第16話:聖女の、終焉
全ては、完璧だった。
王子の手を取り、群衆の前で微笑む。
神託を告げる聖女として、民の称賛を浴びる。
悪役令嬢は玉座の間で跪き、すべてを失い、断罪され──物語は、幕を下ろす。
これこそが、“正しい結末”。
乙女ゲーム『聖なる刻のロゼリア』。
その正ヒロインとして転生したわたし、ユリア=フォールンが選び取った、唯一の勝利。
──だから、もう何も考えなくていい。
努力はすべて報われたし、フラグはすべて管理された。
これ以上、誰かの不安な視線に怯える必要もない。
わたしは、
ようやく、ヒロインになれたのだから。
* * *
──それから、どれほどの時間が経ったのだろう。
深い闇の中で、意識だけが漂っていた。
声もない。感情も、温度もない。
あるのは、静寂だけ。
“あの瞬間”で、すべてが終わった。
そう思っていた。
でも──違った。
どこからか、かすかな光が差し込む。
それは、記憶の残滓。断罪された少女の、泣き声。
王子の背に感じたぬくもり。
そして、“物語”という枠組みに、自ら収まろうとした自分の、歪な微笑み。
わたしは、それらを“客観的に”眺めていた。
奇妙な話だ。まるで、他人の演技を見るように。
まるで、“あれ”は、本当のわたしではなかったように。
──気配が、変わった。
どこかで、別の“物語”が始まる気配。
新しい声が、世界を呼び起こしている。
わたしは、もう舞台にいない。
でも、“彼女”は立っている。
王子の隣に。王の目の前に。
そして、“あの悪役令嬢”と、再び対峙しようとしている。
──いいわ。
今度は、あなたが“真実”を暴く番。
どうか見せて。
あの舞台で、“悪役令嬢”が何を想い、何を選び、どんな“答え”を出すのかを。
ユリア=フォールンは、微笑む。
闇の中で。静かに。もう決して戻らぬ舞台に、そっと手を振りながら。
そして、物語は続く──
ここまでお読みいただきありがとうございました。
わたし、"ユリア=フォールン"の物語はいかがでしたか?
でも――これで終わりじゃありません。
この物語は、わたしの前の"ユリア"が紡いだモノだから――
『2周目の悪役令嬢は、転生ヒロインを見逃さない』
第一話「わたくしはまだ、終わっていない」
―この続きは20:40に全編公開されます―