娘の恋も母の思い出
いつのまにか、大人になったわね?
ソージュが、セリナを連れて
城に戻って行く姿を見送る。
振り返って瑠璃を見るが、
娘はどうみたって、明らかに落ち込んでる
「瑠璃、見送りしなくて良かったの?」
心配になり、声を掛けて見るが
「わざわざ、そんな事しないわ」
何が、そんなにダメだったのかしら?
ソージュは一貫してセリナの事は、
護衛対象としてしか見ていなかった。
何なら、珍しく嫌そうだったのに・・・
「瑠璃、ソージュと何があったの?」
ついこの間まで。仲良くしていたのに・・・
「何でもないの」
瑠璃は、何だか辛そうだった
「疲れてるなら、今日は上がりなさい」
とりあえず、ゆっくりすれば良い
瑠璃は、何も言わず裏に入って行った。
あれは、このまま1人で思い悩むと、
ダメな方に思考が着地しそうね・・・
「プッツェン、仕事はいいから、ルリのそばに居てくれる?」
プッツェンは、前向きな子だから、
一緒ならマイナスには振り切らないはずだ
私は。店で1人で
ストックを作りながら想いを馳せる
瑠璃の初恋は、いつだったかしら?
小学4年生の時、
体操教室のお兄さんだったかしら?
張り切って通っていたけど、
お兄さんが結婚しちゃって・・・
——大泣きしたわね
その後、嫌になって辞めたっけ
私はクスクス笑いながら、
アイスコーヒー用のガムシロップを作った
中学生の頃は、部活の先輩だった
バレンタインにチョコを準備したのに
前日、彼女が出来たのよね?
あの時は、思春期真っ盛りだったし、
部屋から出て来なくて困ったわね
お腹が空いて、長くは続かなかったけど
面白かったのは高校生ね?モテるモテる。
モテ過ぎて、彼氏が勝手にヤキモチ妬いて
皆、自爆していたわ
瑠璃は、何もしなくても、
男の子達が勝手に取り合っていたわね?
ちゃんとお付き合いしたのは、
大学生の時の彼よね。別れはしたけど
初めてお泊まりの話が出た時は、
なんて言うか・・・感慨深かったわ
もう、大人なんだな、と寂しくもあったわね
瑠璃が、仕事に没頭し過ぎて
彼が浮気したんだっけ?
あの時は、
私がもっと気を回すべきだったわ
私自身が、仕事人間だったから、
気付いてあげられなかったのよね
私は、思い出に浸りながら、
大量のレモンをスライスした
そう言えば・・・
あの男、結局何だったのかしら?
瑠璃を傷つけた奴の事は、
考えただけでムカムカする
でも、悲しい事に、
私も、くだらない男に引っかかって
1人で瑠璃を産む事になったのよね
今では、瑠璃を授けてくれてありがとう
とは、思ってる
——-2度と会いたく無いけどね?
ダメな男に引っかかるなんて
そんな所は似なくてよかったのに・・・
何とも複雑な気分よ
今はソージュか・・・
瑠璃の恋愛がうまくいかないのは
私のせいかも知れない。
私は、余りにも
育児と仕事に没頭し過ぎたから
正直余裕なんて無かったわ
時間なんて全く足りなかった
それなりに、小綺麗にはしていたから
声が掛からなかったわけでは無い
でも、正直足手纏いになるから、
——男は要らなかった
欲しいとすら、思わなかったわ
そんな時間があるなら
私は、瑠璃と過ごしたかった
仲良くなり、そんな感じの空気を感じたら
私は片っ端からフラグをへし折ったのよね
あの子の恋愛下手と、頑固さは
私ににたのだろうな
私はそんな事を考えながら、
ハチミツレモンを仕込んでいた。
その時ふと、ケルナーを思う
ケルナーは、多分、
私の事が好きなのだろう
お互いに大人だから、
ここは空気の読み合いだ。
強く出たら強く跳ね返すが、
彼は上手に近づいて、気付いた時には
当たり前にそこにいた。
拒否すらさせてくれないなんて
ずるいわよね?
私が後10歳若ければ、
気持ちにも変化があったかもしれない
でも、今の私には
娘以外の事は考えられない
彼から感じる温かさに、
甘えてみたかったそんな想いを
——私はそっと、深く閉じ込めた。
瑠璃はこのままだと、
元の世界に帰ると言うかもしれない
このままでは傷が重なっただけになる
なんとかしなくちゃ
その日の夜、久しぶりに
シュラーフ、ケルナーが揃ってやって来た
「トーコ、お久しぶりです。中々顔が出せなくて申し訳ない」
シュラーフは以前と変わらず
フランクに接してくるけど・・・
「シュラーフ、貴方国王でしょ?威厳、どこに忘れて来たの?」
私がそう言えば
「トーコに威厳とか無理。疲れるし嫌だ」
と、机にへばりついた
「シュラーフ様。お気持ちは分かりますが、だらけ過ぎです」
ケルナーによって、起こされていた。
——気持ちは分かるのね?
私は、癒しの魔法を投げた後、
リラックス効果の高いお茶を出した
「聖女セリナから、話を聞いた。彼女はトーコと同じ時代から来たみたいだね?」
セリナは飛ばされた時代は違うが、
同じ時代の瑠璃と同世代の娘だった。
「ええ、私が開いたゲートで一緒に帰りたいそうね?」
ゲートが開くのは一回限りだ
「トーコ。前の世界への帰還は、いつでも出来る。どうするか聞いてもいい?」
シュラーフは、時間が無いのだろう。
単刀直入に聞いて来た。
「瑠璃次第なのよね。ソージュとの関係がハッキリしたら答えが出るわ」
私がそう伝えると
「何に迷う事があるんだろう?隊長の女嫌いは有名なんだよ?明らかに対応が違うし」
シュラーフは不思議そうだ
「ルリ本人だけ気づいていない様です。しかし、ハッキリしないソージュ様が悪い」
ケルナーはあくまでもルリの味方だ。
「確かにそうだけど、彼も瑠璃が大切だからこそ、慎重なのよ」
私はソージュを庇ったが
「ゼーネンから、既に尻は叩いたと、これで動かないなら、彼は本気で動くでしょうね」
なぜかしら?
全ての情報はケルナーの元へ集まるのね
「それならそれまでと思う。私は娘が幸せなら相手はゼーネンだっていいのよ」
でも、叶うなら想いを遂げさせたい
私の答えが意外だったのか
「トーコは、ゼーネンは拒否すると思いました。彼は悪くは無いのですが・・・」
と、言った本人が不満そうだ
「付き合うのはケルナーじゃないんだから、貴方が嫌でも、好きなら抑止は無理よ?」
私が笑いながら言っていると
「2人は・・・僕の居ない間に、いつのまにか夫婦になっていたのか?」
シュラーフの疑問に対して
私もケルナーも思わず顔を見合わせ
揃って手のひらで顔を押さえて
天井を仰いでしまった
瑠璃は失敗が怖くなってるし、
我慢しちゃう子だから辛いのですが
幸せはやってくるので
ちょっとだけ見守って下さいね




