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転移者、転生者に会う

転移と転生、するならどっちがいいかしら?

店の前の道にはしとしと雨が降り注ぎ、道を行き交う人も今日はまばらだ。店内にお客様は1人もいない。当然の事だ。瑠璃とプッツェンは部屋でお喋りしながら内職作業をしているはずだ。


店の前には雨の中、サインボードが置かれてそこには・・・


「設備修理の為、臨時休業させて頂きます」


と、表記されている。まだ新しい店なのに修理が必要だなんて、と、思う事だろう。私でもそう思う。でも、修理が必要なんだ。


雨の中、頭からすっぽりフードを被った人影が「メシヤ」に近づく。コチラの世界には傘と言うものが無いので皆ポンチョ姿だ。


カランカラン♬


「こんにちは、ここは「メシヤ」さんであってますか?ツァオバライ商会から、魔導オーブンの修理に参りました」

入ってきたのは、瑠璃と変わらないくらいの年齢層の娘さんだった。


「あら、貴女が治してくださるの?」

凄いわねぇとみつめていたら、アルゼが私をボーゼンと見て


「・・・歴代最強?」

と、つぶやいたが、私に声は届かず


「え?」

と私は聞き返した。


「あ・・・し、失礼しました!気にしないでください」

彼女はアルゼと名乗った。魔道具師らしい。テキパキと修復を進める姿をカウンターから眺めていた。


「ねえ、貴女、眼鏡掛けてるのね?目が悪いの?私の周りには認識阻害眼鏡を使っている人が多い。そのせいか、普通の眼鏡と認識阻害眼鏡を見分ける事ができる様になった。


私は元美容師だ。お客様の細かい仕草や表情から気持ちを汲み取ったり、空気感で良、不良を感じ取ってきた。会話が難しい人や、神経が細かい人も勿論いた。


だから、気になると分析してしまう癖が付いているのよね?アルゼは隠していたみたいだけど・・・さっきは何にボーゼンとしたのかしら?


きっと、彼女は何かが分かっているのよね?だから私を見て驚いた。だとしたらこの世界の人じゃ無いか、もしくは聖女に驚いたって事よね?


召喚を知るとしたら、召喚側の人間か、関係者よね?彼女は勇者には全く見えないし、手際を見る限りコチラは長そうだわ?可能性としては・・・


「アルゼは勇者パーティなの?」

この辺りかな?前にシュラーフと話をした時、勇者パーティと言っていた。事があったんだ。その時は聞き流したけど、召喚は2人だと言っていた。勇者と聖女だろう。だから鎌をかけた


「・・・・・・はい」

あっさり吐いたわ?良かったのかしら?


「あの、黙っていて貰えませんか?誰にもバレたく無いし、討伐とかしたくも無いです」

アルゼは本当に嫌そうだ。


「黙っているのは得意よ?終わったらアルゼの話を聞かせてくれる?」

私は今、使える調理器具を使ってホットドッグを作った。


ソーセージを炒め、横着してキャベツの千切りを同じフライパンに入れ軽く炒め、パンに切り込みを入れてオーブンが使えないから魔法で炙り、バターを塗ったらキャベツとウインナーを挟み、香味野菜とトマト煮込んだだけの、自家製ケチャップをかけた。


飲み物は、瑠璃の最高傑作だ。冷蔵庫から瓶を取り出した。炭酸水だ。瑠璃が空気中の二酸化炭素を瓶の中の水に溶かし込んだ物だ。


次いで、鮮やかなグリーンのシロップを取り出した。これも瑠璃が植物からクロロフィルだけを取り出し、状態保存の瓶に入れてあるから綺麗なグリーンのままだ。


香料はメロンに似た香りの果物から抽出していた。


シロップを炭酸で割り、氷を浮かべミルクアイスを乗せその上にチェリーが無いのでラズベリーを乗せたら、メロンクリームソーダの完成だ。アルゼの反応が楽しみだわ。何となくだけど、彼女は・・・


「アルゼ、まだかかりそうかしら?」

覗きに行くと、丁度修復を終えたアルゼが、自らに洗浄魔法をかけているところだった。


「あ、今、丁度終わりました。お待たせしてごめんなさい」

道具を仕舞ったアルゼは私が案内した席を見るなり


「え?クリームソーダ?」

と言ったので、確定だ。


「貴女、やっぱり日本人よね?何で見た目がちがうの?」 

この国にクリームソーダなんて無いだろうし、ワンチャンあってもそうそう出回らないだろう。


「・・・自分の迂闊さを呪いたくなりますね?そうです。元日本人です・・・」


アルゼは勇者召喚で魂だけ転移した元日本人。前世の記憶はあるが、過去の自分や人間関係はすっぽり無い。天啓で勇者パーティーの魔法使いだと聞いたが、周りに隠して生活している。


能力は『真実の瞳』魔眼らしい。その力のせいで私の素性がわかった様だ。目に特徴があるから隠す為に認識阻害眼鏡をかけている様だ。


「随分と大層な能力ね?大変そうねぇ?」

私がそう言えば、


「や、聖女には言われたく無いかも?」

と、いい返してきたので


「えー、だって魔眼って何だか厨二病みたいじゃない?くっ眼が疼く!ってやつ」

と、目を押さえて突っ込んでみたら


「ですよねぇ、私もそう思って余計に言いたく無いんですよ?でも、同じ日本人だからかな?透子さんにあったらちょっと気が抜けちゃいました」

と、項垂れた。話す内に少しずつ本音を言ってくれる様になった。いい子ね?


「まあ、私には緊張感が全く無いから仕方がないかもね?これから、アルゼはどうするの?」

全くあちこちに迷惑が掛かっているじゃない


「私は何もしません。今回の様にバッタリ出くわすなんて、まず無いでしょうから平気じゃ無いかな?」

うーんどうかなぁ


「偶然じゃ無いのかもしれないわよ?なんて言うか、起こるべくして起こった様に思うから、貴女は繋ぎ役かもしれないわね?」

人との付き合いでは、キーパーソンになる人物が大概いるからそれじゃ無いかな?


「だとしたら、あと2人・・・面倒くさいな。あ、そうだ、報告書に故障理由を記入しなきゃ!透子さん魔導オーブン、壊れた理由、何か心当たりありますか?」

くっ、やっぱり聞かれてしまったわ


「じゃがいも、火魔法じゃなくて直火で炙っても大丈夫かな?ってついオーブンに入れてみたのが不味かったみたい・・・状態保存のおかげでパッと見は良かったんだけど・・・」


アルゼが呆れ果て、私を残念な物を見る視線になったのは仕方がなかったかもしれない・・・


魔眼の魔道具師アルゼは全く討伐する気はありませんでした。存在は秘密です。


アルゼは、トングでも、以心伝心でも出てきます。キーパーソンの割に迂闊です。いつか彼女の話も書く予定です。


次回は、誰かが誰かに恋をするお話です

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