疲れた男と華麗な引き抜き
カウンターの男3人は酒では無く
パフェとハーブティーとカフェオレで乾杯!
ベーレンの機転で、お忍びの国王に絡まれる事なく終わった翌日、いつもより遅い時間にベーレンが現れた。見るからに疲弊している。
「お疲れ様、こんな時間だけど、ベーレン専用のパフェはいかが?」
私がそう言えば
「ん?俺専用?なんだ?なんか嬉しいからそれを頼む」
ベーレンの目がちょっと嬉しそうになる。
私はベーレンの前に"ドン"ドン"と特大パフェグラス?ジョッキ?を2つ置いた。普通の人には大食いチャレンジだろう。通常のパフェの5倍と3倍の器を作った
「なんだこれは?デカいな?」
ベーレンは驚いたが、目をキラキラしながらジョッキを見つめた。
「こっちが5倍、こっちが3倍。どっちにする?」
意味を理解したベーレンは身体中から喜びのオーラを放っている。
「くっ・・・もう少しで夜だから3倍にする」
葛藤の末3倍のジョッキを選んでいた。
「ベーレン、見て?スプーンもベーレン特別仕様にしたわよ?」
特大ジョッキだと普通のスプーンでは食べにくいから、スプーンもサイズを合わせた。
ベーレンがスプーンを持ってウキウキしている間にジョッキにパンケーキやら、生クリームやら、果物やら、アイスやらをどんどん詰めて行く。最上段はプリンを乗せてプリンアラモード仕様だ。
「あ、しまった!これ、重いわ!」
思った以上に重量があり、一瞬焦った。瑠璃が気付いて代わりに運んでくれた。私も、もう少し筋肉増やさなきゃダメね?
「こ!これは!夢みたいだ!」
パフェを見たベーレンは子供のようにはしゃいで、そーっとプリンを掬っていた。
「ゆっくり食べると、食べ終わるまでに溶けるから、バクバク行っちゃってね?」
いつもチマチマ大切そうに食べているから、たまには豪快に食べるのもいいだろう。
カランカラン♬
ドアベルがなったので入り口を見たら、いつもならもっと遅くに来るケルナーがゲナウと共にやって来た。
「珍しいわね?一緒に来たの?」
面識はあるだろうけど、共に来るとは・・・
「いや、途中で遭遇したんだ。向かう先が一緒だから、話しながら来たんです」
ケルナーはカウンターにいるベーレンを見て顔をひくつかせる
「ベーレン・・・なんですかそれは?」
ケルナーは甘い物が苦手だから顔を顰めたが、ベーレンの対角のカウンターに座った。
「騎士団長様、それはパフェですか?」
ゲナウは一瞬迷って、ケルナーの隣に収まり、ベーレンのパフェを見ている。彼は甘党だから、ただ大きさに驚いている
「トーコ特製の俺専用パフェだ!いいだろう?」
ベーレンは嬉しそうに2人に自慢した。
「後、ゲナウ、ここではベーレンでいい。ここでは畏まらなくていい」
ベーレンは休まずパフェを食べながらゲナウに伝えた。
「・・・でしたら、私の事もケルナーと呼んでください」
パフェを見なかった事にしたケルナーは、そう言って、パチンと指を鳴らしオフモードになった。今日はかなり疲れて居るのだろう。
「は?え?誰?」
ゲナウが混乱して居るのを見てケルナーが笑う
「っとに、ケルナーのプライベートはずるいよ。普段と違いすぎるよなぁ?俺ですら見抜けなかったよ」
ベーレンがケルナーに不満を漏らした。
「全く違えば、名を呼びやすいでしょう?別人と思ってくれたらいい」
ケルナーはフッと色気たっぷりに笑う
「トーコさんは、驚かないんですね?ケルナー・・・の姿は見た事あるんですね?」
ゲナウは、一瞬迷ってケルナーを呼び捨てた。ちょっと可愛い。
「だいたい家にいる時はこの姿だから、驚きはしないわよ?」
そう伝えたえれば、2人の動きが固まった。
「トーコ、ハーブティーを」
ケルナーはマイペースだ。
「いつものでいい?なんか疲れてそうだからラベンダー入りにしようか?」
私がメニューに書いてない物を言ったからか、二人が揃ってバッっとケルナーを見た。
「ああ、ハチミツ無しで頼むよ」
ケルナーは見られていても全く気にしない。
「ゲナウ、カフェオレ?それともプリンアラモード?」
ゲナウは散々迷って、カフェオレを頼んだ。彼もいつもより疲れた顔をしている。
私がお茶を淹れる間、3人で何やら騒いでいたが、奥まで入ると小さな声は拾えない。盗聴魔法を使えば聞こえるけど、する気も無い
「お待たせ、ハーブティー、ついでにお代わり置いとくわよ?」
ケルナーの前にポットも置く
「はい、カフェオレ、クッキー良かったら食べてね?」
普段は一枚だが、5枚つけたら、ゲナウの目がキラキラした。
私は晩御飯の仕込みをやってしまおうと思い、カウンターで作業をはじめると
「ベーレン、この前は、回収してくれて助かりました。知らぬ間に居なくなっていたようで、手間にはなるのですが、この先は、監視を付ける事になりました。皆、それぞれ持ち場もあり、暇では無いのに・・・いっそ首輪でも付けて縛っておきたい・・・」
ケルナー、国王に首輪は流石に不味いわよ?
「あの時は、いるはずのない人間が居たから、びっくりしたな?しかも店内で余計な事口走りそうになるから、勢いで張り倒しそうになったよ」
ベーレンが張り倒したら・・・消し飛ばないかしら?
「・・・もしかして、忍んだ先って・・・」
ゲナウも話は聞いて居るんだろう。どこに居たかは知らなかったみたいね
「ここだな」
「あの席だ」
ケルナーは場所を答え、ベーレンは席まで教えた。
「あの・・・アレ、このままで国は大丈夫なんですか?最近、我々官僚内でも不安視されてますが・・・」
ゲナウも疲れた表情で発言した。アレ呼びはもう見切ってるわよね?
「はぁー、だから、シュラーフ様が不眠不休で動いて居るんだ・・・正直手が足りない」
ケルナーが頭を抱えた。相当大変みたいね?
「ケルナー、今は時間大丈夫なのか?」
ベーレンがケルナーの都合を尋ねると
「ああ、だいたいこの時間から、シュラーフ様は魔導師関連の作業をなさるから、その間だけが休暇」
ケルナーは休みが無いらしい。知ってた。本当によく働く人だ。
「・・・全て、馬鹿な王族の尻拭いに時間を割かれるせいなんだろ?・・・どうするんだ?」
ベーレンは王族に対して辛辣だ。
今までも、彼等は三者三様に、王族の無理難題に振り回されて来た様だ。多分、色々と限界だったのだろう。
「まだ、引き摺り下ろすには、後一歩足りないんです・・・そうだ、ゲナウ、俺の直属に来ませんか?今の仕事よりやりがいありますよ?休みは・・・ここには来れますね」
ケルナーはゲナウを引き抜きにかかる
「や、ありがたいけど・・・」
ゲナウはいきなり言われ混乱した。・・・気付いているのだろうか?休みは無いらしいぞ?
「ゲナウ、諦めろ、ケルナーが声を掛けた段階で多分根回しは全部済んでるぞ?」
ベーレンはよく分かっているようだ。
「そうですね・・・ゲナウなら色々都合がいいなと、前から思っていたんです。とりあえず明日には執務室に机が入ります。これからよろしくお願いします」
顔を青くして、ワタワタしているゲナウを見て、ケルナーは口角を上げ、優雅で上品な佇まいでハーブティーをゆっくり楽しんでいる。
ゲナウ・・・ケルナー相手には勝てないわよ?とりあえず、明日から頑張りなさいね?
バカな王族に振り回され疲弊した結果、3人は仲良しになりました。ゲナウ・・・ファイト!
次回は、ひとつは平和な知らせ、ひとつは不穏なお知らせ・・・
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