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父親になるのも悪くない

今日も城からの出立が遅くなってしまった。と足早に「メシヤ」に向かう。報告を聞く仕事があるとは言え、日々の報告などプッツェンに任せても良いはずだが、気付けば毎日同じ時間に通い詰めている。


店の前に辿り着くと珍しくサインボードが既に仕舞われている。今までこの時間に店を閉めているのは一度しか見た事が無い。


今日は、魔導オーブンの修理が来ていたはずだ。私が手配したのだから間違いない。普段なら閉店しているなら踵を返す所だが、オーブンがちゃんと修理されたか確認をする為に私は店の扉を開けた。


カランカラン♬


ドアベルが鳴り、ドアベルに仕込まれた洗浄浄化魔法が発動して気分もスッキリした。


店内に人がいない?・・・私はふと、カウンターに目をやった。現金がそのまま置かれている。営業したのだろうか?置かれている金貨を見るに、1人分では無さそうだ。


しかし、営業したにしても、カウンターに売り上げを置き去りとか、通常のトーコとルリなら絶対にありえない。


奥からパタンと音がして、トーコが店内に戻って来た。どこか様子がおかしいから、トーコに訳を聞く事にした。


「トーコ、何かあったのか?」

私が声を掛けると


「あら、ケルナー?いつの間に?お疲れ様。いつものでいいかしら?」

トーコはキッチンに向かったので


「トーコ、売り上げ置いたままですよ?体調が優れませんか?」

私は売り上げをまとめて、キッチンに赴きトーコに渡す。


「忘れていたわ。ありがとう。ちょっと色々あって、食事も出来てないから、今何か作るけど、なんでもいいかしら?」

どことなく疲弊して見えたので、とりあえず話を聞く為にトーコに提案した。


「たまには私が作りましょう。トーコは座ってください。ハーブティーは頂きます」


トーコの背を押しカウンターに座らせる。おかわり用のポットのハーブティーをカップに注ぎトーコに渡す。


「ケルナー、疲れてるのに・・・ありがとう」

トーコはふぅ、と珍しく溜息をついている。


私はトーコの話を聞きながらポトフを作る

キャベツ、玉ねぎ、にんじん、じゃがいもを適当な大きさに切り、鍋に水・コンソメ・ハーブ・野菜・肉を全部入れて火にかける。

沸騰したらアクを取り、フタをしてコトコト煮る。野菜が柔らかくなったら、塩こしょうで味をととのえる。

「・・・それでその様に、疲れた顔をしていたんですね?ルリはもう落ち着きましたか?」

私はスープボールにトーコと自分の分のポトフをよそう。


ポトフはほかほかと優しい香りの湯気でトーコを包み込んだ。プッツェンは、瑠璃の元にいるのか見当たらないので後からでいい


「こちらに来る直前にトラウマになるトラブルがあったのよね・・・私もまだ詳しくは聞いてないのよ。今まで余りにもバタバタしていたから」


思い返せば、瑠璃は最初の頃は目もろくに合わなかったし会話もしなかった。人見知りなんだと思っていた様に思う。


現状もアル爺と俺以外の異性とは一定の距離を空けている気がする。自分は歳がかなり上だから比較的大丈夫なのだろうか?今日の話を聞く限り同世代が怖いのだろうか?


深くは聞かずとも、過呼吸になる程だ。手酷い扱いを受けたのだろう。トーコが瑠璃に尋ねるにも、過呼吸の兆候が現れるだろうから、瑠璃が自ら話さない限り深くは聞け無いだろう。


完全なトラウマだ。


「心の傷は無理に暴くと悪化してしまうから、今はそっとしておいた方が、良さそうですね?ベーレンから青年兵に余り構うなと言って貰います。ゼーネンにも必要以上に近づかない様に伝えておきます」

私は、後から顔を出す旨を2人に通信で伝えた。


「ケルナー、わざわざありがとう。ポトフも美味しかったわ。疲れた体に染み渡るわ」

トーコは笑顔を見せるがその笑顔には心労が見えている。


「トーコ、ルリが異性と一定の距離を空けて接している事に気付いてますか?彼女を異性として意識している相手に警戒が強まるのなら、営業中に負担が掛かっていたのかもしれません」

本人すら気付いていないのかもしれない。


「ケルナー、貴方良くそんな事まで気付いたわね?私ですら言われてみれば、と思った位よ?」

トーコが感心していたら、瑠璃本人とプッツェンが降りて来た。


「トーコ様、ルリ様お腹空いたって・・・部屋にお持ちすると言っているのに、1人は嫌だって・・・あ、ケルナー様!」

プッツェンが名を呼びルリがこちらを見た。怯えてはいけないと退店しようかと立ち上がったら


「ケルナー、来ていたの?今日のご飯はなに食べた?」

と、至って普通に接して来たから


「今日は、トーコに変わって私がポトフを作りましたよ?お召し上がりになりますか?」

と、立ち上がったついでにキッチンへ赴き、ポトフを2人分よそって、それぞれの前に棚にあった丸パンと一緒に提供した。


「ケルナー料理できたのね?え?しかも、凄く優しい味ね?ホッとするわ」

ルリが穏やかに笑う姿を見て、トーコがホッとしたのがわかった。


「・・・ルリ、食事中にいきなり尋ねる話では無いですが、貴方私とアル爺以外はもしかして怖いですか?店に立つ事は負担では無いですか?」

トーコはルリの過呼吸が心配過ぎて聞けないだろう。だから私が尋ねた


「あー、ケルナーにはバレちゃうのか・・・もう、なんでわかるのよー!」

ルリはむくれながらも安定している。


「申し訳ありません。周りの人を観察して、先読みしながら動く仕事なので」

王宮でシュラーフ様の筆頭執事なので、嫌でも有能になりましたね。


「ルリ、今後は男性客に無理して笑いかけなくても大丈夫ですよ。少しでも違和感を感じるなら関わらなくていい。馬鹿な男がいたらきっちり始末するので私にお伝えください」

仕置きはどうするかな?と考えたら


「ケルナー、始末はしなくていいわよ?心配してくれてありがとう。なんだかケルナーってお父さんみたいね?」


瑠璃が嬉しそうに笑う顔を見て、彼女を娘として大切に守り、見守ると言うのは悪く無いかもしれないと思った。


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