待っていたのは私じゃないの?
あら、ちょっとどうしたの?
ランチに来店したベーレンが帰宅した後、
お母さんは誰かと通信している。
多分、ケルナーだろう。
お客様もいなくなり、私は店内の掃除をしながら、お母さんの様子を伺う。
お母さんとケルナー、いい雰囲気よね?
前の世界でも、店は沢山の人が出入りしていて、仕事関係の人も、男性客もいた。
——-その時は、こんな事思わなかった
こちらに来てからも、色々な人と関わるお母さんを見て来たけど
ケルナーだけ纏う空気感が違う
なんて言うか、2人に流れる空気感?
ケルナーはお母さんの事、
"特別大切"にしてる様に見えるの
お母さんを見てると、
ケルナーの事を気にかけてはいるけど・・・
信用はしてると思う。
でも、必要とはして無い気がする
お母さんは、今まで
ずっと1人で何でもこなして来た。
それが普通だと思っていたけど・・・
ケルナーは、私の事も、
凄く大切にしてくれてるのが分かる。
——彼みたいな人が、
父親だったら良かったな
そんな事を考えながら、
植物のチェックをしていたら
「瑠璃、無事、魔王の討伐終わったって」
無事だった、良かった・・・
「え、早く無い?そっか、終わったんだ」
私は思いの外、
緊張していたのかも知れない。
ソージュの無事を知り思わず、
ほっと息を吐いた。
ソージュの事を考えたら、先日、彼から
「必ず戻る。その時に、ちゃんと俺の気持ちを伝えるから、それまで待っていてくれ」
と、言われた事と、
その時の彼の真剣な眼差しを思い出し
ニヤニヤしそうになったけど
グッと、奥歯を噛み締め
緩む表情筋の動きを、強引に止めた
だって、仕方がないじゃない。
物凄くカッコいい人から、
真摯に求められたら、
誰だって顔が緩むと思うわよ?
ニヤつきそうな顔を直すために、
自分の顔面をグニグニ揉んでいたら
「・・・お母さん、聖女の仕事があるみたいなんだけど・・・」
と、言い、その間店の営業は
どうしたいのかを聞かれた。
留守中にソージュが来ると困るわよね
そう考えた私は、とりあえず
プッツェンと一緒に店番をする事にした。
翌朝、お母さんを迎えに来たケルナーと一緒に、ベーレンが店の護衛に来てくれた。
私を守り抜くと、張り切っているベーレンに
思わず笑ってしまう
ベーレンは、いつものカウンター席に座り
難しい顔で書類と格闘している。
ベーレンは、分かりやすく母に懐いている。
多分、大好きなんだろう。
けれど、全く嫌らしさは無い。
なんて言うか、子供が母を慕う感じ?
見てると、思わず微笑ましくなる。
カランカラン♬
「なんだ、ネット、何しに来たんだ?」
ネットが久しぶりに1人で現れたが、
入店そうそう、ベーレンに詰められている。
「え、団長?何しにって・・・
今日は、ルリちゃんに謝りに来ました」
ネットは勢い良く頭を下げて
「自分だけの気持ちを押し付けて、申し訳ありませんでした」
と、謝ってきた。
最近、リープとエーデルが
いい感じらしく、
2人を見ていたら、自分のしていた事が
迷惑行為だと気付いたらしい。
ちゃんと諦めるそうだ。
確かに、迷惑だったけど・・・
正直、全く意識していなかったから
謝られても困ってしまった
「ネット、用が済んだらさっさと帰れ」
ベーレンは、営業の邪魔だと、
ネットを掴み、店の外に連行した
プッツェンと
顔を見合わせ笑って居たら
カランカラン♬
ベーレンが戻ったのかと振り返ると
そこには、帰還したソージュがいた
意識しない様にしていた。
心配なんてしていないと、
自分に言い聞かせていたんだ
でも、ずっと会いたかった。
もしも、が怖かったんだ
不意打ちで顔を見たら、
私の感情は昂り、
思わず駆け寄り、
ソージュを抱きしめ
流れでキスをしてしまった・・・
——私、今、何をした?
目が合ったソージュは固まっている
そっと離れて・・・
「ソージュ、お帰りなさい!
"今"のは挨拶よ!深い意味はないわ!」
と、叫び、カウンターの内側に逃げた
ソージュは、
ハッと意識を取り戻したが、
「あ、ああ、ただいま?挨拶?なのか?」
と、赤くなりながら困惑してしまった
ソージュとは
初めましてのプッツェンは、
いきなりラブシーンを見せつけられ
真っ赤になって固まっていたら
戻って来たベーレンに、慰められていた。
ランチタイムが始まり、
ソージュは当たり前の様に手伝ってくれた。
お母さんがいないと
3人で回すのは、かなり忙しかった
ランチが終わる頃、
カランカラン♬
お母さんが帰って来た
「ベーレン、ありがとう。あら?ソージュ、おかえりなさい。手伝ってくれたのね?」
お母さんは帰ると
直ぐにキッチンの中に入って来た。
「今日はありがとう。皆何か食べる?とりあえず座っていいわよ」
私達が座ると、お茶を入れてくれた。
「ソージュ、棺の女性、目覚めたわよ?かなり長く眠っていたのよ、かつて闇堕ちした聖女らしいわ」
お母さんが、ソージュに報告をすると
「意識はハッキリしてますか?闇落ち聖女ならちょっと不味いな」
ソージュは厳しい顔になり、席を立った
「綺麗な子だったわよ?見た感じ、特に問題は無いと思うけど・・・」
お母さんは、問題ないと言ったけど
「何かあってからでは遅いので、ちょっと話を聞いて来ます。お茶ご馳走さまでした」
そう言って、ソージュは扉に向かうが
一度振り返って、ルリと目を合わせた。
私はとりあえず手を振って
「行ってらっしゃい」
と、送り出した。
「行ってきます」
微笑みながらソージュは去って行った。
「隊長ともなると、大変なのね?」
と、お母さんはベーレンに話しかけた。
「隊長かっこいいから、闇落ち聖女も大人しくなるんじゃないか?」
え、それは・・・
「あら、闇から抜けたら、聖女が2人になるわね?私、聖女辞めてもいいわよね?」
そうだ、聖女なんだ・・・
「お母さん、その聖女どんな人だった?」
ちょっとした興味よ、意味はないわ
「そうね?瑠璃と歳は同じ位で、瑠璃みたいに、黒髪が綺麗な子だったわよ?」
それを聞いた途端に、
ソージュに会えてウキウキしていたはずの
私の心がスッと冷えた
彼は、唯一を探している
チャコも私も
こちらの人間じゃないから、
彼から望まれたんだ
目覚めた聖女は?
ソージュは別に
私じゃなくても、いいのかも知れない
あの見た目だし、優しいし、高スペック
誰だって欲しがるわ
誰だっていいのかも知れない
誰にでも好かれるわ
だから
誰と会おうと、私には関係ないわ
瑠璃、パニックです。
ソージュはもっとパニックです。
冷静になる為に揃って仕事に没頭しました。




