第12話:断罪の、口火
城の中庭。昼下がりの陽光が静かに石畳を照らしている。
わたしは、そこに立っていた。王妃候補としての“公開面談”。
目の前には、数十名の貴族たち。そして──
クロエ=オルディア。
「では、クロエ嬢。あなた自身に問います。
第一王子との婚約は、継続の意志がありますか?」
問いかけたのは、宰相だ。王も王子も沈黙している。
この場は“儀式”。形式的な確認。
わたしが描いた通りに進んでいる。
クロエは、ゆっくりと顔を上げた。
「その前に──一つ、告白したいことがあります」
……は?
シナリオにない。何のフラグも立っていない。
このイベントの分岐先には、そんな選択肢、なかった。
「私は……数ヶ月前より、神殿の聖職者と密かに接触しておりました」
ざわめきが走る。わたしの視線が、一瞬で鋭くなる。
「本来なら、貴族としてふさわしくない行動です。
ですが……そのとき私は、“神の声”を聞いたのです」
心臓が、ドクンと跳ねた。
「“偽りの聖女に、王妃の座を譲ってはならない”──と」
会場が凍りつく。
嘘だ。そんなイベント、存在しない。
彼女はただ、無抵抗のまま“退場”するはずだった。
「クロエ=オルディア!」
怒鳴ったのは、わたし。
「その発言は、王命に背く行為。
神の声を語るのは、唯一、聖女であるわたしだけです!」
「……そう。なら、神殿での“審問”を受けるべきね」
にこやかに、クロエは笑った。
その笑顔は、どこまでも静かで、どこまでも真っ直ぐだった。
予想外のルート。ゲームには存在しない、イレギュラーの流れ。
でも──わたしは、負けない。
これは、ただの分岐。異常ではない。
“正しいヒロイン”は、どんなルートでも勝つようにできている。
わたしが選ばれし、ユリア=フォールンなのだから。
次の一手は、わたしが握っている。