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大人は色々複雑ですからね 

大人だから仕方がないわよね?

シュラーフ様の発言に

私は思わず頭を抱えたくなった。


「シュラーフ様、夫婦扱いは、私は構いませんが、トーコに失礼です。謝ってください」


シュラーフ様を見つめ目を細めると


「ごめん?いや、なんて言うか、2人のやりとりが"娘を思う父母のやり取り"に見えたからつい・・・」


シュラーフ様は揶揄ったわけではなく

純粋に感じ取ったのだろう。


「あら、だったら間違ってはいないわよ?だって、ケルナーは、瑠璃を娘だと思って居るものね?」


トーコは肯定した後、私に話を振って来た


「確かに"父母としての会話"はしていましたね」

認識に間違いはないので、私も肯定した。


「ん?なら夫婦で良いのでは無いか?」


シュラーフ様は混乱したのか、

眉間に皺がよっている。


「シュラーフ様、夫婦は違います。父母でお願いします」


夫婦はトーコと私の

2人だけを表すことになってしまう。


父母だと、そこにルリがいて

初めて成立する。


だから、私とトーコを表すのは父母だ


夫婦は、トーコは望まない





「それよりもシュラーフ様、もしトーコが帰ってしまうなら、今までの損害に対する、

保証はどうされますか?」


お金は渡したけれど、

あちらでは使えないだろう


「確かに・・・宝石なら、持って行けるのだろうか?トーコ、どう思う?」

シュラーフ様がトーコに尋ねた


「そうね・・・多分消えてなくなるかな?」



そうか・・・消えてしまうのか



「今まで、長らく生きて来たけど、転移者の話なんて、聞いた事が無いわね」

トーコはうーんと悩みながら話す



ああ、そうなのか、だとしたら・・・



「多分、こちらの記憶は全て無くなるかも」

初めから分かっていたのか

嫌にあっさりしている



これまでの日々は

無かった事になるんだな



「ここは、ある意味私達にとっての、夢の世界なのかもね?」

そう言って、

トーコは少し寂しそうに笑う



そんな顔するくらいなら、

こちらに残ればいい



「稀に、異世界の"記憶がある"人も居るけど、あちらでは変人か、夢想家扱いだわ」

トーコは首を振った



本当に何も無くなってしまうんだな・・・



「転移、転生とかも、お話の中だけよ、そもそも、魔法も無い世界なの」

初めはびっくりしたわとトーコは笑う



トーコの話を聞く程、

彼女が異世界から来た事を痛感する



「科学が発展しているけど、魔法の方が便利な事もあるのよ?魔法に慣れちゃうと、不便に感じるでしょうね?」

ふわっと笑うトーコに寂しさを感じた



不便なら、このままこちらに居ればいい



「こちらの人は、私達が居なくなっても覚えているのよね?私も歴史書にのるの?」

姿絵は載るのかしら?

などとふざけた事を言っている


「歴史書には記載されます。姿絵は、勇者資料館に納められますね」

私は気持ちを悟られない様に


敢えて淡々と話した


「あら、可愛く書いて欲しいわね?おばちゃんが聖女だと、見た人が、ガッカリしちゃうかも知れないから」

トーコはふふふと笑う


「ありのままでも、充分素敵ですので、ご心配には及びません。改竄は出来ませんよ」

貴方はそのままでいてください


「あら、褒めてくれてありがとう」

トーコは優しく微笑んでいる


「トーコの姿絵が入ったら、兄が張り付きそうだよ・・・」

シュラーフが遠い目をしている



———私も、同じかも知れないな



2人の姿絵をひっそりと眺めてそうだ

私は、その情景を思い浮かべ笑ってしまう


「なんだ?ケルナー、楽しそうだな?」

シュラーフ様に笑ったのをみられたので


「なんでもありませんよ。残された者の末路は、滑稽だなと思っただけです」

滑稽でも、構わないかもな



「だとしたら、ソージュは可哀想ね・・・」



トーコがポツリと呟いた



「彼次第でしょう。頑張ってほしいですね」

私は狡いな



自分では動かず、彼に委ねている



「マズイ、もうこんな時間か?ケルナー、早く帰るぞ!明日も早いからな」

時計を見ると、

確かに遅くなってしまった。


「やっぱり忙しいのね?折角来たのに、帰還がハッキリして無くて、ごめんなさい」

トーコが申し訳無さそうにしながら

私達を送り出してくれた



シュラーフ様と共に店を出て歩くと


「ケルナー、このままでいいのか?」

シュラーフ様が急に尋ねて来た


「何か、問題でもございましたか?」

何か忘れていただろうか?


「お前はいつだって、僕に良くしてくれてる。ありがとう。でも、人に尽くす事に慣れすぎて、自分の幸せを見失うなよ」

シュラーフ様は、私を真っ直ぐ見て


「あの2人が帰ってもいいのか?」

そう尋ねられた


私は、何も言えない。


言える立場では無い・・・


「お前の事だから、相手の気持ちとか、自分の立場とか、考えるだろうけど、大切な時には素直になった方がいいぞ?」

シュラーフ様は、見抜いていた様だ


「もう、今日の仕事はおしまい。おやすみ」

私をシッシッと追いやって、

城の中に入って行った



今日の任務はもう終わった


私はシュラーフ様に深く頭を下げた後、


踵を返して来た道を全力で走った




「メシヤ」に着くと、

まだ店の電気が付いていた。


窓から中を見たら、

トーコがカウンターで1人茶を飲んでいる


コンコン、と窓を叩くと、


トーコは驚き慌てて出て来た


「ケルナー、どうしたの?忘れ物?」

トーコが店の中を確認しに行った。


私はそのまま店の中に入り



「トーコに、伝え忘れがありました」

と、言うと探し物をやめてこちらに来た


「何?どうかした?」

気の抜けてぽやっとした顔を見たら


緊張感が無くなり



「私は、トーコの事を一生忘れられないから、帰らないでください。」


と、素直な言葉が滑り出た



トーコは一瞬驚き



「私が残ると言えば、瑠璃ものこるでしょうね。でもね、ケルナーそれは、彼女の努力を踏み躙る形になるの」

トーコは静かに話してくれた



「私はね?瑠璃を授かった時。この先、瑠璃に私の人生を、全てかけていいと思ったの」

私はトーコの思いを黙って聞いた。


「私は母親よ。私の人生は、あの子のために使いたいの。だから、私の希望で、娘の邪魔だけはしたく無い」

力強くハッキリと宣言するトーコをみて



私は心から大切な人だと思えた。



「トーコは、希望してくれたのですか?」

少しだけでも受け取ってくれたなら



それだけで満足です



「後10歳若ければ、迷わなかったかもね」

トーコはニヤっと笑って見せた



「そうでしたか。ちょっと遅かったですね」

もう、その言葉だけで充分です

 


「娘はもう大人だけど、母親は要らないわけじゃ無いのよ?母親役を降りたら、今度は人生の先輩として、同じ目線で共に悩むのよ?素敵でしょう?」

娘のことを話すトーコは本当に幸せそうで



私はその姿が・・・



「大人の悩みは、大人にしかわからないでしょう?大人だからこそ、親が必要になる時があるのよ」


そうですね。よく分かりますよ



「大人は色々と複雑ですからね」


想いを言葉にすら出来ない



「大人って面倒くさいわね?」


トーコはフッと寂しそうに笑った



そうですね、


——身を引く事ばかり上手くなりましたね



でも、今だけは違います。



2人が笑い合う、幸せな姿がみたいから

私はやれる事をやりましょう。


「勇者チャコを、早急にこちらに呼び、ルリに合わせたいと思います」


ルリと同じ世界で、

誰よりもソージュ様を知り

ペリル様から最も大切にされている女性です


きっと、ルリの気持ちが1番わかるでしょう

迷っている背中を、押して貰いましょう



そんな事を思い、私は緊張しながら

ペリル様に連絡を入れた



私はトーコと共に、ルリの幸せを見守る事、


絶対に諦めませんよ?





程良い距離感なんです。落ち着くんです


次回は、寄り添う心と揺れる想い です


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