帰りたいけど帰れない 後編
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マカロニグラタンは、危険物だ。あの穴から飛び出すソースに一体今迄何人の犠牲者が出て来たのだろう?食べ慣れている私ですら、油断するとマカロニから攻撃される。
「グラタンはかなり熱いから、気をつけて食べてね?口の中やけどするから」
私は当たり前の言葉を伝えたんだけど・・・
「アチっ」←プッツェン
「アッツッ」←シュラーフ
「・・・」←ケルナー
一口目、全員敗退。ケルナー・・・自己主張した方がいいわよ?
私は即座に回復魔法を投げた。
「トーコ回復ありがとう。これ、中からびっくりするくらい熱いの出てくるんだね?びっくりして味がわからなかったよ」
シュラーフは2口目は慎重に冷まして口にした。
「美味しいな・・・でも、折角なら熱々が食べたいな・・・トーコ、グラタンって難しい食べ物だね?」
シュラーフはうんうん考えながらグラタンと格闘している。熱さに挑んだので回復は追加で2回程した。
プッツェンは一回目で懲りたのかその後はゆっくり食べていた。
問題はケルナーだ。平然と熱々のグラタンを食べ進む。口内の火傷などお構いなしなのかもしれないが、たまにピクッとするからその度に回復を投げてしまった。4回は投げた気がする。
「ケルナー、口の中痛くなかったの?」
私が尋ねると
「折角熱いまま出してくれた料理だから、熱いうちに食べた方がいいかと・・・回復ありがとうございました。美味しかったです」
うん、気持ちは嬉しいけど、体張るのはやめようね?
「気に入ったなら良かったわ。多分店のメニューにも入れるから又食べに来てね」
ケルナーは気に入ったのか嬉しそうに頷いた
食事を終えた後は、お茶を飲みながら皆で話し合いをした。
「帰還の条件や、方法をゴルドファブレンにある勇者資料館と、この国にある資料を調べて貰ったんだ・・・」
そう、今日はシュラーフがずっと私達の帰り方を調べた内容の報告会だ。
「基本的に、今代の魔王が討伐されたら転移ゲートが開くらしい。それははじめに伝えた通りだ。今回は魔法陣にミスがあったから転移場所が2つになってしまったけど、それは特に問題は無さそうだ。ゲートは開く」
魔王討伐ねぇ、どの位の時間がかかるのかしら?まあ、今ならいくらでも待てるわね?
「ただ、討伐後に転移した場所に近付かなければゲートは開かないから、トーコとルリは帰る時は王宮に来て貰う必要があるんだ」
シュラーフが顔を顰めた。何か問題でも有るのかしら?
「今のままだと、トーコ達の帰還を邪魔されるかもしれない」
え?何で?私は瑠璃と顔を見合わせた。
「王宮では既に母親が聖女だった事を位が高い人達は知っている。それだけなら問題ないんだけど・・・」
シュラーフが、ケルナーを見た。
「王宮メイドの中で「国王が聖女様にご執心らしい」との噂が流れ、馬鹿な高官が王には妃が居ないから、聖女に第一婦人となって貰おうと言い出した輩が・・・」
ケルナーがウンザリした顔をする。
「私じゃ、歳を取りすぎているわよ?子供だって難しいわよ?馬鹿なの?」
産めない事も無いが、リスク抱えてまで好きでもない、寧ろ蔑んでる相手の子なんて産みたくは無いわ。
瑠璃とプッツェンはモテモテだねー?と小さな声でコソコソ話している。他人事だと思って呑気なんだから・・・
「それが・・・聖女だから何とかなるだろうと言い出す奴や、とりあえず聖女を娶りたければ誰か適当に子種を植えて産ませろ、と言って王を煽る奴まで出てくる始末だ。こちらがいくら意見を言っても聞く耳を持たない」
自分達の立場の保身もあるんだろう。愚王ザンフトでなければ困るんだろうな?ま、知ったこっちゃ無いわ
「馬鹿馬鹿しくて嫌になるわね?シュラーフ、ケルナーいつもありがとう。お疲れ様。安心して頂戴。邪魔されたらとりあえず無力化してから帰るわ」
全く親子揃って迷惑極まりないわね
「いや、本当に身内が迷惑ばかりかけて申し訳ない。ザンフト王はトーコに会って以来何故か浮かれているんだ。あれだけ迷惑を掛けておきながら・・・どう言う神経してるのか全くわからない」
シュラーフは天を仰いだ。
「あ、後、もしかしたら討伐が早まるかもしれない。5国を跨ぐ特殊部隊が魔物討伐に動いたみたいだから、それが終わったらフェルゼンにも来るだろう。大魔導師様は特殊部隊に所属されているから、その時に馬鹿の記憶改善をお願いするつもりだ」
あら、それは素晴らしい事ね?少しは人の役に立つ人間になれたらいいわね?
「そうなると、帰還は早まるのよね?」
はじめは2.3年はかかると言っていたわ?
「今代の魔王は余り影響力が無いのか、魔族が魔王に協力的では無かったので、余り被害はなく、放置してあったんです。勇者召喚をやめにしてあったのも、特殊部隊がかなり強いので、わざわざ他所の世界の人に迷惑になる事は禁止にしようと・・・していたんです」
思う様には行かなかったのね?て、私達が呼ばれてしまった訳ね?
「そんなに特殊部隊の人達は強いの?」
勇者よりも強いのかしら?
「強いと言うか、今の特殊部隊は既に伝説級ですね・・・戦神、大魔神、守護神、大魔導師それぞれに付けられた二つ名です。多分、この4人が揃ったら国など簡単に滅ぼせるでしょう。いずれご紹介しますよ」
まあ、大層な二つ名ね?
「そんなに強いなら、私は安心してのんびり待つ事にするわ」
とりあえず残された時間目一杯考えよう。
「早ければ、半年以内には帰る事が出来るでしょうね・・・先に言っておきますが、私もケルナーも2人にはここにいて欲しいと思ってます。でも、あくまでもそれは私達の希望なので、お二人でゆっくり考えて下さい」
・・・半年、その言葉を聞いて瑠璃の顔色がさっさと変わった。結婚を予定していた時期に近い。半年悩むにしてもさほど時間がないわね?
どうあれ、瑠璃の気持ち次第だわ。帰りたい気もするけど・・・瑠璃は下を向いたままだ。瑠璃の事を考える今はまだ帰れない。
でも、戻ったとして、私、この先ハサミを持てる気がしないわ?どうしようかしら?




