進み出す時間と隠せない気持ち
本当に、あなたはよく働くわね?
シュラーフ様が国王に就任して以来、忙しいなんて言葉じゃ表せないほど、慌ただしい毎日を過ごしている。
朝から、アルツト医局長(アル爺)に呼ばれて医局へ向かう。
「おはようございます。何か御用があると伺いましたが」
アル爺は、沢山の資料の中から
「ケルナー、ちょっとこっちに来てくれんか」
呼ばれるまま、近寄ると
「ケルナー、お前さん、ゼーネンの話はルリちゃんから何か聞いたかの?」
ゼーネン?何の話だ
「いえ、特には、私自身も彼とは余り接点がありませんので」
お互い認識してはいるが
私は、セリナと話をするゼーネンを見る
何か問題でもあるのだろう
「ゼーネンはな?ずっとルリちゃんが好きだったはずなんじゃ、なのに最近、仕事ばっかりする様になってな、何か知らんか?」
アル爺はゼーネンが心配な様だが
「仕事に、何か差し支えがありましたか?」
必要なら話を聞くべきか
「逆じゃ、物凄く良く働くし、見違えるほど知識も増えたんじゃよ。今までは、能力はあるのに、全くやる気がなかったんじゃ」
ああ、だからルリと
何かあったんじゃないかと考えたのか
「彼に直接、尋ねればいいのでは?」
アル爺は、顔を顰めた
「わしが、ゼーネンにルリちゃんを勧めたんじゃ。ダメじゃったろ?ちょっと責任を感じてな?聞きにくい」
ルリの話題は気不味いのだろう。
「では、私がお伺いしましょうか」
私も、把握しておきたいので・・・
アル爺は、ニカっと笑って、ゼーネンの元へ歩いて行き、彼の仕事を取り上げた。
ゼーネンは困惑しながらが
アル爺と変わりこちらへやって来た。
「あの、何かありましたか?」
ゼーネンはいきなり呼びつけられて、
意味が分からないのだろう。
当然だ。私もやり難い
「ゼーネン、王子の専属医から外れましたが、仕事の調子はいかがですか?」
彼はあの時、かなり苦労していた
「あぁ、その事か、お陰様で絶好調だよ。理不尽は無いし、ちゃんと眠れるし、これもルリさんのおかげですね」
ゼーネンは、穏やかな表情でそう語る
「ルリのおかげとは?彼女とは何か?」
アル爺の知りたい話だな
「ルリさんのおかげです、バカ王子が捕まりました。彼女は私の救世主ですよ。ま、振られちゃいましたけど」
ゼーネンは笑顔でスッキリしている。
彼は本当にもう諦めたのだろう。
「そうなのですか?知りませんでした」
——-嘘だ。
ベーレンから既に聞いている。
「今は、彼女とは、薬草好きの仲間です。それに、ありがたい事に、毎日の医療の仕事が楽しくて。やっとちゃんと仕事が出来る」
真っ当な理由だった。
アル爺がこちらを見ていたので、
ゼーネンからは見えない位置で
親指を立て、大丈夫だと知らせ部屋を出た。
次は、シュラーフの仕事の使いの為に、
軍事部に居るベーレンの元へ向かう
「ベーレン、シュラーフから書類を預かっています」
ベーレンの執務室に入ると、
彼は大きな体を丸めて、書類と格闘している
「何?また、書類か?クソ、だから騎士団長なんか、やりたくなかったんだ」
国王となったシュラーフは、
あちこちにある不正を次々と粛正して歩く。
その都度駆り出される軍事部は
粛正済みの報告書だらけだ。
「まあ、そう言わずに頑張ってください。これは、追加の粛正要請です。サインしてください。控えをお渡しします」
目の前に、追加の依頼を置いたら
"ゴンッ"
と、ベーレンは机に頭を打ちつけ
そのまま、書類も見ずにサインをした
「・・・パフェ食べに行きたい」
ベーレンの心の声が漏れている
「私も、カウンターでゆっくりハーブティーが飲みたいですね」
釣られて溢すと
「なぁ、ケルナー、お前やっぱり・・・いや、何でもない。とにかく、全て終わらせたら、いつもの3倍じゃなく5倍パフェだ!」
ベーレンは、言いかけた言葉を飲み込み、パフェへの熱で、乗り切るつもりの様だ
–––––コレは、気付かれてますね
ベーレンにまで、見抜かれていた事に
ちょっと、落ち着かない気分になり
サインは既に貰ったので
さっさと退散する
———思っていた以上にハマってますね
自分の中にしまってあった筈の気持ちが
ふとした拍子に暴れ出す
———仕事しよう
暴れ出した気持ちを押さえつけ
箱に詰め込み、紐でぐるぐる巻きにする
そんな気持ちになりながら
執務室に戻る途中
「ケルナー、ちょっとこっちに来て」
ペリル様にに遭遇した。
「ペリル様、どうかされましたか?」
手招きされたので、近寄って行くと
「ちょっと、込み入った話がしたい、ケルナーの家はどこ?」
と、聞かれた。
「は?家ですか?」
この人、何考えているんだ?
「目を閉じて、自宅を強く思い浮かべて?」
よく分からないが、とりあえず目を閉じて
言われたまま自宅を思い浮かべたら
「あ、行ける」
と、聞こえたと同時に、
体がグニャっと歪んだ気がした
驚いて目を開けたら
———自宅に居た
ペリルは既に、椅子に座っている。
マイペースな人だ
「ペリル様、転移されるなら一言教えてください。驚きました」
とりあえず、注意をしたが
「ケルナーなら大丈夫かなって。あ、転移の事は秘密ね?身内しか知らないから」
私はグッと体に力が入った
いつのまにか、身内にカウントされていた
「畏まりました。ところで、お話とは?」
ペリル様も、討伐後だし、
本来なら、かなり仕事が忙しい筈だ
「シュラーフは、国王になるのに、まだ独身なの?」
は?何の話だ?
私はペリル様に、お茶を出しながら迷った
何の意図があるのか、さっぱりわからない
「今のところ、気配は無いですが・・・」
縁組の斡旋だろうか?
「実は、僕の妹が多分シュラーフの知り合いみたいでね?」
妹?居るのか?
「ペリル様に妹が?知りませんでした。もしも、縁組なら、多分お断りされるかと」
シュラーフはずっと片想いをしているから
「ふーん、何で?」
どうする?嘘を言ったら、すぐバレる。
身内と言われた言葉を信じるか?
「内密に出来ますか?私しか知り得ない話です。貴方には味方でいて欲しい」
緊張しながら確認すると
「ケルナーなら、信用出来そうだから、大丈夫だよ」
ペリル様は柔らかく笑った
「シュラーフ様は、国に戻る前は魔道具師として、働いていました。その頃共に仕事をしていた女性に片想いをして」
あの時は幸せそうだった
「立場が邪魔して、踏み込めませんでした」
戻る時、かなり辛そうでした
「ケルナーはその時は?ついて行ったの?」
ペリル様は、首を傾げた
「私は、学生の頃以外は、王宮とシュラーフ様の元を、行き来していました。身分を明かす訳には行かなかったので」
お陰様で隠密行動が上手くなりました
「ケルナー、相手は誰だか知ってる?」
ペリル様は、いきなり相手の追求をする
「確か、平民の女性で・・・養子先は・・・」
ちょっと待て、確か
「アウスヴェーク家だよね?シュラーフの片想いの相手ってアルゼだよね?」
私はびっくりして、ペリル様に
「義妹ですか?」
と、尋ねたら
「違うよ、異母妹、ちゃんと僕の妹だよ」
私の目の前に、救世主が居る。
そんな気持ちになりながら
「ペリル様にご相談があります」
シュラーフ様の願いを叶えたい。
———私が必ずフォローします
私はペリル様と、
ある計画を立てる事にした
「・・・よろしくお願いします」
私が感謝を込めて頭を下げたら
「ケルナーも、自分の幸せを考えたらいい。皆が幸せになる事を、チャコが望んでるからよろしくね?」
そう言って、フッと目の前から消えた
せめて、城まで送って欲しかった
実は、シュラーフはペリルの実家の魔道具店で魔道具師として長らく働いていました。
その時にアルゼと知り合い、彼は年上なのと、自分の血筋の為に一歩引いていました。
アルゼは、シュラーフの直属の後輩でした
次回、甘いお茶会にも苦味がある です
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