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薬草摘み

宗庵は包帯を縛りな直しながら、木箱の中の薬草を確かめた。

そこに残るのは、茶色く乾いたユキノシタが数枚、そして匂いの薄れたドクダミの切れ端ばかり。


「これでは持たぬな,,,...」


付きっきりの看病も3日目の朝になっていた。

宗庵は額の汗をぬぐい改めて薬草の有無の状況を確認する。


「さすがに鮮度が落ちてきたものもある。それに貴重な蜂蜜も少ない....」




すると眠り眼のあやめが扉を開け挨拶してきた。


「宗庵先生、おはようございます。五郎左さんの容態はどうですか?」


先生は正直やめてほしいと思ったが、宗庵は丁寧にあいさつをするあやめに感心しつつ頼みごとをする。


「おはようあやめ、いいところに来た。私は薬草を取りに少し離れたい。看病を代わってくれるか?」


宗庵の発言に驚いたようにあやめが返す。



「私一人で看病を!?」



飛び跳ねる魚に驚く猫のようにぴょんっと後ずさりし、まだ夢の中の五郎左へ目を向ける。


「頼めるか?」


拒否権のないような問いに呆然とするあやめ。


「なに、やることは変わらぬ、定期的に包帯を変え薬を塗り膿が出ていないか確認するだけだ。薬の予備はここに調合してある。褒美にこの粥も食べていいからな。」


一瞬ためらいを見せたが食欲をそそる香りの粥の誘惑に負けあやめは渋々引き受けたのだ。


「はい、責任を持ち診ております」


あやめの言葉を信じ宗庵は革袋と小刀、木箱を身に着け納屋を出る。村の端まで行き山道へ入る。



山道を急ぎ湿地の匂いが強まる谷筋へ進むと、そこはまさに理想の薬草畑のような草むらであった。

宗庵は思わず声を上げる。


「おぉ、これはしめたっ」


まず目に入ったのは、反日陰に群れを成すドクダミ。


白い花びらのような包葉(ほうよう)を四枚広げ、その中心に黄色の穂を突き出している。

芋の葉のような形の特徴的な葉を摘むと、鼻を突くような独特の匂いが立つ。

摘んだ葉からぬめりが指先へ移りやや不快な気持ちになるが、仕方がない。


そこからさらに山側の岩陰(いわかげ)を探る。小さなきれいな水が流れる沢を横目に詳しく岩陰を注視する。


そこにはユキノシタがしっとりと葉を広げている。

フキの葉を小さくしたような葉の裏は、赤紫に色づき柔らかく水を含んでいる。


その花はまるで蝶の羽のように広がる白い花が風に揺れ、ひっそりと清らかさを漂わせていた。


「みごとなユキノシタだ」


火であぶり幹部へ貼れば腫れを鎮め、生葉を両手で搗けば熱を引かせる効能が出る。



「よしこれでしばらくは大丈夫だ」


付近を見渡し急ぎ村へ戻る。

その道中踏み固められた小道にオオバコが放射状(ほうしゃじょう)に葉を広げているのを見つけた。

葉に五本の筋がくっきりと走り、どれも厚みがあり立派であった。


宗庵はそれを摘み匂いを確かめる。


「うむ、これも良いものだ」


オオバコは兵たちがよく使う薬草で揉んで傷口に当てると止血効果がある。

宗庵はオオバコを木箱に入れ再び村へ向け歩み始めた。


村に入る手間の日当たりの良い土手

村を出る時には気が付かなったがそこにには銀色に裏葉を揺らすヨモギが群生していた。


葉を揉めば清涼(せいりょう)な香りが立ち、止血や殺菌に役に立つ


「こんな近場におったか、いやいや助かった」


宗庵が嬉しそうにヨモギへ話しかけ無慈悲(むじひ)に摘み取る。



ついでに生えていたノビルを見つけ引き抜き、隠すように胸元へしまった。




宗庵が嬉しそうに薬草を採取し小屋へ戻ると、あやめが汗ばんだ額を布で拭いながら必死に五郎左の包帯を巻き直していた。


「戻ったぞ。おぉ、あやめ良い子だ、よくぞやってくれた。」


必死に看病をしたあやめをねぎらう。



「んん....」

かすれた声で五郎左は目を覚ます。


「五郎左さんおはよう、気分はどうですか?」

あやめは五郎左の顔を覗き込む。


宗庵も駆け寄り話しかける

「五郎左、気分はどうだ?」


「すこぶる楽になったよ、痛みはあるが苦しさはない。それに熱も引いたようだよ」

五郎左は安心したように腕を伸ばし一息ついた。


「宗庵様もあやめ殿にも世話になった。」


あやめは寝起きの五郎左に白湯を渡す。

五郎左は白湯を一口啜り「あぁ~」と渋い声を上げる。


「そういえば俺が運んでいた荷物はどうした?ちゃんとあるのかい?」

少し焦りを感じる声で声をかける。


「あぁ、運んでいた荷物はここの村の人たちがちゃんと回収して保管してある」

宗庵が落ち着かせるように優しく諭す。


「あぁ、よかった久しぶりに日立(ひたち)(くに)まで行って買ってきた大事な荷物だったんだ。」


「ほぉ、日立まで、それはずいぶんと気合が入ってるな」

ここは中東北(なかとうほく)辺り、日立の國は関東の太平洋側でかなりの距離がある。



「あぁ、あの荷物は田村様(たむら)にぜひとも見てほしい、それだけの価値がある荷物だ」


あやめは思わずびくっとしたような表情で話す。


「田村様っ!?それはずいぶんな品なんだね!村の皆にきちんと補完するように伝えなきゃ」


そういうと慌ててあやめは納屋を飛び出した。

田村という名前に聞き覚えがあるような内容な疑問が浮かんだが、後で聞けばよいだろうと宗庵はとりあえず話を進めることにした。



「そうか、ちゃんと保管してくれてるんだな、村の人たちにも感謝しなきゃならねぇな」

五郎左はニカッと笑い宗庵を見た。



外では鳥のさえずりが響き、そよ風が木々を揺らし、煌々と太陽がきらめき生き生きと時間が生命に満ちているように感じた。





「........一つの命が助かったか」


宗庵は己の使命をやり遂げた実感を感じた。



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