バレてないと思ったか?
来ちゃった❤︎
落雷騒動から数日が経ち、慌ただしかった王宮も落ち着きを取り戻した。
——やっと「メシヤ」に行ける。
騎士団長の肩書きは重い。騎士も兵士も仕事内容は似ているが、騎士はより高い社会的地位があり、名誉を伴う。その長ともなると責任の重さが桁違いに変わる。
自分の発言や行動で人の命が左右してしまう。だから、常に気を抜けない。酒に逃げた事もあった。しかし、酔った頭では小さな間違いに気付かず、それが後に大きな事故に繋がる事もある。
———俺のせいで死んだ奴らがいた。
それ以来、酒は辞めた。最近はスイーツだ。
トーコに背を押され"パフェ"を初めて食べた時の感動は今でも忘れる事が出来ない。
今の俺には「メシヤ」の飯とスイーツが唯一の心の癒しだ。店主のトーコも聖女だからだろうか?そこに居るだけで幸せな気持ちになる。
娘のルリちゃんも気立てがよく、働き者だ。二人を見ているだけで元気になれる。数日来店が空くのは、通い始めてから、初めてかもしれない。
カランカラン♬
ドアベルの音と共に洗浄、浄化の魔法がかかる。既にスッキリした気持ちになり、カウンターに向かうと
「ベーレンさん!忙しかったの?来ないからお母さんと心配していたのよ?」
ルリちゃんが気付いて声を掛けてくれた。
「ベーレン、この前は色々ありがとう・・・物凄く助かったわ」
トーコがおしぼりと水を目の前に置いてくれた。
「心配してくれてありがとう。やっと落ち着いたから抜けて来たよ。日替わりといつもの奴、頼んでもいいか?」
2人の声かけともてなしに、心底安堵する。このカウンター席が俺の居場所じゃないかと思ってしまう。
俺はいつもL字型のカウンターの短い卓に座る。この席は店内全てが見えるし、トーコの料理する姿がよく見えるから退屈しない。
「ベーレンさん!今日の日替わりランチは
メシヤ特製の"焼きうどん"ランチよ!」
ルリちゃんに教えてもらった"焼きうどん"のメニューに顔が綻ぶ。
好物に当たるなんて、なんて運がいいんだ!
「メシヤ」の焼きうどんはうどんから作っていると聞いた。そもそもうどん自体初めて食べたが、豚肉とネギの旨みを吸ったモチモチの麺に、焼かれて香ばしくなった醤油が絡まって・・・考えただけでお腹が鳴る。
「ベーレン、アル爺を派遣する事、ケルナーに進言してくれてありがとう」
トーコは焼きうどんを炒めながら声を掛けて来た。
「礼を言われる程の事はしてない。兵士に良くある病だから、医局長の爺さんが詳しいと思っただけだよ」
トーコに褒められてちょっとソワソワした気持ちになった。ま、嬉しくはある。
「アル爺ね、余計な世話したと瑠璃に謝っていたわ。ゼーネンの事は気にしなくていいって。焦ることは無いとも言ってくれたって」
そう言ってトーコは店内を清浄するルリを見つめている。本当に娘思いの母親だ。
「・・・兵士のバカ2人は、二人だけでなく、兵士全体の緩みを指導者に指摘したから、いままでよりも規律が厳しくなったはずだ、少しはマシになるはずだ」
聞かれてはいないが、念の為あの時の二人の兵士の現状を伝えた。
「ベーレンも掛け合ってくれたのね?本当にありがとう。これ、お礼のかわりになるかしら?"大盛り焼きうどんランチ"お待たせ致しました」
目の前にドドンっと焼きうどんが置かれた。ほかほか湯気が上がり旨そうだ。
「大盛りだと?!さすがトーコだ!最高だ!頂きます!」
お礼に大盛りにしてくれたらしい。返答の代わりにトーコを褒め称え好物に向き合った。
夢中で食べていたが、なぜかふと、ボックス席に目が行く。そこにいる男はさっきからトーコを目で追っている。注文したいならルリちゃんを見るはずだ。知り合いか?
焼きうどんを堪能し、さぁメインディッシュだ!と、思ったら、目の前に、まだ頼んでいないのに"愛しのパフェ"が現れた
「ベーレン、今日はパフェはいくつ食べても奢るわよ」
トーコがいつの間にかカウンターから出て来て、焼きうどんの皿とパフェを交換しながらコッソリ耳打ちして来た。
・・・びっくりした。急に耳元にトーコの声がしたから、驚いてドキドキしてしまった。
ちょっとソワソワしながら
「そんな事言っていいのか?物凄く嬉しいぞ?今、俺はかなり飢えてるから、何度もお代わりしちゃうぞ?」
と、やりとりをしていたら、さっきからトーコを見ていた男から殺気を感じた。
やっぱり変だな?と思い、パフェを食べながらその男をしっかり観察する。
男の挙動に既視感を覚える。お茶を飲む姿勢に見覚えがある。と言うか、今朝も見た・・・
・・・あり得ない
・・・国王だ・・・
髪型を変え、認識阻害眼鏡をかけているが、立場的に認識阻害した姿は何度も見ている。コソコソしながら観察してくる、明らかに怪しい男を見て、誰が国王だと思うだろうか?
「トーコ、そのまま聞いて?奥のボックス席の眼鏡、アレ、手紙の主。1人だから多分お忍びだな」
俺にパフェを届けたついでにカウンターの整頓をしていたトーコは気付かなかったのだろう。物凄く嫌そうな顔をした。
「トーコ、お礼、気持ちだけ貰っとくよ。今から回収するから、絡まれたくなかったら一瞬裏に逃げるといい」
俺が手早くパフェを食べている間に、トーコが瑠璃を呼び、カウンターから奥へ向かった。俺はため息をつき、一応こんな所にいて良い人では無いので、連れ帰る事にする。
「・・・ザンフト様、この様な場で何を?従者はどこにいらっしゃいますか?」
近寄り話しかける。店内には他に客もいる。早く連れ出さねば。
「・・・やっぱりバレたか。ベーレン、随分と聖女」
俺は咄嗟に王の口を塞ぐ
「話は戻ってからにしてください」
かなりの圧を向けて、ザンフト王を無言で連れ出した。
帰りの道中、根掘り葉掘り聞かれたが、俺は全て曖昧に答え、無事国王を連れ帰った。執務室まで連れ帰ったが、誰一人ザンフト王がいなかった事に気付いていなかった様だ。
この人は、普段、仕事してないのだろうか?
とりあえず、シュラーフ様に報告だな・・・




