第6話:演じ続けることに、迷いはない
神殿の回廊は、静かで、冷たい。
荘厳な石柱が並び、天井には神聖な紋章が刻まれている。
まるで、自分が本当に“聖女”であるかのように錯覚してしまいそうな場所。
「──この子の足が……!」
群がる人々の中、わたしは膝をつき、小さな子どもの足に手をかざした。
光がこぼれ、治癒の魔力がゆっくりと傷を包み込む。
そして、子どもが「もう痛くない」と笑えば──
「……神の奇跡だ」
「これが聖女か……!」
拍手と歓声、賛美の声が響き渡る。
そう、これこれ。これが欲しかった。
このイベントの目的は、「民衆人気」の強化。
王子や貴族層だけじゃない。広く“愛される”ためには、こういう地盤も必要。
そして視線を上げれば──いた。
少し離れた柱の陰から、クロエがこちらを見ていた。
沈んだ瞳。何も言わず、ただ見ている。
……予定通り。
このイベントでは、クロエが“聖女への違和感”を覚える描写が入る。
でも、それは“嫉妬”という形で表面化する。
やがてそれが噂になり、「聖女に敵意を持っている」という印象を周囲に植え付ける。
「ユリア様、お見事です」
そう声をかけてきたのはルシアン様。
わたしは笑顔で振り返り、柔らかく頷いた。
「……この国の未来のために、できることをするだけですわ」
自分でも驚くくらい、板についてきた。
聖女らしい言葉遣い、仕草、声のトーン。
演じている、なんて言葉じゃ足りない。
もうこれは、わたしの“本当の姿”になりつつある。
だって、それがこの世界で“生き残る”ってことだから。
「……クロエ様」
わたしは、わざとらしく名前を呼び、視線を向ける。
クロエは何も言わず、静かに一礼してその場を去っていった。
それでいい。今はまだ、そのままでいて。
あなたは、わたしの勝利の演出に必要な“悪役”。
断罪の鐘が鳴るその日まで、どうか──
静かに、そこにいて。