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 朝の校舎は、まだ薄暗く静まり返っていた。

 窓から差し込む光はやわらかく、ゆっくりと教室を照らしていく。

 僕は教室の隅の席に座り、今日の授業の準備をしていた。


 美琴もすでに教室に来ていて、ノートを整理している。

 彼女の動きはいつも落ち着いていて、見るだけで安心感があった。

「おはよう、翔。今日は少し早いね」

 彼女の声が耳に優しく響く。


「うん、ちょっと気持ちを整えたくて」

 僕はそう答え、彼女の微笑みに少しだけ心が軽くなった。


 窓の外では、風に揺れる木々の葉が金色に輝いていた。

 秋の深まりを感じながら、僕は今日の予定を頭の中で反芻した。


 授業が始まると、先生の話に集中しようとするけれど、心はどこかふわふわしていた。

 昨日の舞台の余韻と、これからのことへの期待と不安が混じり合っていた。


 昼休み、美琴と一緒に校庭を歩きながら、僕は自分の気持ちを少しずつ話し始めた。

「演劇、楽しかった。でもやっぱり緊張してしまって」

 美琴は笑って「それは誰だってそうだよ。翔が頑張ったことが大事なんだよ」と優しく励ましてくれた。


 その言葉に、僕は素直に感謝の気持ちを伝えた。

「ありがとう、美琴。君がいてくれて本当に助かってる」

 彼女は少し照れたように目を伏せ、でも嬉しそうに笑った。


 午後の授業が終わる頃、僕たちは図書室に向かった。

 静かな空間で、本の匂いが鼻をくすぐる。

 僕は将来のことや、自分の夢について少し考えてみた。


 まだはっきりとは見えないけれど、何かを掴みたい、成長したいという気持ちが胸の中で膨らんでいた。

 美琴も同じように真剣な表情で本を読みながら、時折僕に視線を送った。


 その瞬間、僕はこの時間がとても大切に思えた。


 夕方になり、学校のチャイムが鳴った。

 帰り道、僕と美琴は並んで歩きながら、今日の出来事を話していた。


「翔、最近すごく変わったね」

 美琴がぽつりと言った。


「変わった?どういう意味?」

 僕は驚きと少しの期待を込めて聞き返す。


「前はもっと自信なさそうだったけど、今は前向きで、堂々としてる」

 彼女の言葉に胸が熱くなった。


「それは美琴のおかげだよ。君が支えてくれたからこそ、僕は頑張れる」

 僕は真剣なまなざしでそう伝えた。


 歩きながら、僕たちはこれからの目標について語り合った。

 舞台で輝きたい、もっと表現力を磨きたい、そして将来の夢を見つけたい。


 その話の中で、僕は初めて将来の自分のイメージが少しだけ具体的になった気がした。


 家に帰ると、母が夕食を準備して待っていた。

 疲れた顔を見せないようにしながら、僕は今日のことを簡単に話した。


「翔、無理しすぎないでね。でも応援してるよ」

 母の言葉は暖かくて、僕の心にそっと染み渡った。


 夜、ベッドに入ると、今日の出来事がゆっくりと蘇った。

 明日もまた、新しい一日が始まる。


 どんな困難があっても、僕はもう一人じゃない。

 そう思いながら、僕は静かに目を閉じた。

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