勇者チャコ、嫉妬に倒れる
勇者チャコ、遂に「オカン」の世界へ・・・
今日は、秘密の来客がある、ランチの時間を早目に終えて、お客様が退店したらサインボードをさっさと片付けた。
ベーレンにも今日から3日は、ランチ後は疲れたから休むと昨日の内に伝えた。ケルナーにも同じ様に伝えたが、見抜かれ
「何か、やりたい事が?私で良ければお手伝い致しますよ?」
と、手伝いの申し出まで頂いたが、人に会う
だけだから手伝いも何もある訳も無く・・・
「乙女の秘密です!」
と、伝えた。ケルナーは不思議そうな顔をしながらも、それ以上追求する事は無かった。
「店を閉めたら、夜同様にしっかり結界を張って下さいね?外に出る時は認識阻害眼鏡を必ず掛けてください。何かあったら必ず言って下さいね?」
と、いい、昨夜は帰って行った。
店の片付けをしていたら瑠璃が
「お母さん、カモミールが少ないからちょっと薬草店に行ってくるわ」
と、いい出した。
「待ちなさい、1人でなんて危ないわよ?」
私も向かおうとしたら、
「・・・お母さん、眼鏡をかけているから大丈夫。いつもプッツェンが一緒だと、あの子は眼鏡してないから、目立つだけよ?眼鏡してれば本来目立たなくなるんだから平気よ?」
そう言われて、確かに?と思う。
「・・・それに、いつまでも、独り歩き出来ないのもどうかと思うわよ?」
瑠璃なりに、色々考えているのだろう。小さな子供じゃない。薬草店も店外に出れば家から見える距離だ。反対するのも酷だ
「分かったわ。とにかく気をつけて。いざとなったら攻撃しなさい。後始末は、私がなんとかするから」
私が相手を消す手筈を考えていたら
「お母さん・・・物騒よ?とりあえず直ぐ戻るから心配しないで!」
と、手を振り出て行った。
今日、勇者が顔を出しに来るとアルゼから伝言が入った。勇者の名前は"チャコちゃん"約束時間はもうすぐだから、そろそろ来るだろう。
私は急いで店内を清掃して、お客様にお出しするお茶も準備した。ついでに食糧庫から減った食材を補充しに裏に向かい、幾つかピックアップしていたら
カランカラン♬
「お母さん、お客様が来たよ」
瑠璃が戻って来た様だ。もしかしたら、勇者と入り口で遭遇したのかしら?
私はキッチンから顔を出して、来客者を見ると、そこには瑠璃の顎ぐらいの身長の
——小さくて可愛い女の子がいた——-
「あらあら、もしかして貴方がチャコちゃんかしら?」
小さなチャコちゃんを気遣う様に、1人の青年が彼女を見つめている。
私が話しかけるが、チャコちゃんはどうにも所在なさげだ。どうしたのかしら?人見知りなのかな?
「・・・さっきチャコさんに助けて貰ったの。今日は3人に囲まれたわ」
瑠璃は彼女達に助けられたらしいが・・・だから言ったじゃない!もう!
「・・・よくあの様な事があるのか?」
青年が瑠璃に尋ねている。多分、この青年がアルゼの兄だろう。見るからにチャコちゃんを大切にしているから、治安が心配なのかもしれない。
「いつもは眼鏡をしていて・・・ぶつかって壊れてしまったんです」
瑠璃、不注意にもほどがあるわよ?
「・・・直しましょうか?」
アルゼの兄だけあって一瞬で眼鏡が治った
「あら、直してくれたのね?良かったわねルリ、本当に気をつけないと。あの勘違いバカ王子が、その辺にうろついてるかも知れないし・・・こちらの世界は今迄とは違うのよ?」
本当に気を付けて頂戴・・・しかし、さっきから、どうしたのかしら?チャコちゃん、どんどん顔色が悪くなってないかしら?
「もしかして2人とも日本人ですか?」
チャコちゃんがやっと口を開いて瑠璃に話しかけたが、真っ青で呼吸が浅い・・・やだ、これ、瑠璃と一緒じゃ無い?
「ええ、お母さんと一緒にいたら聖女の召喚に巻き込まれてしまって気付いたら2人ともこっちにいたわ」
あ!倒れる!!危ない!そう思った時には既にアルゼの兄が抱き止めていた。
「チャコ?大丈夫?おい!チャコ!どうした?しっかりして!目を開けて?」
アルゼの兄は、チャコちゃんを抱きしめたままパニックになっている。
「アルゼのお兄さん。大丈夫。気を失っただけよ?とりあえず、貴方のお名前を教えてくれるかしら?」
私はパニックになっている青年の背中を軽く叩き、意識をこちらに向けさせた。
「・・・あ、取り乱してしまい、申し訳ありません。私の名はペリルと申します」
丁寧な対応だけど、チャコちゃんを抱きしめて離さない。このままにするのもダメよね?
「ちょっとだけ待ってて?チャコちゃん休ませる場所整えるから」
私がそう言って場を離れると、ペリルさんはチャコちゃんを抱き上げついて来て
「物だけ貸して頂けたら私がやります」
と、言うから、家具用の鞄を渡したら、秒で部屋が座敷から板間にベッドがある部屋に様変わりした。
ペリルさんはそっとチャコちゃんをベッドにおろし、手を握り頭を撫でている。心配なのだろう。必死さが伝わって来る。
戻された鞄を見ると、丁寧に畳も仕舞われていた。これなら後から治しやすい。アルゼのお兄さんだけあって凄いな?
「ペリルさん、チャコちゃん、今までにこの様な発作はあったのかしら?」
私が尋ねると、ペリルさんはしばしば考えた後
「いえ、一度もありませんでした。さっきのは・・・過呼吸ですよね?」
ペリルさんも過呼吸を知っている様だ。
「そうね?チャコちゃん、何か過去に、不安とか辛かった事があったか、ペリルさんは聞いてないかしら?」
私が尋ねると
「・・・前の世界で・・・色々あった様です」
簡単な話では無さそうね?
「恋愛関係で、傷ついた事は?例えば浮気されたとか、裏切られたとか」
私の言葉に、ペリルだけで無く、瑠璃もビクッとした。
「・・・よくお分かりですね?それが原因ですか?だとしたら僕が・・・」
ペリルさんは真っ青だ。
「んー、多分ね?簡単に言うとヤキモチかな?チャコちゃん、ペリルさんが大好き過ぎて、うちの瑠璃と並んだ姿見たら不安になったんじゃ無いかな?ペリルさん色男だし?」
私がそう言うと、
「は?ヤキモチ?誰に?」
と、ペリルさんは全く瑠璃は眼中に無い様子だ。珍しい人だわ?
「家の瑠璃によ?かなりの美人でしょ?だからチャコちゃんはペリルさんが、瑠璃に気を取られちゃわないか不安になったの。その不安に引きずられて、トラウマになる程の過去の傷を思い出しちゃったのね」
私はペリルさんに変わる様伝え、回復魔法を掛けた。そろそろ目覚めるだろう。
「私がチャコ以外に目を向けるなど、天地が返ろうとあり得ないのですが・・・不安にさせてしまったんですね」
まあ・・・熱烈ね?羨ましいわね?
私はまだ若く、エネルギーに溢れる恋愛中の2人を見て、瑠璃にも早く2人の様に、思い合う人が出来てくれたら・・・と、つい思ってしまう
「・・・んっ・・・」
回復魔法に反応して、チャコちゃんの意思が戻って来た様だ・・・
「チャコ、大丈夫か?」
「チャコさん?辛くない?」
チャコちゃんの呼吸が、瑠璃とペリルさんが並んでいる姿を見て、再度乱れてきた。これはダメだ、一旦視界から無くそう。
「瑠璃、ペリルさんちょっとチャコちゃんとお話ししていいかしら?瑠璃、ペリルさんに何かドリンクを出してあげて」
私はそう言って、2人を部屋から追い出した
次回で第2章が終わります。3章からはやっと恋愛パートに・・・?
この話からは、「トングが聖剣」と時間軸が重なります。チャコとペリルの恋の話として
ep158にチャコ視点がありますが・・・158だけならいいけど、それ以降はネタバレになるから、まだ読まない方がいいかも?
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