第2話:すべてはチュートリアル通りに
廊下を歩く足音が心地いい。
今のわたしは、この世界の主役。
侍女たちは一歩後ろをついてきて、誰もが「聖女様」と口をそろえる。
(うんうん、いい感じ。この感じ、この展開)
今日のイベントは「王への謁見」。いわばチュートリアル。
ここを無難にこなせば、第一王子ルシアン様の注目度が初期状態より高くなり、クロエとの因縁イベントの伏線も立つ。
……ふふ、完璧すぎて笑っちゃう。
「──聖女ユリア・フォールン、謁見に参りました」
謁見の間に足を踏み入れ、所作を整える。
高い天井、緋色の絨毯、左右に並ぶ家臣たち。
すべて、わたしが“知っている通り”。
玉座に座るのは、王。そしてその傍に──いた。
第一王子、ルシアン=サフィラ様。
柔らかい金髪、真紅の瞳、清廉でいて威厳に満ちた顔立ち。
その目がわたしを捉えた瞬間、心臓が跳ねる。
(きた……ルシアン様……っ!)
わたしは視線を伏せ、聖女らしく微笑む。
「この身に宿る神の声が、王国に祝福をもたらしますように」
場に静寂が訪れる。
そして、ざわめきが広がる。
「……神託だ」「ついに、聖女が……」
誰もが、わたしを“聖女”と認める空気に変わる。
(よし……これで好感度+5)
顔を上げると、ルシアン様が微笑んでいた。
その笑みが優しいのか、それとも形式的なのか。
わたしはまだ知らない。
でも、これから知ればいい。わたしが、選ばれるようにすればいい。
この世界のフラグは、わたしがすべて──折って、立て直す。
全部、"正解ルート"にしてみせる。
(そう、最終的に愛されて、クロエを断罪して、王子と結婚して、王国に祝福されて……)
(それが、わたしの“勝利”)