忍び寄る魔の手
よくもやってくれたわね?
朝というか昼?昨日の疲れからか、寝坊してしまった。
起きてリビング?に向かうと、瑠璃は既に起きている。
成分を抽出した瓶が、ソファの前にあるローテーブルだけでは収まらず、
ダイニングテーブルにまで広がっている
「瑠璃、これ片付けてもいいの?」
私は呆れつつも、瑠璃がまだ落ち着ついていない事を理解した。
「お母さん起きるの遅かったね?あれ?いつのまにか次々作っちゃった。仕舞う余裕が無かったみたい。分類したら仕舞うわ」
瑠璃はハッとして、周りを見て自分のやった結果に驚いた様だ。
無心だったのだろう。
「朝?昼ご飯?サンドイッチでいい?」
私が瑠璃に尋ねたら
「タマゴサンドが食べたい」
と言う。私は了解と言い作業に取り掛かる。
横目で瑠璃をチラ見しながら、オムレツを作る。少しだけミルクを足して、ふわふわにした奴だ。
用意されていたパンが、スライスすると楕円形だから、パンに合わせたサイズで、オムレツを作る。
パンは周りは、パリっとしているが、切ってみたら中はフワフワだったから、このまま使える。
この世界には結構色々なパンがある。
きっと私達より前に、召喚された人が工夫したのかも知れない。
調味料に味噌と醤油があった時には驚いた。
世界観からかなり浮いている。
マヨネーズは無かった。
保存が効かないのだろうか?
私はタマゴに浄化をかけてから、マヨネーズを作った。
娘から昔聞いた異世界の話では、なぜかマヨネーズを作る。
私も実行した。
思わずクスッと笑ってしまう。
瑠璃はシンプルなタマゴサンドが好きだ。
パンにバターを塗り、マヨネーズも塗りタマゴを挟んだだけの
優しい味のタマゴサンド
「スープは飲む?」
瓶を鞄に詰めている瑠璃は
「要らない。タマゴサンドだけでいい」
と言うので、甘いカフェ・オ・レを入れた。
「ほら、食べちゃいなさい。分けてあるなら後はお母さんが仕舞うわ」
瑠璃と変わって、瓶を仕舞って居たら
コンコン、コンコンとノックされた
「シュラーフ様の使いで来ました。ここは危ないから、急ぎ場所を変える様に言われました!」
女性のメイドが言っている。内容に覚えがあり過ぎて固まる。
何が起きたのかしら?
どうしようかと迷っていたが
「お急ぎください!本当に危ないんです!」
メイドは泣きそうな声で切実に訴えてきた。
演技にしては切羽詰まっている。
私は警戒しながら、そっと扉を開けたら
ブワァっと霧状の物が顔に掛けられた。
驚き、吸い込んでしまった。
途端に身体から力が抜けた。
意識が薄れていくのを感じる。
自分に浄化をかけたが混濁した意識のせいか上手く浄化されない。
多少軽減しただろうか?
私を呼び出したであろうメイドは、刃物を首に当てられていた様だ。
切られ血を流しながら泣いている。
自分にかける予定だった浄化を、咄嗟に癒やしに変換して彼女に投げる。
もう一度だ。
もう一度集中して癒しを自分にかけるんだ。
でも、瑠璃の事が気になり、上手く集中出来ない。
「おい!そいつじゃない!奥にいる女だ!」
ズカズカと男の何人かが、私を踏みつけ、瑠璃の元へ行く。
やめて!その子には手を出さないで!
叫びたくても声が出ない。
「お母さん!キャァ!ちょっとやだ、来ないで!!やめて!!」
ガタガタと机や椅子が倒れる音がする。
瑠璃お願い!逃げて!しかし、数人の男相手では抵抗するだけ無駄だった。
「ほら、行くぞ」
瑠璃は、何か意識を奪う首輪を付けられて
男達に連れ去られていく。
ボヤける視界で瑠璃を見るが、瑠璃の表情は抜け落ち、全く意思がない状態だ。
転移する直前の瑠璃を思い出す。
黙ってただ連れて行かれる後ろ姿を見た。
腹の中から怒りが込み上げて来る。
あの子に指一本でも触れてみろ?
細胞のひとつも残さず消してやる。
ギリギリと歯を食いしばる。力が戻ってきたのか、火事場のクソ力なのかはわからない
私は全力で自分に浄化を掛けた。
「ご、ごめんなさい。私が、私が迂闊だったせいで・・・」
私を呼び出したメイドを見ると、
まだ少女だった。
「気にしなくていいわ。中途半端な癒ししか出来なくてごめんね?今直すから、怖かったし、痛かったよね?」
メイドの少女は、
わんわん泣きながら私に抱きついた。
「一緒にいてあげたいけど、娘を取り戻さなきゃ、だから行くわね」
一度抱きしめてからそっと離すと
「あの、私、多分行き先分かります!」
彼女は奴等の行き先に
見当がついている様だ。
「なぜ知ってるの?」
仲間なのだろうか?
「私はランドリーメイドのプッツェンと言います。ちょっとお待ちください」
プッツェンはメモを取り出すと、 走り書きをしてダイニングテーブルと入り口ドアに紙を置いた。
多分、後から来るケルナー達に知らせたのだろう。
「行きましょう。向かいながら説明します」
プッツェンは泣き腫らした目を擦りながら怖いはずなのに、気丈に振る舞っている。
私は見ていられずプッツェンと手を繋いだ。
「ありがとう。プッツェン。助かるわ?不安だからちょっと手を繋がせてね?」
私がそう言えば、プッツェンは
「大丈夫です。私なら奴らより早く目的地に着きます!絶対に娘さんを助けましょう!」
そう言って、私の手を引き先に進む。
プッツェンは今朝仕事中にバカの部屋の前でバカの陰謀を聞いたらしい。
可哀想にバカな戯言とか
耳が汚れるわ。
プッツェンは直ぐにシュラーフとケルナーに伝えたらしく、
バカの部屋が封鎖された事で、2人にバレたと気付き
時間的にランドリーメイドのプッツェンが告げ口したと割り出し
プッツェンは捕まってしまった様だ。
プッツェンは、どうせ居ないと思いながらあちこちで同じ声掛けをした。
返事があった瞬間、首を切られた様だ。
泣きながら説明してくれた。
「きっとケルナー様が直ぐに部屋に来るはずです。だから大丈夫です!」
泣きながらも、私を励ます姿に
瑠璃の姿が重なる
この怒り、全てぶつけてやる。
簡単に楽になれると思うなよ・・・




