娘の戸惑いとキッチン魔法
仕事ができる男と、料理の出来る男は見ていて気持ちがいいです。
昨日は、娘達とはしゃいでしまった。今日は、通常通り営業だ。昨日楽しかったせいか、いつもより早い時間に目が覚めたので、少し早いけど、仕込みを始めようとしたら
「お母さん・・・おはよう・・・」
瑠璃が目をショボショボさせながら、起きてきた。まだ、半分夢の中の様だ
「おはよう瑠璃、随分と早いじゃ無い、まだ寝てていいのよ?」
私が声をかけると
「何だか、そわそわしちゃって、眠いけど、起きちゃった」
瑠璃は何となく、上の空だ。
「何か気になる事でもあった?」
昨日ははしゃいでいたから、感情の落差があるのかな?
「ん、なんて言うか・・・チャコを見ていたら、羨ましいし、隊長さんはカッコいいけど、現実的じゃないし・・・私には無理かもとか・・・」
半分寝ぼけているせいか、偉く素直な言葉が出てきた。
「とりあえず、ゆっくりでいいんじゃ無い?別に焦らなくても"その時"が来たら分かるわよ?それより、もう少し休んだ方がいいわ」
まあ、すぐに分かるだろうけど・・・
「ん・・・でも、チャコから朝には調理器具が届くはずって言われたから・・・さすがに起きとかないと・・・」
え!朝から?やだわ、急がなきゃ!私は猛スピードで、仕込みを終え、後はメインの仕込みだけになった時
「こんにちは、チャコに言われて、魔導鍋をお持ちしましたけど、どこに置きますか?」
ペリルさんと隊長さんが、朝から爽やかに店内に入ってきた。
「えっと、大きさはどのくらいかしら?」
どこに置こうかと迷っていたら
「お店だから50と20のサイズの、鍋とフライパンを持ってきました。
説明を聞いたら50人前と20人前のサイズらしい。見たら結構な大きさだ。
「狭いから、置き場所が無いわね・・・どうしようかしら?」
私が迷っていたら
「ちょっと、改造してもいいですか?」
ペリルが軽く言ってきたのでOKしたら、ペリルさんは、キッチンをウロウロして
——-パチン
指を鳴らすと、作業台が広くなり吊り戸棚が無くなった。よく見たら作業台に浅い引き出しがいくつか付いている。
「引き出しは空間魔法の引き出しになっているから、かなり入りますよ。適当に分類したので、使いやすい様に入れ替えてください」
なんて、あっさり言うが・・・
「めちゃくちゃ使いやすいです。ありがとうございました」
文句無しのレイアウトだった
配置も決まった。さて、お幾らするのかしら?
「隊長さん、改装代含めてお幾らかしら?」
お金は国王からむしり取ったからそこそこあるから大丈夫よね?
「ああ、大丈夫ですよ。チャコが世話になったお礼と、お近づきのしるしです。受け取ってください」
にっこり笑顔で引く気は無いのが分かる。
「・・・ちょっと、釣り合いが取れない気がしますが・・・」
瑠璃をチラッと見る。娘に対する賄賂だと思う事にしよう。私はため息をつき、
「ありがとうございます。助かります。」
と、頭を下げて礼をした。
気持ちを切り替え、早速、今日の日替わりのトンカツを下拵えしようとしたら
「手伝いますよ」
隊長さんが腕まくりをして近づいてきた。
「ルリさん、チャコは今どこにいますか?」
瑠璃がチャコちゃんの居場所を伝えたので、ペリルさんは起こしに行く様だ。
「隊長さんは、お料理が出来るの?」
私が尋ねたら
「出来るとは・・・切ったりする手伝いくらいですよ」
と、綺麗な顔でハニカミながら笑うから、思わず了承してしまった。
「お母さん、キャベツ千切りでいいの?」
瑠璃が付け合わせのキャベツを切る準備をして待っている。
「お願い!・・・隊長さんも・・・キャベツお願いしてもいいかしら、大量だから・・・」
トンカツにはキャベツよね?
瑠璃が切っているキャベツを見て、隊長さんが"パチン"と指を鳴らしたら、準備したキャベツが全て千切りになった。
「え?何それ!どうやったの?!」
瑠璃が隊長さんの手を掴み、ジロジロ観察していたら。隊長さんは居心地が悪いのか、ソワソワしながら
「食材を切る時や、同じ工程が重なる時は、イメージしてから発動すると楽ができるんだ。ペリルなんか、見なくてもやれるけど、俺は指を鳴らさないと、発動出来ないかな」
瑠璃は、隊長さんの手を握ったまま話を聞いていた。
「あ、あの、手を・・・」
隊長さんが、弱々しく主張したら
「あ!ごめんなさい」
と言って、瑠璃が慌ててパッと手を離した。
「トーコさんは、今何を?」
隊長さんはほっとしたのか、手をにぎにぎしながら、こちらのやる事が気になるのか寄ってきた。
瑠璃を見たら自分の手を、キュッと胸の前で、握りしめて何やら考えている。
––––瑠璃、沢山迷いなさい
「トンカツよ。今から順番に衣をつけるの」
粉、バッター液、パン粉と並べて準備万端だった。
「トーコさん、工程を思い浮かべて、出来上がりを想像して、魔法を発動してみてください」
私は目を閉じて言われた通り、想像した。あ、出来る気がする。
私は"パン"と手を合わせ、目を開けたら
———全てのお肉に衣がついていた
「やだ、便利すぎる!瑠璃、あなたもやってみなさい!」
私は興奮しながら瑠璃に伝えた
隊長さんは、瑠璃の側へ行き説明している。
——-ちょっと、あの2人、いい感じよね?
なんて考えながら、次々とトンカツを揚げていく。あげ上がったトンカツを魔導フライパンに並べて置けば、状態保存の魔法に寄って揚げたてが維持されるらしい。便利だわ
瑠璃が、一旦チャコちゃんの様子を見にいくが・・・何故か赤い顔をして戻って来て、一心不乱にきゅうりのスライスを始めた。
「・・・そろそろ、2人を呼んできます」
瑠璃の様子を見て、フッと微笑み、隊長さんはチャコちゃん達を呼びに行った。
——あの微笑みは・・・本物だわ
私は、叫び出したい気持ちをグッと堪えて、トンカツに向き合った。
「おはようございます!寝過ごしました!」
チャコちゃんは、よく眠れたのか、元気いっぱいだ。
「あ、おはようチャコ!朝から見せつけてくれてありがとう!」
瑠璃は今は店内の備品を整理している。物凄く意味深ににっこり笑った。
「おはようチャコちゃんいい調理道具教えてくれてありがとうね?隊長さんとペリルさんから、チャコちゃんが世話になったからって頂いちゃったけど、これってお値段高いんじゃ無いの?」
透子さんは嬉しいけど困った顔をしている。
「・・・お近づきのしるしです。末永く、大切に使ってください」
チャコちゃんは、含みのある言い方をした。私の読みは当たった様だ。
「分かったわ!ありがとう!任せて!」
私は理解したと、グッと親指を立てた
チャコちゃんとペリルさんは、やる事があるけど、隊長さんは今日は暇だから、お手伝いに置いていくらしい。
––––––ははん?作戦開始なのね?
「あら、隊長さん、お料理ちゃんと出来るの?手伝ってくださるなら助かるわ」
さあ、仲良くなって貰うわよ・・・
「え?!そうなの?あ、うん、わかった。よろしくお願いします?」
隊長さんは、いきなりの事に驚いたのか、言葉遣いが子供っぽくなった。
私と瑠璃で笑っていたら、隊長さんは瑠璃と目があった瞬間、真っ赤になって恥ずかしがっていた
–––––瑠璃、彼が貴方の王子様かもよ?
さあ、ソージュが送り込まれました!
2人の恋は進むのかしら?
オカン、元の世界の訪問販売に、イケメン来たら買っちゃいそうですが、曲がりなりにも経営者なので、ちゃんとお断りします。
次回は、久々に奴らがやって来ます
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