疲れた時に沁みる優しさ
あら、ちゃんとご飯食べなきゃダメよ?
特殊部隊と勇者が魔族の国へ旅立ってから、瑠璃は、日に何度も自分の手を握りしめる癖がついていた。
———瑠璃なりに考えている様だ。
過去に囚われず、未来に悩むなら心配は無いと、思いつつも気になってしまい、手が空いているとつい
「帰って来たら、貸切でお祝いしましょう」
とか、言ってしまい、瑠璃に困った顔をさせている。
カランカラン♬
ランチ時間になって直ぐに、リープとエーデルが来た。
「あら?珍しい組み合わせね?」
ベーレンから聞かされていたから、ちょっとニヤついてしまう。
2人は奥の席に座った。リープが立ち上がりこちらに向かって来て
「こんにちは、先日は、ネットを止められず、申し訳ありませんでした」
リープは気にしていたのか、わざわざ謝りに来てくれた。
「リープ、貴方は初めからルリの事、あんまり見ていなかったわよね?」
私が尋ねたら
「はい、最初はノリでついて来ました。でも最近はネットが周りを考えずに騒ぐから、心配になって、一緒に来てました。役には立てませんでしたけど」
そう言って、眉尻を下げた。
「リープ、エーデルはいい子よ、頑張って」
そう言ってやると
「はい、ありがとうございました」
と、いい返事をして笑顔で席に着くが、エーデルは、声の大きさに苦笑いしている
ランチも終わる頃、エーデルと、リープは仲良く甘味を食べて職場に戻って行った。
———頑張ってリープ
カランカラン♬
入れ替わる様に、ベーレンが、遅めの時間に来店した。
「ベーレン、今日はまた遅かったわね?」
おしぼりを渡しながら話しかけると、
「ああ、多分、今夜辺りケルナーから報告が来ると思うが、ついに王族が交代するから、色々忙しくてな」
今は、店内にお客様が居ないから、ベーレンは内部事情を話してくれた。
———ここ数日ケルナーが、来ていない
だからだったのか、と納得していたら
「ケルナーの旦那は、今、かなり忙しい。アレは、元の仕事の倍以上働いてるはずだ」
そんなにか・・・
———差し入れでも用意しておく?
誰かが来たら渡してもらえばいい。
ベーレンがパフェを食べている間に、さっきのリープ達の話をしながら、ケルナーに持たせる為の軽食を作って行った。
ベーレンも仕事に戻り、店は暇だから、アレコレと作り置きをしながら、ケルナーの好物を差し入れ用のカバンに詰めた。
夜、遅くにケルナーから、通信で連絡が入った。
「申し訳ありません、王族交代の為に、仕事が増えまして、中々顔は出せませんが、何があったら遠慮なくお伝えください」
声の感じから歩いているのだろう。
「ケルナーは今から帰り?」
私が尋ねたら
「はい、詳しい内容は、また後日改めてお伺いします」
———疲れてそうね?
「ケルナー、ちゃんとご飯食べてるの?」
仕事に追われたら食べない人だろう
「・・・それなりに」
———嘘つきね?
「歩き?貴方のお家は遠いの?」
そう言えば、ケルナー何処に住んでるのかしら?
「店からは近いですよ、一本隣の緑色の屋根の単身者住宅です」
あら、知ってるわ?隣がパン屋さんだもの
「あら。近いわね?知らなかったわ」
やっぱり、この辺りは便利なのよね
「着きましたので、じゃあまた」
ケルナーはそう言って通信を切った。かなりお疲れみたいだった
よし、行くか
ケルナーには、ずっと世話になりっぱなしだ。
それに、毎日家でご飯食べていたから、居ないと気になる。
ちゃんと食べない人だから心配だ
「瑠璃、お母さんケルナーが心配だから、ちょっとご飯届けてくるわね」
私が2階にいる娘に声を掛けると
「こんな時間に危なく無いの?」
と、心配してくれたけど
「透明化するから、大丈夫」
と、言って出かける。夜の道を久々に歩く
なんだかワクワクした。
ケルナーの言っていた建物に着くが、部屋の場所はわからないから、通信してみた
「トーコ?どうしました」
ケルナーは不思議そうだ?
「ケルナーの部屋は建物の何階かしら?」
建物の上から、ドタバタ音がした。上を見たら窓からケルナーが顔を出した。
透明化してるから見えないわよ?
私は場所把握したので、階段を登る。
通信具が、ピカピカしてるけど、
部屋に着いたから無視
———コンコン———ガチャ!
「トーコ!貴方、こんな時間に・・・」
慌てたケルナーが、煩いから、口を押さえつけて、とりあえず中に押し込む。
ご飯を置きたくても、ケルナーの部屋には何も無い。
仕方がないから、予備の鞄から、勝手にテーブルと椅子を出す。
机に、食事とお茶を並べ・・・
「ご飯持って来たから、食べれるだけでいいから、食べて、休んで頂戴」
振り返ると、ケルナーは、顔を押さえて天を仰ぐ。
・・・おばちゃんの勢いに押されたかしら?
「・・・言いたい事はたくさんありますが、折角なので頂きます」
ケルナーは、黙々と食べている。
———良かった、食べてくれたわ
「この鞄の中に、軽食とハーブティー、コーヒー、グラタンと、レモネードがあるから、ちゃんと食べるのよ?」
私は机に鞄を置いた。
ケルナーの好物セットだ
「じゃ、私行くわね」
要件が済んだので、帰ろうとしたら、
移動して来たケルナーに
サッとドアノブごと手を掴まれて帰れない。
———ケルナー、距離が近いわ
「手を掴まれたら、帰れないじゃ無い」
ちょっと"ドキッ"とするからやめて頂戴
「送りますから、せめて食べ終わるまでは居てくれませんか?」
ケルナーが、顔を背けながら言ってきた。
あ・・・寂しかったのね?
「1人ご飯は味気ないわね、帰りは、透明化するし、1人で平気よ、だからゆっくりして?」
疲れた人を、外出させたく無いわ
無理はしないで・・・
「じゃあ、癒しをください。そうしたらこのまま休むより元気になります」
引く気はない様だ。
——–困ったな
「癒しは今するわ。だから、休んで」
休んでほしいから、こちらも引けない。
「トーコと話をする事も私の癒しなんです。私を癒してはくださいませんか?」
あら、今日は甘えん坊なのね?
負けたわ・・・
「分かったわ」
ただ見ているのもなと思い、自分の鞄からお茶を出して飲む。
ケルナーは食事しながら、王族交代でシュラーフが国王になる事と、元王子は全ての記憶を消された事を教えてくれた。
「とりあえず、安心出来るのね、良かった」
私は、魔王討伐に特殊部隊と、勇者が一緒に向かった事を話した。
アルゼから、私からケルナーに勇者の話をする様にと、ペリルから伝言があったので、丁度よかった
「そうでしたか、女性の勇者が・・・色々、お気遣いありがとうございました」
食事を終えた後、ケルナーが、じっとこちらを見た
「トーコはあちらの世界に———
———帰ってしまうのですか?」
ケルナーが、余りにも静かに尋ねてくるから、ちょっと困った
「瑠璃次第ね。あの子が帰るなら、私も帰る」
———当然の事よ
「あの子の幸せが私の幸せだから」
———私は笑顔で言い切った
ちょっと、胸が詰まったけど。それでいい
「・・・分かりました。どちらであれ、全力で応援します」
ケルナーも、何かを飲み込んだ様だ。
「遅くなりましたが、私がみっともなく引き留める前に、帰りましょうか」
ケルナーがふわっと笑いながら席を立つ。
・・・ねえ、みっともなくってどんな感じ?
私は結局ケルナーに送られて帰宅した。
立ち去る背中を見て、
引き留めるケルナーを想像した。
ちょっと見てみたいが、辞めておこう
本来のトーコから見たら、ケルナーはかなり若者なので「あらあら、甘えちゃって」位のノリなのです。
ケルナー、いい男なのに・・・
次回は、聖女の祈りと棺の女性 です
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