時間を過ごしましょうね」
配信を終えると、チャット欄に「お疲れさま」のコメントがたくさん流れる。その中に、いつものように短いコメントが一つ。
「今日も素敵な配信だったよ」
新しいユーザー名だけど、この温かい感じ。きっとお父さんだ。
私は画面に向かって小さく手を振る。
「お父さん、今日も見てくれてありがとう」
声には出さないけど、心の中でそうつぶやく。
お父さんは気づいてくれるかな。きっと気づいてくれるよね。