縮まらない距離
あら、ちょっと不機嫌かしら?
護衛対象のセリナは馬を降りてから、俺の腕をグイグイ引き「メシヤ」に突進する。
勢いにうんざりしながら店内に入る
カランカラン♬
「セリナ、慌てなくても大丈夫だから」
だから離してくれないか?
彼女は俺が遅いからだと文句を言うが、
自分が望んでいる女性の前に、
女に腕を取られ、連れ立って現れるなど、
俺はしたく無かった・・・
ルリはセリナを見ている。
俺の事は目に入っていない様だ
「お母さん、後やっておくから、お話ししてもいいわよ」
ルリは、こちらには目もくれず仕事を始めた
少しくらい、
気にしてくれたっていいんじゃないか?
そんな理不尽な事を思いながら、
とりあえず仕事をするかと、一旦諦めた
店の奥のボックス席に向かうと
「ソージュも座りなよ」
と、セリナに言われたが
–––––座る訳ないだろう
「俺は任務中だからいいよ」
護衛対象じゃなきゃ、無視したい。
名前だって、呼んでいいとは言ってない
俺は小さくため息をつく
トーコとセリナが話をしている内容を、
片耳で聞きながら、意識はルリへと向かう
トーコに促されて話ている、セリナは、
ルリ達と同じ時代から来ていた様だ。
ルリ達と同じ世界は気になるが
今はそんな事は、俺にはどうでもいい
ルリは・・・どうしてしまったのか?
入店して以来、
全く目を合わせてくれない
帰還の挨拶を、
ちゃんとしなかったのがダメだったのか?
あの時は、ルリのキスに、平静を保てず、
思わずキッチンで仕事してしまったが・・・
怒らせてしまったのだろうか?
ランチが終わり、ルリの手が空くと、
彼女は休憩に行ってしまった
俺は頭の中で"ぐるぐる"と原因を探すが、
目の前の女に、いちいち絡まれ、
——-思考が纏まらない
そうこうしているうちにルリ戻ったが、
やはりルリは、
こちらを全く見ない
「透子さん、ルリさんて、働き者なんだね」
ルリの名前に反応して、俺の意識が話を拾う
「そうね?よく働くいい娘よ」
ルリはいつだって素敵だよ
「ふーん、ちょっとお話したかったな」
おい、ルリの邪魔はやめてくれ、
「そうね、あの子にしては、珍しく大人しいわね?ヤキモチかしら」
トーコがそう言って、俺を見て笑い、
ルリを指を差して、手を振る
—-—-行ってこいと?
行っていいのか?
ヤキモチ?
そうなのか?
「ヤキモチなの?」
俺は、思わずルリに近寄って確認した
「違うわよ、そんなんじゃ無いわ」
と、言葉はそっけないが、
もじもじしながら距離している
あれ?何だか嬉しそうか?
本当にヤキモチなのか?
俺は、ルリに好かれてる事に
期待してもいいか?
「ルリ?」
俺はソワソワしたルリが
物凄く、可愛く見えて、
顔を覗き込んだ時
カランカラン♬
ゼーネンが現れ、
ルリはパッと勢いよく俺から離れて行った
来客対応ならば仕方がない。
と思いながらも、気にして見ていたら
なぜか、
挑発的なゼーネンと目が合った
何だ?なぜ俺を見た?
2人は慣れた感じで会話をしていた
ゼーネンは、席を立ち、隣の椅子との距離を詰めた。そして椅子を引き、ルリを促した
ルリは・・・その席に座った
ルリ、そいつは何だ?
俺が、2人を見つめていたら
「ルリさんって、あの人といい仲なの?」
と、セリナが言い
「ソージュと会うより前に、そんな話も出たわよ?デートした事もあるわ」
さらっとトーコが話したが
デート?あいつと?
俺ですら、
まだ、まともなデートなどしていないのに
そう思いながら見ていたら
ルリは、その男から花束を貰っている・・・
俺はルリに何かしてあげただろうか?
ルリが慌てたり、赤くなったりしている
俺は、何をしていたんだ・・・
何か言われたのだろう。ルリが頷くと、
ゼーネンがルリに対して、優しく笑った
何の話だ?気になるが、プライベートで
盗聴魔法を使うなどはしたくない
もやもやしながら、見守っていたら
ゼーネンは、ルリに少しだけ身体を寄せ
瑠璃の手を自然に取り、
手にキスをした
俺は、思わず拳を握った。
俺は、臆病風に吹かれて、
ルリにちゃんと想いを伝えていない。
今の俺の立場では、割って入る事は難しい
苦しいが目を逸らせないでいると
瑠璃がパッと振り返った
目が合ったのに
直ぐに逸らされてしまった
俺は・・・何をしているんだ?
ゼーネンが帰るのか席を立つ。
その姿を目で追っていたら
ゼーネンと視線がぶつかった
奴はフッと余裕のある笑みを見せて
ルリに笑顔を見せて去っていった
「ゼーネン、ソージュを挑発するなんて、なかなかやるわね?」
トーコの声が聞こえて来たが、
返事をする余裕すら無かった
俺の中で、嫉妬の感情がぐるぐる回る
片付けをしているルリを見る
俺は・・・このままでいいのか?
トーコとセリナは帰還の話をしていたのか
「透子さんは、この先どうするの?」
俺が聞けない話を
セリナはあっさりとトーコに尋ねた
「そうね、瑠璃次第かしら?あの子が帰るなら一緒に帰るわよ」
俺はトーコに帰還を拒否して欲しかった
「ルリさん!元の世界に帰るなら、一緒に帰ろうね?」
セリナが、ルリに言葉を投げた
俺はその言葉にビクッとした
「・・・考えとくわ」
俺は、俺の見ている世界から
色が抜けた様に感じた
今すぐ、帰還を否定して欲しい、
抱きしめて、キスをして
嫌だと、帰らないでくれと縋りたい
しかし、今は任務中だ。
既に時間は無く
セリナを宮殿に連れて戻らねばならず、
後ろ髪を引かれながら、
セリナと店を出る前に、ルリに近寄る
「後からくる」
と、小さな声で伝えたが
ルリは目を逸らし、
「来なくていいわ」
と、突き放された
俺はどうしたらいいか分からなかった
でも、時間は既に無い
「ソージュ、早くしなきゃ怒られちゃうわ」
セリナに急かされ
今は任務中だ
気持ちを切り替えて店を出た
セリナを送った後も、
次々と仕事が舞い込んできた。
「勘弁してくれ・・・」
こんな時に限って、仕事が忙しい
ソージュは任務を遂行しただけなんです
闇落ちした実績のある聖女なので
あまり刺激する訳にはいかず・・・
何か有れば店に迷惑かかるし
真面目に頑張っていたのでした




