スパイスと母子 前編
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自室で過ごす、何気ない休日の朝のひととき、窓の外から、瑠璃とプッツェンの楽しそうな笑い声が聞こえてきた。
私はパジャマから着替え、薄手の上着を手にして階下に降り、2人に挨拶をしに表に出た。2人はハーブの水やりの最中に誤って水を被ってしまったらしく、瑠璃が魔法を使ってプッツェンを乾かしていた。
「おはよう、朝から元気ねぇ?」
私は疲れが抜けていない体に回復魔法をかけながら2人に挨拶をした。
「お母さん、毎朝回復魔法掛けてるの?ちょっと無理しすぎじゃない?」
瑠璃は心配しているが、回復魔法が無くても平気だけど、回復魔法、便利なのよね
「無理なんかしてないわよ?朝から疲れるなんてこの歳だと普通よ?貴女も歳を取ると分かるわ。楽だから回復魔法掛けてるだけだから心配しないで?」
そう答えたら、瑠璃はため息ひとつで見逃してくれたが、プッツェンはそうもいかない。
「トーコ様!無理なさらないでください!御身は尊き存在なんです!ほら、ハーブは私が詰みますから、中でゆっくりしてください」
プッツェンが小さな体で私の背中をグイグイ押している。
「そんな事より、瑠璃、貴女ゼーネンと薬草園に行く日は決まったの?」
あの日以来。あまり会話をしていないように感じたが・・・
「あー、忙しいみたいで、店で話すのもなんだからって昨日手紙を貰ったけど、ゼーネンさんの日程だと店が営業だから、断わろうと思って」
瑠璃は少し困った顔をしながらそう返して来た。
「何言ってるの?店は休めばいいわよ?プッツェンも居るから1日くらい大丈夫よ?薬草園興味あるんでしょ?」
私としては是非行って来て欲しい。少しでも早く瑠璃が、前向きになるなら店なんて二の次だ。
3人で「行けばいい」「行かない」「デート素敵ですねら。」「行かないって」「行って面白い薬草を見つけて来なさいよ」など、店の前でワイワイして居たその時、
「あの、ここはお店ですか?」
小さな男の子を連れた女性が遠慮がちに私に話しかけてきた。
「はい?今日はお休みですけど、お店ですよ?どうかされましたか?」
2人ともどことなく不安そうだけど、何かあったのだろうか?
「通りすがりでいきなり声を掛けてしまい、申し訳ありません。入り口に状態の良いハーブが沢山育ててあったので、朝の散歩中に気になって、人がいたのでつい話しかけてしまいました」
女性はハーブを愛おしそうに眺めている。
「ハーブがお好きなんですか?」
その姿を見て、私は尋ねてみたら
「はい、私は趣味で香辛料を作っていて、もし、飲食店なら、私の香辛料を使ってくれないかな?と思って声をかけたんです」
何と、訪問販売か?私はちょっと興味が出てしまい
「良かったら少し中で話さない?」
私は彼女を店の中に招き入れた。息子は瑠璃とプッツェンが外で相手をしてくれる様だ
「休日だから、すぐ出せるのがアイスティーくらいだけど・・・」
私は彼女にアイスティーを出したら、
「申し訳ありません、何だか無理に押しかけてしまったみたいで・・・」
彼女は恐縮してしまうが、私は香辛料が気になって仕方が無い。
「香辛料なら薬草店に卸せるんじゃ無い?」
取り扱いはあまり無いけど、香辛料は中々高価だったはずだ
「趣味程度なので、薬草店に卸す程の数が無くて、買い叩かれてしまうし、他の物と混ぜられてしまうのが嫌で・・・直接飲食店にお話を聞いて見ようと思い、毎朝あちこち散歩をしながら商店街を見て回っていたんです」
自分の香辛料にこだわりがあるのね?
「このお店の前を通ったら庭にあるハーブがイキイキしていたから、もし飲食店なら私の香辛料も大切に使ってくれそうだなって思ったら皆様を見つけて・・・声を掛けてしまいました」
彼女の名前はツィムト、息子はクレッセと言う。彼女の夫は兵士でツィムトは家事の合間に香辛料を育てて加工までやっていた様だ。
今までは自宅で利用したり、知人にプレゼントしたりしていた様だが、旦那さんが事故に遭い帰らぬ人となってしまったらしい。
この先、彼女は1人でツィムトを育てて行かなければならなくなり、仕事が決まる迄は、取り急ぎ生活費をなんとかしようと、手持ちのスパイスを売ろうとした様だ。
しかし薬草店に卸すとかなり安くなってしまうし、丹精込めたスパイスが雑に扱われるのは悲しかった。仲卸を通さず直接店に卸そうと、慣れない営業活動をしようとした様だ。
私はそんな彼女にガッツリ共感してしまった。私も乳飲み子を抱えて1人でやって来た側の母だ。大変さは理解している。私に何か協力出来ないだろうか?
「貴女の香辛料、見せて貰ってもいい?」
私は可能なら購入したいと思う。多少粗悪だとしても使い道はあるはずだ。
「とりあえず見て頂けるなら嬉しいです」
彼女は卓上に丁寧にスパイスを並べていった
「へえ、これ、全部貴女が?凄いじゃない」
卓上には様々な香辛料が並ぶ。どれも香りが高く、品質はかなり良い。店の中がスパイシーだ。
カレーが食べたい・・・そうだ!カレーなら・・・
「このスパイス、どの位の量があるの?」
私は彼女に尋ねたら、彼女はカウンターにそこそこのサイズの瓶詰めされた香辛料を並べていった。見ているだけでワクワクする。なる程、種類はあるが、1瓶だけだと薬草店じゃ扱えないか・・・
「これって、1瓶いっぱいだと、どのくらいの頻度で出来るの?」
彼女に尋ねたら
「それぞれ大体1年ごとです。来年には同じ量になります」
とてもいいわね?
「これ、それぞれが薬草店で売られている時の販売価格わかる?」
私が尋ねたら、彼女は鞄から一覧を取り出して見せてくれた。
中々の値段だけど、開店前の顧客調査で見た平均収入に照らし合わせると、2人が一年暮らすならギリギリか少し余るくらいだろう。
彼女はちゃんとお金の価値を分かっているんだ。と安心した。賢そうだし、受け答えもしっかりしている。信用出来そうだ。
「・・・はい、分かったわ。この香辛料、全部この一覧の価格で頂戴?」
彼女は、私が全く値切らず、その上全部購入すると言ったので固まってしまった。
オカンのキッチンにはズラッとスパイスが並んでいました。持ってないスパイスを見るとついつい買ってしまい、よく瑠璃から買いすぎだと怒られて居ました。オカンはスパイスをコンプリートしたかったのです。
皆さんのお家にはどんなスパイスがありますか?コショーが1番多いのかな?
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