囮の娘と最強の護衛
実は、ソージュの率いる特殊部隊は、5国を自由に動く事が許されている精鋭部隊なんです・・・
食堂のランチタイムというものは、随分と忙しい物だな・・・など思いながら、俺は、今、トーコから任された"トンカツランチ"の盛り付けをしている。
皿に山盛りのキャベツに、食べやすくカットしたトンカツを乗せ、彩りにきゅうりとトマト、レモンのくし切りを乗せて、トレーに、置くと、トーコが、ミソスープとライスをトレーに乗せ、ルリが受け取り運ぶ・・・
流れ作業だ。トーコはドリンクも同時進行で動いている。普段、2人だけで回しているからか、無駄な動きが一切ない。
慌ただしい時が過ぎ、ランチも終わりの時間になり、客も帰り閑散とした時、
カランカラン♬
入り口から、かなり体の大きな男が入って来た。カウンターに座り、時間がズレた日替わりを注文して、俺を見て固まる・・・
———彼は騎士団長じゃ無いか?
「トーコ、彼は?」
熊の様な男は、常連なのだろう。カウンターに座りながら、トーコに親しげに話しかけた
「ベーレン、お疲れ様。彼は、ソージュよ。ソージュ、彼はベーレン。この国の騎士団長よ」
どうする?眼鏡を外すわけには行かない・・・
「ベーレン、私だ。ソージュ・アウスリーベンだ。訳あって手伝いをしている」
俺はベーレンに近づき、小さな声で名を明かした
「は?・・・っとあぶねー、でかい声出そうになりましたよ。特殊部隊の隊長さんが、食堂のキッチンで何してるんですか?」
ベーレンは小さな声で、尋ねてきた。この男は、大きな体の見た目とは違い、昔から細かい事に気を回す奴だ。ありがたい
「ちょっと訳ありだ・・・お前は良くこの店に来るのか?」
俺はコソコソ話すのが面倒だから、防音結界を張った。
「・・・相変わらず、ムーブ無しの魔法発動、鮮やかですね、この店には、毎日来てます。隊長はランチ後もここに居ますか?」
このまま終わり迄、いる事になるだろうな?
ベーレンは、トーコからランチセットを受け取りながら尋ねてきた
「わざわざ聞くのは、何かあるのか?」
すると、ベーレンから情報共有された
この国のバカ王子が、転移時からルリにご執心で、問題を起こし、労役中に逃亡し、再度襲撃予定らしいが・・・
王族ともあろう者がなんたる失態か・・・
「隊長さんよ、ちょっとトーコにも話がしたいから、防音切ってもらえないか?」
ベーレンに言われ、防音を切る。
「トーコ、彼には話をしたのか?していないなら、するべきだ。協力してもらえ。5国最強の男だぞ」
ベーレンが、そう言えば、トーコだけでなく、ルリも驚いた顔をした。
「あら、ソージュ、強いとは聞いていたけど、そんなに強かったの?」
意外だわ?とトーコ
「見た目がカッコいいだけじゃ無いなんて・・・ずるいわよ・・・属性盛りすぎじゃない?」
ルリは、プィっと顔を逸らした。彼女の呟きに俺の心がギュッと掴まれた気がした。
——-ずるいのはルリじゃないか?
「まあ、嘘ではないな、で、俺はどんな協力をすればいい?」
なんだか、心が落ち着かないので話を打ち切り、協力内容を尋ねた
「バカ王子だけで無く、王もバカだったんだ。さすがに皆我慢の限界でな・・・今回の襲撃を利用して、王の交代を狙ってる」
まあ、聞こえて来る感じ、凡夫だったが、愚王だったのか・・・
「それは、俺が加担してもいいのか?内政干渉にならないか?」
立場的にまずい様に思うが・・・
「隊長さんは知らないふりをしてくれ、ルリが攫われたら、助けて欲しい。襲撃を未然に防ぐと、罪が軽くなるから、瑠璃には悪いが囮となり、途中まで連行されて貰う予定だ。奴を実行犯として確実に逮捕したい。」
——-は?彼女を囮にだと?
「彼女にそんな危ない事をさせるのか!——何故だ?王族の尻拭いの為に、ルリを利用するつもりか?」
俺は思わず私情が入ってしまった。短期解決に囮を使うなど定石だ・・・
「・・・そう言われても反論は出来ません。どう答えたとしても、私達がルリを利用する事は、事実ですから」
ベーレンも、トーコも苦しそうだ。
「・・・いや、済まない、責めるつもりはなかった。短期解決するには囮が仕方がない事は理解している」
気持ちが追いつかなかったんだ・・・
———-全く、何やってるんだ俺は
「ソージュ、心配してくれてありがとう。でも、私なら平気よ?皆が守ってくれるから」
俺はその時、ルリの言う皆の中に、自分が居ない事に対して酷く苛立った。
「・・・俺にもルリを守らせてくれないか?ルリの事守りたいんだ・・・」
気付けば、ルリを見つめながら、口から言葉が溢れていた。
「え?だって、今日だけじゃ・・・」
ルリが、赤い顔をしながら言い淀んだ時
「あら、最強が守ってくれるなんて、安心だわ。部屋はあるから"泊まりで護衛"お願い出来るかしら?どうか瑠璃をよろしくお願いします」
トーコの後押しで、少しの間、ルリを守らせてもらえる事になった。
「隊長が、ルリのそばにいるなら、何より安心だな?とりあえず、俺は今から見張のゼーネンの所に行ってくる」
食事を終えたベーレンがサッと席を立ち帰っていくと、店の中にはトーコとルリだけになった。
「ベーレン、急いでいるのかしら、パフェも食べずに行ったわね?」
トーコの呟きに、ベーレンが甘党だと言う事を知る。甘党仲間だったのか・・・等、呑気にしていたら
"バン!ガチャン!パリン"
乱暴に扉が開き、ガタガタ机を蹴散らしながら、3人の男が——————-
————瑠璃に向かって飛びかかった!
ルリの前の机も、ガタンと倒され
「きゃっ!?」
————-ルリが一瞬叫ぶ
が・・・襲撃班は、俺の張った結界にぶつかり落下。
「お前達に、ルリを触らせるわけがないだろう?」
——-——俺は即座に拘束した。
「あら、本当に強いのね!一瞬だったわ?」
トーコは青い顔をしながらも、口調は呑気だ
———しまった、これは未遂か?室内だからアリか?
とりあえず、捉えて、ペリルに少しの間、泊まりでルリの護衛をする事を報告し、騎士団には襲撃班を回収する様に要請した。
——-襲撃があったので、今日は店を閉めた。
少ししたら、ペリルが様子を見に来た。さっきは軽くしか説明出来なかったから、気になったのだろう。
俺は、店の片隅で防音結界を張った状態で詳細を伝えた。
「その様な流れだったんですね・・・わかりました」
ペリルは、一連の話を理解した後、
「ソージュ様、万が一、ルリさんからの好意が見えていても、絶対に触れてはなりません。好きな相手から刺激を受けたら、たとえお守りがあっても関係無くなりますからね」
ペリルに釘を刺された。俺の性質故の心配だろう。
–––––かつてした失敗は2度としないよ
「チャコからの伝言です「簡単に手を出すと、ただの思い出として立ち直るきっかけにしかならない。逆にさっさとあちらに帰るだろうから気を付けて」だそうですよ」
2人とも俺の心配をしてくれているんだな・・・
–––––チャコに言われるのが1番堪えるな
トーコと穏やかに笑うルリを見る。俺が無知な事で、チャコの時の様に泣かせる事だけはしたくない。そう思っていたら
「ソージュ様、チャコに異変がありました。私は戻ります」
そう言って慌てだし、
———音も無くペリルは消えた
ペリルは、チャコの為なら、なんだってやる
———俺も、見習わなきゃな
バカの手先は、バカだった・・・
瑠璃には指一本触れさせたくなかったソージュはちょっと早くに止め過ぎちゃった。
次回は・・・ちょっと甘めかな?予定外な横槍も?
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