彼と娘が超える過去
若いんだから、頑張りなさい?
馬に乗り、連れ立って出掛けて行く娘を見送り、店内で1人開店の準備をする。
先日、キッチンの棚などを改造した時に、収納棚に、状態保存の魔法を施して貰った為、時間がある時に、まとめて作れるから、かなり便利になったけど
———-今日は、やる事が無いわ
軽食は、まだ在庫がある。減ったドリンクの補充も、朝早くに終わらせてたし、店内清掃も、トーコがやると魔法で一瞬で終わらせる事が出来てしまう。
———とりあえずコーヒーでも飲もう
1人の時間も悪く無いわ。と自分のコーヒーを淹れていたら
カランカラン♬
「ただいま戻りました!」
と、元気よく、プッツェンが入って来た。
——-そうだった、今日帰って来るんだった
申し訳無いけど、慌ただしくて彼女の存在をすっかり忘れていた。
「プッツェンおかえりなさい、実家ではゆっくり出来たの?」
ちょっと、気まずい気持ちもあったけど、持ち直して話しかけた。
「はい、弟と妹と沢山時間が取れました。ありがとうございました。今から何かする事ありますか?」
プッツェンは働き者だから、直ぐに働こうとした。
「とりあえず、準備は出来てるから、開店時間になったら降りて来てくれたらいいわ。自分の部屋の掃除でもして頂戴」
プッツェンの部屋は触ってないから、埃が積もっているかもしれない
2階に上がった彼女を見送り、私はカウンターに座りコーヒーを飲み、営業時間までゆっくり過ごした。
———きっと直ぐ、こんな時間が増えるわね
お店は、プッツェンが居てくれたから、いつもと変わらなかった。ランチも終わりに差し掛かると
カランカラン♬
いつものようにベーレンが現れた。
「あれ?今日はルリはいないのか?」
プッツェンが店の整頓をしているのを見て不思議そうに尋ねてきた。
「瑠璃はソージュとデートよ」
私がそう伝えたら
「隊長はかっこいいからなぁ、アイツらには可哀想だが、相手が悪いな・・・」
ベーレンは苦笑いしながら、親衛隊が解散した事を教えてくれた。
親衛隊とゼーネンが出くわした時、ゼーネンから瑠璃とソージュの様子を聞き、ネットは泣き崩れ、リープは納得した様だ。
「ゼーネンは案外あっさりしていたぞ?脈なしな事には初めから気付いていたみたいだ」
そもそもアル爺の勧めだったからね
「まあ、彼も大人だし、引き摺らないわよ」
そこまでの関係値もなかったし
「そういえばリープは、前からエーデルが気に入っていたみたいでな、彼女が最近、兵士に人気があるからヤキモキしているぞ」
ベーレンは日々若手の恋路を見ているようだ
「確かに彼は、いつもネットを止めていた気がするわ。でも、エーデルはネットが好きなはずだし・・・中々うまくいかない物ね」
ネットよりはリープの方が良い気はするけど
———エーデルはどちらに傾くかな?
お客様が引き、ベーレンは3倍パフェを平らげて、笑顔で仕事に戻り、プッツェンを休憩させると
———瑠璃が帰って来た。
瑠璃は、どこかふわふわしている。
———随分と早く帰って来た
「瑠璃おかえり、楽しかった?」
私はワクワクしながら尋ねたけど
「うん、危ないから、早く帰って来たの」
話を聞くが、何が危ないのだろうか?イマイチはっきりしない。
瑠璃は、そのままふわっと自室に引っ込んでしまった。とりあえず、そっとしておこうと思い、幾つか食事を持ち
「瑠璃、今日はゆっくりしていいから、お腹空いたら食べなさいよ」
と、瑠璃に手渡して来た。
瑠璃は、ベッドに座ってぼんやりしていた。強い感情は無さそうだ。どちらかと言うと幸せそうに見えたので、放置しておく
夜にケルナーが報告に現れたので、プッツェンと3人で食事を済ませ、食後にケルナーとカウンターでお茶をしながら話をした。
「ルリは、今日はソージュ様と何かあったのですか?」
ケルナーは、瑠璃が食事に降りてこなかったのを気にしていた
「悪い事では無さそうだけど、デートから帰ってから、何だかふわふわしていて、多分、現実味が無いんだと思う。そのうちまとまるだろうから、放置したの」
夢見心地なのかもしれない。ある意味、幸せな時間よね
「・・・2人が幸せになれたらいいですね」
ケルナーは心配しながらも、余計なことは言わず見守る姿勢をみせている。
翌日は、普段通りの1日だった。ソージュは流石に討伐前だからか、顔を見せる事は無かった。そのせいか、瑠璃はある意味落ち着いていた。
———良いのか悪いのかどうかしらね?
夜も、いつも通りの時間に、ケルナーは現れ、皆で食事をして、昨日の様にカウンターでお茶をしていたら・・・
カランカラン♬
「こんばんは」
急にペリルさんが現れた。
「———-びっくりしたわ。こんな時間に、どうしたの?」
彼は転移して来るから、予兆がなさすぎてドキドキしてしまった。
「ルリさんは、今は?」
ペリルは室内に居ない事を確認して尋ねてきた。
「もう自室にいるわ。何が用事があるなら呼びましょうか?」
尋ねたら、ペリルは首を横に振り
「トーコさんに話をしたくて、伺いました。精神干渉の件で・・・」
以前、私がお願いした話だ。隣でケルナーが一瞬ピクリとしたけど、何かあるのかしら?
「先日、拠点にルリさんがきました。見た感じ、非常にゆっくりではありますが、お互いに距離を縮めつつあります。僕が見る限り、精神干渉は、返って邪魔になるように思いますが、どうお考えですか?」
ケルナーが何だか真剣にこちらを見ている。確かに、今は落ち着いている。
———--自然に乗り越えた方がいいわね
「ソージュのおかげで、時間さえ有れば立ち直れそうだから、やらなくていいわ。気にしてくれてありがとう」
ペリルと、何故かケルナーがほっとした顔をした。
「今、2人を悩ませるとしたら、ソージュ様の過去でしょう」
ペリルは、出されたお茶を一口のみ、カップを静かに置いて、言葉を選ぶようにゆっくり話し出した。
「ソージュ様と私は、ナトゥーアのハーレム出身で、ソージュ様は現国王の5番目の息子でしたが、唯一を求め国を出て今があります」
聞いた事があるわ?自由恋愛の国よね?
「ソージュ様は、生まれた時から———-
—————女神の寵愛が過ぎて居たんです」
ペリルから聞いた過去は、中々だった。美貌故の歪んだ愛の押し付けや、薬を使った強引な交渉、女性嫌悪が酷くなり、歪んだ知識が、植え付けられてしまったようだ
「それは・・・」
私は、言葉が出て来なかった。
———とても苦しかったわね
ようやく、出会えた嫌悪しない女性がチャコちゃんで、唯一触れても嫌悪感が無く、屈託ない性質に好意を持ったものの"女神の横槍"によって理性をかき消され
———-未遂とはいえ、衝動のままなんて
「それで、チャコちゃんが傷ついたのね?」
私はため息をついてしまう。悲しさしかない
「今は、女神を、抑制出来る守りもあり、認識の歪みも矯正済みです。今はチャコとは全く何もありません。本来は情に厚く誰よりも優しい人です」
精神干渉が出来るペリルが、大丈夫だと言うならそうなのだろうと、納得してしまう。
「それは見ていたら分かるわ。女神は随分と余計な事をしたのね」
私はため息を吐きながら、娘の気持ちを考えた。
————瑠璃、乗り越えて、過去は過去よ
「ソージュ様は、自責の念に駆られてしまい、中々前に進めないかもしれませんが、チャコの時とは違い、真剣にルリさんの幸せを願っているみたいです」
そう・・・
———ありがたいわね
「チャコが、物凄い勢いでソージュ様に、
『私の時とは偉い違い!私に対して失礼!』
と憤慨していたので、間違いないかと」
ペリルさんが、苦笑いしながら教えてくれた言葉が、ストンと気持ちに入って来た
「私は、過去に縛られた2人の背を押すわ」
だから協力よろしくね?
「討伐前は、明日しかないので、明日早朝ソージュを送り込みます。煮るなり焼くなり好きにしてください」
ペリルは、そう言って帰ろうとしたから
「チャコちゃんに、お土産渡して頂戴」
そう言って、2人分のサンドイッチとドリンクを持たせた。
ケルナーは、色々思う事があったようだけど、もう、遅いからと帰ろうとしたので、
「貴方も、朝ごはん持って行きなさい」
と、サンドイッチとコーヒーを持って帰らせた。
———-ソージュは明日の昼には討伐に行ってしまう。その前に、2人で過ごしなさい
——--少しでも、前に進めたらそれでいい
2人が笑い合う姿を、楽しみにしてるわ
ソージュのために言い訳すると、
チャコもかなり無自覚に煽っていたんです。
しかも強く拒否できない娘だったので・・・
お互いにダメだった部分もあるんです。
トングには色々書いてありますが
長いからまた関連話はまとめます
大人たちは見守っています。
ぺリルは、ソージュより、年下ですが、
精神年齢が高いというか、
心が死んでいたというか・・・
ま、大人カウントです。
次回は、限られた時間 です。
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