素直になれない娘と彼の気持ち
あら、ちょっと、いい感じじゃないかしら?
「あら?ケルナー、おはよう。ええ、はい、ええ、そう、分かったわ。わざわざありがとうございます。じゃあ、今日も頑張ってね」
朝から珍しくケルナーから通信が入った。
昨夜のうちに、襲撃犯はペリルによって、対処され終わった様だ。
ペリルは終わり次第拠点に戻ったらしい。
襲撃はあったけど、店も綺麗に修復もされたし、既に安全は保証されたので、
今日は普通に営業する事が出来るが・・・
———やっぱり、ちょっと落ち着かないわ
いつもの流れで準備を進めているはずが、
瑠璃の様子も少しおかしい。
シュガーポットを手にしたまま、
ぼーっとしている。
「瑠璃?手が止まってるけど、どうしたの?具合でも悪い?疲れが出たなら、今日は、店の事はいいからゆっくりしていなさいよ?」
私が声を掛けてみると
「え?あ、大丈夫、私は元気よ?」
と、パッとシュガーポットを机に戻した。
「昨日はソージュが一日中いたから、今日は、寂しくなっちゃったわね?」
私は単純に、人1人居ないだけで違うわよね?
と口にしたつもりだが・・・
「べ、別にソージュが居なくて寂しいわけじゃ・・・ないもん」
と、瑠璃はぶつぶついいだした。
——-あ、ソージュが居なくて寂しかったのね
娘も、随分と分かりやすくなったわね?何て考えていたら
カランカラン♬
———噂をすれば影ね?
「チャコから、拠点に居ても、やる事ないから、「メシヤ」を手伝って来いと言われたんだけど・・・何かやる事はあるか?」
ソージュが困り顔で現れたら、
瑠璃は急にテキパキし出した。
「いま、丁度、ソージュが居なくて寂しいねって瑠璃と話していたのよ。手伝ってくれるなら助かるわ!」
と、私が言ったから
「お母さん!余計な事・・・」
瑠璃は、私に文句を言おうとして、勢いよくこっちを向いたが、
ソージュと目が合い・・・
「寂しかったのか?」
と、ソージュから嬉しそうに素直に聞かれ・・・
「・・・ちょっとだけね」
と、違うとは言えず、顔を背けて認めていた
「そうか、ありがとう。俺もだよ」
ソージュは、嬉しそうに礼を言い
さっさとキッチンに入り、
自分のやれそうな事を見つけては、さっさとこなして行く。
一方で瑠璃は、彼の言葉が刺さったのか、
動きがギクシャクしている。
———-彼ってやっぱり優秀よね?
一度やった事は全て出来てしまうし、見ていた事も直ぐに出来る。
特殊部隊隊長だけあって、仕事の覚えはさすがだな?と感心した
もう、ずっと前から働いていたのかな?と、思う位にしっかり馴染んで仕事をこなし、
ランチタイムも無事に終わった。
ランチ後は、店を閉めるつもりだったので、閉店の準備をしていたら
カランカラン♬
「瑠璃!あれ?もしかして、今日はお店は終わりだった?」
アルゼが遊びにきた。
しまった!と顔に出ている。
「アルゼ、店は閉めるけど、大丈夫よ?瑠璃に会いに来たんでしょ?」
私が声を掛けたら
「アルゼ?アルゼ・アウスヴェーク?」
キッチンの奥から、ソージュが出てきた。
チャコちゃんを紹介してくれたから、知り合いなのは当たり前か・・・
「え?隊長さん?こんな所で何してるんですか?暇なの?」
アルゼは、ソージュがいる事に驚き、
失礼な事を口走っている。
「・・・ペリルとチャコに追い出された」
と、ソージュはアルゼに文句を言っていた。
「・・・確かに、討伐前は隊長さんじゃ、やる事ないですよね?」
アルゼは、何故か納得をしている。
「アルゼ、お前、前から思ったが、兄贔屓が過ぎないか?」
ソージュがアルゼに不満を言っている。
「だって、チャコには隊長さんより兄様の方がピッタリだと思うし、隊長さんと、チャコだと、兄様苦労しそうだから・・・」
——兄様?
「そう言えば、アルゼのお兄さんって、ペリルさんだったわね?」
私は思わず、口を挟んでしまった。
「あっ!しまった!兄妹である事、本当は内緒なんです!だから秘密にしてください」
アルゼは、ちょっと迂闊だ・・・
「そうなのね、チャコちゃんとペリルさん、今はとっても仲良しだけど……前は違ったのね?」
私はチラッとソージュを見た。
ソージュは"しまった"と、顔に書いてある
「・・・お母さん、私アルゼと"色々"話をしてきてもいい?」
瑠璃・・・顔が怖いわよ?
「瑠璃?え?あれ?ちょっと!分かったから、行くから、無言で引っ張らないで」
瑠璃が、アルゼをグイグイ引っ張って
裏に行ってしまった・・・
ソージュはあからさまに落ち込んでる・・・
「ソージュ、ちょっと、座って話をしてもいいかしら?」
私がテーブルを指差すと、ソージュはサインボードをcloseにしてから、席に着いた。
私はアイスコーヒーを2つ、アイスティーを2つ作り、
「ちょっと待ってて」
と、ソージュに言って、
瑠璃とアルゼにアイスティーを出し、
ソージュの元に戻り、
彼にはアイスコーヒーを出した。
「・・・ありがとうございます」
うん、どこから聞けばいいのかな?
「えっと、最初に聞いておきたいの。ソージュは瑠璃の事、どう思ってる?」
私は単刀直入に尋ねた。
「・・・素敵な女性だと思っています」
ソージュは下を向いたまま、普通の事を言う
「そんな事は、知ってるわ?そうじゃなくて、あなた、瑠璃にどの程度の気持ちが有るの?遊び?なら近寄らないで」
私は先に釘を刺した。
半端なら近寄らないで欲しい
「違う。遊びじゃないです。でも、自分は、過ちを犯した過去が有るから、気持ちをおしつけたくないし、瑠璃の負担になりたくない。・・・だから軽はずみな事は言えない」
ソージュは苦しそうに、手を固く握りしめ、口にしたい気持ちを押し込めている。
——-過ちって、一体何があったのかしら?
「どんな過ちか、聞くのはダメかしら?」
内容によるわよね?
「・・・相手がいる事だから、俺の口からは詳しくは言えない。ただ、自分が無知で、傲慢だったせいで・・・チャコを傷つけた。ペリルとチャコには、感謝している」
ふーん、今、3人の関係は良好よね?
ちゃんと乗り越えているなら、
問題は無いんじゃないかしら?
「チャコちゃんとペリルは、ソージュと瑠璃の事、どう思っているの?」
家族だって言っていたわよね?
「2人にはあっさりバレたな・・・ペリルは、瑠璃は波長が合うだろうと・・・チャコは「私に悪い事したと思うなら瑠璃をちゃんと好きになって、幸せにならなきゃダメだ」と言ってくれた」
2人の言葉を思い出したのか、
ふっとソージュは優しい顔をした。
「そう、ならちゃんと、真っ直ぐに瑠璃を好きになりなさい?いつまでも過去に縛られてはダメよ?でも、同じ失敗はしないでね?」
貴方達はまだ若いの、私と違って、
やり直しならいくらでも出来るはずよ・・・
——-でも娘を、傷付けるなら許さないわよ?
ソージュは許された事に驚き、
覚悟をした表情で大きく息を吸い込み
「・・・絶対傷つけたりはしない。約束する」
—-—-真っ直ぐ私を見つめ伝えてきた。
「ちょっと!ちょっと、隊長さん!」
アルゼが奥から、瑠璃を引き連れてソージュの元へ来た。
「2人とも、勢いが凄いわ?どうしたの?」
なんだか、テンションが高い。
「隊長!瑠璃を、今度、拠点に連れて行って!瑠璃、拠点を見てみたいって!」
アルゼは、とりあえず、
瑠璃をソージュに押し付けた。
「ちょ、ちょっとアルゼ・・・」
瑠璃も、アルゼの勢いに押され気味だ。
アルゼなりに、余計な事を口走った事が、
気まずかったのだろう。
なんとか力技で押し切るつもりだ。
「今日は、拠点移動だから、明日、連れて行くよ、明日迎えに来てもいいか?」
ソージュは乗り気で声を掛けたが、
瑠璃はちょっと腰が引けている
「チャコちゃんにお守り渡したいから、瑠璃、届けて頂戴」
私は助け船を出す事にした。
———瑠璃、過去じゃなく、今を見なさい
———行きたいなら、素直になっていいのよ
アルゼは迂闊だけど、ちゃんとフォローも出来る子です。仕事が有能で、悪びれず強引な所は、ペリルと似てるんです。




