王子の末路と執事の選択
ペリル・・・お疲れ様
ソージュ様が出て行く姿を、トーコとルリが見つめている。ルリを見る限り、ソージュ様の事は信頼してくれた様だ。
——-このまま2人が上手く纏まってくれたら
そんな事をかんがえていたら、
「ペリル様、ちょっとお伺いしたい事がありますが、よろしいでしょうか?」
いつの間にか、側に居たケルナーが、話しかけてきた。
———僕に用事?仕事の依頼かな?
「どうぞ?話はここでいい?防音はするけど見えちゃいますよ?」
どの程度の話だろうか?
「・・・では、あちらに」
指定されたのは、店の片隅だ。それなりに込み入った話なんだろう。
席に着くなり、お茶を出された。この男は、手際が良すぎるな?王弟・・・今後は王になる男の執事だから当然か?
「ありがとう。防音は既に機能してるから大丈夫ですよ」
僕がそう言うと、ケルナーも着席して
「ペリル様は、精神干渉が出来るはずとの話をシュラーフ様から聞きました。・・・バカ王子の記憶を変える事は、可能でしょうか?」
———シュラーフちょっと喋りすぎだよね?
「ケルナー、帰ったらシュラーフに喋るなと言っておいて?トーコからもシュラーフが言っていた、と言われたよ?」
ケルナーは驚き目を開け、
「失礼な事をしてしまい、申し訳ありません。早急に対処いたします」
目の前で、深く頭を下げた。
「知っちゃったなら、仕方がないよ。でもね?あちこちから、記憶消してと言われたら、困った事になるよね?僕の能力は、知らない方がいい能力なんだ。広めて貰っては困る」
———シュラーフの記憶も消しとくか?
僕の心を読んだのか、ケルナーは慌てて
「必ず、黙らせるので、記憶を消すのは勘弁してください」
そう言って再び頭を下げた。
「まあ、今回の依頼は受けるよ。既にかなり関わっているからね?ただ、かなり高く付くけど大丈夫?」
気軽にやらせない為に、法外な値段になる
「・・・シュラーフは、いくら掛かってもいいらしいです」
ケルナーはそう言ってこちらを真っ直ぐ見た。
「精神干渉をしてまで、生かす意味は?」
聞いた感じ、消した方が良い様に思う
「廃する王への、せめてもの情けです・・・」
なるほど、生きてさえいれば良いのか・・・
「分かった。とりあえずやるよ」
気乗りはしないが仕事をする事にした。
僕はソージュ様に王宮で仕事があるから、今日は戻れない事と、チャコに伝言を頼み、ケルナーと王宮へ向かう。ソージュ様は直ぐに戻って来るだろう。
1人でコツコツと靴音を鳴らし、国が管理している地下牢を奥に進むと、今回の襲撃に加担した実行犯が、纏めて入れられている。
「ケルナーから、聞いております!どうぞこちらへ」
看守が頑丈な牢の鍵を開けた。
「おい!早くこんな汚い場所から出さないか!オレはこの国の王子だそ!そこのお前!なんとかしろ!」
ガチャガチャと鎖を鳴らしながら、暴れ叫んでいる。バカだとは聞いていたが・・・
——-コレなら心は傷まないな?
ギャーギャー喚くのが煩くて、防音の結界を張り、とりあえず証拠としての、記憶の抽出の為に、一旦精神干渉して、奴らの思考を弄り素直にさせた。
看守の男の顔が引き攣っている
それもそうか・・・さっきまで明らかに敵対し喚いていたのに、今は王子すら、ぺこぺこしながら言われるまま、記憶抽出のクリスタルに、自らセッセと証拠を残しているから・・・
王子以外は、犯罪関連の記憶、王子は記憶の全てを、クリスタルに詰めた。ちらっと、看守を見ると、大人しくなった犯罪者に・・・
————いや、何かをした僕に対してだな?
看守が明らかに怯え動揺している。
————後から彼の記憶消さないと
あらかた記憶を抽出出来たので、牢の外に出た。看守は怯えながら
「おお、お疲れ様でございます!かぎ、鍵を閉めますね!」
ビクビクしながら鍵をするから、中々見つからないのか、ガチャガチャしている。
僕は、ふぅとため息を吐き、看守に近づき、その肩をポンと叩きながら、さっき見た彼の記憶を消し、無事に証拠が回収出来た事に記憶を塗り替えた。
「いやー、さすが特殊部隊ですね、あっという間に終わりましたね」
看守は忘れたので、普通に戻った。
——-全く面倒くさい。だから嫌なんだよ
"コツリ"と、足音がした。振り返るとケルナーがいた。王弟に報告しに行った後、案内の為に戻って来たのだろう。
——-記憶を消したのを見られてしまったか?
「みてましたか?」
見てたなら、怖いでしょ?消そうか?
「・・・なんの事ですか?」
ケルナーは、確実に観たはずだけど、知らん顔する事にした様だ。まあ、彼なら良いか。
案内された部屋で王子の過去の記憶の精査をした。犯罪に繋がる記憶を抽出したはずだったが、物心つく頃には思考が既に歪んでいるから、何を残しても犯罪に繋がってしまう。
———-コレは、キツイな
クリスタルは犯罪者の思考を追体験できるが、内容が酷すぎて途中何度も気分が悪くなり、その都度、回復ポーションを飲んだ。
沢山の記憶はほぼ消去し、残せた記憶はほんの僅かだ。たとえコレを戻しても、1、2.歳の子供レベルの筈だ。
部屋を出ると、ケルナーが待機していた。時間は既に深夜を過ぎている。
「ずっとそこに居たのか?」
驚き尋ねると
「書類仕事が捗りましたよ、何か飲まれますか?」
と言って、手元の書類をしまい、机にはお茶とクッキーが出された。折角だからと、お茶を頂きながら現実を伝えた。
「ケルナー、全て後は消して入れ直したらおしまい。多分、1.2歳児になる筈だ。使える記憶はほぼ無かったよ」
そう伝えたらケルナーは少し同情したのか
「罪を償って、極刑の方が幸せかも知れませんね・・・」
と、言っている。僕もそう思うよ
王子は既に格子付きの別室に移動してあるらしい。そこへ行き、丁寧に記憶を消し、改竄したクリスタルを発動させた。
「目覚めたら、精神が子供に戻る。魔力暴走が怖いから、魔力の封印をするよ。後、欲を抑える為に、生殖機能も無くすから、安全になる筈だよ」
僕は空中に魔法陣を描き、バカ王子を囲って発動した。
———-終わった・・・疲れたな
「ありがとうございました」
ケルナーが深く頭を下げている。
「疲れたから帰るよ。報酬はまたにして」
もう、限界だ。辛い。
———-チャコに会いたい
「先程の隣に、お部屋が準備してあります。こちらでゆっくり休まれては?」
ケルナーが部屋があると言うが、僕は一刻も早くチャコに触れたい。
「チャコがいなきゃ、ゆっくりできないから帰ります。では」
と言って、瞬間移動でチャコの元へ飛んだ
———危なかった。
対応に寄っては、私の記憶を消されたでしょう。
目の前に居たペリルが消えた後、私は思わず目を閉じて、今更、牢屋でのやり取りに冷や汗を出す。
特殊部隊は、5国を跨ぎ、国から要請されて動く組織だ。
稀に今回の様に、自らの意思で行動する事があるが、基本的にその国にとって、有益な働きなので、皆から信頼されている。
悪い噂を全く聞かないのは————-
———記憶を消しているのかもしれない。
でも、対峙した限り、彼は淡々と仕事をこなす男。口先だけより余程信用できる。特殊部隊が正義である事、それが何よりの信用だ。
私など、全く太刀打ち出来ない。対峙して確信した。
————彼が組織の暗部そのものだろう
私はかなり疲れを感じたのか
——-トーコのハーブティーが飲みたい
と、心から思った。
ペリルは一見優しいですが、誰よりも冷淡な一面もあります。
チャコが居なかったら心なき人です。
ケルナーは敏感な人だから色々気づいちゃいました。
次回は、素直になれない娘と彼の気持ちです
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