揺れる想いと進む決意 【第2章完】
傷を抱えた娘が、前を向き、他者の幸せに背を押され少しずつ変わっていく・・・
瑠璃と、ペリルさんを部屋の外へ出し、チャコちゃんを宥め、落ち着かせた後、今日は帰宅させた。
チャコちゃんは、瑠璃同様苦しい経験をして来たのだろう。こちらの世界に来て、ペリルさんと出会い、相思相愛になるも、知らない世界で1人では不安な日々だったはずだ。
瑠璃もチャコちゃんも恋愛が下手くそだ。だから必要以上に傷つく事になった。トラウマになる程の裏切りなど、なぜこんなにいい子達が経験する事になったのか・・・
家の瑠璃しかり、辛い時にちゃんと泣かないから、浄化されないんだ。チャコちゃんは泣けたし、ペリルさんが放っては置かないだろうから、心配ないだろう。問題は家の娘だ。
ペリルさんは、チャコちゃんを抱き上げたまま、馬に乗り帰宅して行った。私は防犯の為に強固な結界を張り直した。
私は、2人を見送る瑠璃をチラッと見た。
「チャコさん・・・愛されてていいなぁ・・・」
チャコに一途なペリルを見て、瑠璃は寂しそうで羨ましそうだ。
「チャコちゃんね、瑠璃と一緒で恋愛音痴みたいよ?」
私がそう言って瑠璃を見たら
「ちょっと、お母さん、恋愛音痴はひどく無い?」
と、嫌そうな顔をした。寂しい顔より怒りの方が何倍もマシだ。
「あら?お母さんも恋愛音痴よ?遺伝なんだから仕方がないじゃない?」
そう返せば・・・
「えー・・・じゃぁ、仕方がないのかなぁ・・・」
と、渋々納得をしているが、嘘だから、貴方は幸せになりなさいね?
「瑠璃、恋をするのは素敵な事よ?まだ、考えたくないかもだけど、貴方はまだ若いし、これから素敵な人がワンサカ寄ってくるから、今から覚悟しておきなさいね?」
だって、私の自慢の娘よ?モテるに決まってるじゃない?クズ男なんてこっちから願い下げよ?
「・・・うん、チャコさん見たら、ちょっと?羨ましいって思えたの。だからきっとまた懲りずに誰か好きになるかもね?」
瑠璃が柔らかく笑う姿を久しぶりに見た気がした。
「幸せな人見ると、エネルギー貰えるから、明日、チャコちゃんが来たら、いっぱい惚気話聞けば、きっと直ぐに恋愛したくなるわよ?」
若いんだから、どんどん釣られて、新しい恋愛すれば良いのよ
同世代の同じ世界の女の子だからこそ、瑠璃とチャコちゃんは、お互いに響き合う気がするわ?2人とも幸せになってほしいわね?
とりあえず、話し合いはまた明日だ。やる事がなくなってしまい、とりあえず、作り替えた居間を畳に変更する。折角だからもっと居心地良くしようと、瑠璃と2人で模様替えをしていたら
コンコン、コンコン
と、裏のドアを叩く音がした。そっとドアに近寄ると
「私です。何事も無く無事ですか?」
と、ケルナーの声がした。
「今開けるわ」
と、裏口のドアを開けたら・・・
「トーコ、確認もせずに、ドアを開けてはいけませんよ?」
と、開口一番に怒られた。
「だって、ケルナーの声だったし」
そう返し、中に招き入れる。
「もしかしたら、声を真似る人がいるかも知れません。今度からは、そうですね・・・私の好物を尋ねて下さい」
扉を施錠しながらケルナーの好物を考え
「レモネードかグラタンと答えたならケルナーね?」
私が迷わずに答えると
「え?それですか?確かに・・・合ってはいますが・・・何というか・・・いささか恥ずかしいですね?」
ケルナーはちょっと照れ臭いのか、私から目を逸らした。
「多分、真似する人は、もっと大人で格好が付く物を言うでしょうね?」
そもそも、レモネードもグラタンも知らないだろうし?私は話しながらケルナーをカウンターに座らせた。
「確かに分かり易くて良いですね?ところで、少し話がしたいのですが、ご予定はもう、お済みですか?」
ケルナーが、わざわざ来たと言う事は、何か伝えたい事があったのだろう。
「今日はもういいわ。とりあえず、レモネードでも飲む?」
カウンターに座るケルナーの前に、レモネードを出した
「・・・お言葉に甘えて頂きます」
と、言いながら嬉しそうに飲んでいた。
「で?私に予定が有るのを知っていたのに、わざわざケルナーが来るって事は、何かあったのね?」
効率重視のケルナーなら、後に回せる話なら明日にした筈だ。
「ゼーネンが呼び出されたので・・・奴の逃亡先が分かりました」
え?ゼーネンって瑠璃とデートした医官よね?
「呼び出されたって・・・彼、大丈夫なの?」
ひどい事されなきゃ良いけど・・・
「ゼーネンは、バカの専属医だったので、ある意味扱い慣れてるから大丈夫です。彼の事を味方だと勘違いしている様で・・・呼び出されたみたいです」
バカ王子に味方扱いされるとか・・・ゼーネンも可哀想に・・・
「直ぐに捕まえられる?」
早く安心して暮らしたいわ?
「申し訳無いが、少しだけ協力してほしい。もう、皆限界なんだ」
ケルナーが頭を下げた。
部屋の整理を済ませた瑠璃は、話を聞いていたのか、頭を下げたケルナーを見た後、私を見て頷いた。瑠璃は協力するつもりだ。
「ケルナー、何に協力すれば良い?シュラーフは、何をしたいの?」
私が尋ねたら、ケルナーは真剣な顔でこちらを見つめた。
「ザンフト王を逃亡した王子の連帯責任で、玉座から引き摺り下ろす為に、敢えて奴を泳がすつもりです。基本的に今と変わりませんが、夜も周囲にベーレンを配置しますし、私も必ずこちらに来ます」
囮作戦ね?直ぐに動くのかしら?
「分かったわ。瑠璃、大丈夫?」
瑠璃を見たら、拳をキュッと握って
「大丈夫よ!いざとなったら私が倒すわ」
と、勇ましいが、危ない事はやめてほしい。
「ルリにはいつも、不便をかけてしまって済まない。これが済めば風通しが良くなるから、もう少しだけ待ってくれるか?」
ケルナーは瑠璃には口調が柔らかくなる。彼にとって、瑠璃は守るべき存在なのだろう。
「ケルナーさん、私は大丈夫よ?大変そうだけど、頑張ってね?」
瑠璃が励ますと、ケルナーはキリッとして
「お任せください。必ず、任務を遂行してみせます」
と、丁寧な礼をしてみせた。
「明日、ランチ後にまた、人に会う予定があるのよ。でも、隙を作るなら、一日中営業した方がいいわよね?明日は夕方閉めるけど、明後日からは夜まで開けようかしら?」
シュラーフとケルナーに、隠し事はしたくないけど、本人が知られたく無い事を私が話すわけにはいかない。
「それは・・・確かに隙が出来た方が、こちらには都合はいいですが・・・お任せします。
ケルナーはちょっと嫌そうな顔をしたが、効率よく進むだろうと予測したのか納得した。
「後、ずっと渡し忘れてましたが、この通信具を使って下さい。1番はシュラーフ様、2番が私、3番でベーレンに繋がります。予定が変わる時は、教えてください。」
私は緊急用に、ケルナーから腕輪型の通信具を受け取った。
この、敢えて隙を作る作戦が
——瑠璃の心を大きく揺さぶる事に繋がった
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
「食堂オープン」から始まった第2章は、母と娘、そして訪れる人々の物語でした。
"皆が幸せになれたらいいな"
と、願って書きました。
次回から第3章がスタートします。
娘に訪れる“まさか”の恋?
超絶イケメンな"あの人"との出会いに、どうかご期待ください!
これからも応援よろしくお願いいたします
 




