毒父の戯言
どうして、悪知恵だけ働くのかしらね?
ケルナーと2人で、イディオートの部屋に急いで向かうと、既に部屋には誰も居なかった。
結界を張り、ケルナーと2人で室内を調べると、
部屋のあちこちから、怪しげな拷問器具や、洗脳に使う薬剤、拘束具に媚薬、禁術の魔法陣に、従属の魔法陣の焼印まで出てきた。
「見ただけで、バカ王子が何を考えたのかがわかりますね、反吐が出ます」
ケルナーは怒りを露わにしている。
「ケルナー、王子達は居場所を突き止めたのか?」
まだ見つかってなかったはずだ
「まだな筈です。でも、もしかしたらバカだから、全ての部屋を見て歩くかもしれません」
ありえるな?だとしたら時間は稼げるだろうか?
「ケルナー、とりあえずこの部屋に入れない様に結界を張る。この物品は証拠として、何がどこにあったか記載してくれ。俺は一度、国王に話をしてくる」
さすがにこれではダメだ。
「シュラーフ様、トーコには、知らせなくていいですか?」
本当なら知らせたいが
「知らせに行けば場所がバレる。声を届ける魔法だと光でバレる。通信具を渡し忘れていた事を、今後悔してる」
頼むから、大人しく部屋にいてくれ
「私はもう少し調べて、終わり次第、シュラーフ様の私室に向かいます」
それが一番いいだろう。
ここはケルナーに任せよう。
「頼んだぞケルナー」
僕は急ぎ国王の執務室に向かった。
王子の部屋から国王の執務室は結構遠い。
ケルナーが見たら怒るだろうけど僕は全力で走った。
執務室前まで来て一旦息をととのえた。
「失礼します」
室内に入ると、入れ違いにイディオートが部屋から出てきた。
彼はこちらをみるとニィと笑い
「お前なんかが俺に勝てると思うなよ?」
と、いい放ちフンと、鼻を鳴らして立ち去って行った。
何だあれは?
「ザンフト様、アレはここに何をしに来たのですか?」
聖女の居場所でも聞きに来たのか?
「ん?北の塔にしまってある、母の肖像画をとりに行きたいから、許可してくれと言われたから許可した。後、従者とメイドの追加の為の許可だよ」
どちらも別段怪しくはないが・・・
「何でまた肖像画などを?」
今までそんな事無かったのに
「アルツトの治療を受けて、気持ちが変わったらしいぞ?自分の過去に向き合うと言っていた。あの子も少しは成長したんだな?」
この王はバカか?全く成長してないぞ?
「お喜びの所、申し訳ありませんが、悲しい話をしましょうか?」
現実を見てください。
「悲しい話?嫌だなぁ、せっかくなら、楽しい話が欲しい物だよ」
国王は甘すぎる・・・
「ある意味楽しいですよ?とんでもなく滑稽です。なにせ、王子の部屋から拷問器具や洗脳に使う禁止されている薬剤、拘束具に、こちらも禁止されている媚薬、禁術の魔法陣に、従属の魔法陣の焼印が発見されました」
一気に伝えたら、国王は固まってしまった。
「・・・シュラーフ、何を言っているんだ?」
ザンフト様は理解したくないのだろう。
「イディオートの部屋から見つかりました。聖女召喚ですら禁を破って居ます。いくら王子とはいえもう、これ以上庇いきれません」
国で禁止された物には理由がある。
王子が率先して破るなどあってはならない。バカ王子では済まないのだ。
禁を破るのは犯罪だ。
「シュラーフ、あの子も頑張ってるんだ何とかならないのか?」
私はハァと大きなため息をついた。
この人はいつだってそうだ。
正直もうウンザリだ
「ザンフト様、召喚や禁薬や魔法陣は、他者から得た物、隠せる物ではありません。禁を犯せば、本来なら極刑に処されます。正さなければ、国が揺らぎましょう。王族は身内だからと、甘い対応などしてはならないのです」
せめて命だけは守ってやりたいが・・・
「シュラーフ、だが、あの子は唯一の王子だ」
分かっている。だからこそこのままではダメなんだ。
「ザンフト様、いえ、兄上、身内として、アレの叔父として言わせてもらうが育て方を完全に間違えている。周りの責任もあるが、一番の罪は兄上だよ。可哀想だからと、叱るべき時にちゃんと教育をせずに放置した」
僕が戻った時には既に手遅れだった
「アレは、なるべくしてあの様になった。兄上が可哀想だと、許してやれと言うから、皆叱るに叱れなかった。バカ王子等と呼ばれる様に、兄上が仕向けたんだよ。このまま放置するなら兄上、貴方の立場も危ぶまれる」
あんなバカの為に、足を引っ張られるなんて
ハッキリ言ってバカバカしい。
「そうは言っても、今はシュラーフも側にいるし、ほら、王命書も書いたじゃないか、禁物も使ったわけではないだろう?そこまで心配しなくとも、大丈夫じゃないか?」
貴方の目は節穴ですか?!
愚かにも程がある
「ザンフト様、奴は私の事を今だに、ただの筆頭魔導師と、勘違いして居ます。私は、初対面で叔父と名乗り、訳あって隠す旨も伝えた筈ですが?ケルナーに、私が暇人の筆頭魔導師だ、と言って居た様ですが?」
バカも休み休み言ってくれ
「全て、自分の思い通りになると勘違いして、自分に不都合な事は捻じ曲げる。そんな奴を、このまま王席に残しておくと、5国間に軋轢が生まれます。国を滅ぼされたいですか?」
何故わからないんだ!
頼むから理解してくれ
「分かった。事が起きたら考えよう」
ダメだ!それでは遅い!
「事が起きてからでは遅いのです!」
僕が大声で咄嗟にいい返した時
「シュラーフ様、マズイです」
息を切らしたケルナーが、執務室に駆け込んで来た。
散々、走るなと注意をして歩くケルナーが走って来た。
その光景に目眩を覚えた
「そんなに急いでどうしたんだ?」
ザンフト様はのんびりと聞き返す。
一連の話の流れから聞かずとも予測できる筈なのに、
この人の頭の中は腐っている
「シュラーフ様、聖女が部屋に居ません。部屋の状況から強引に連れ去られた様です」
目の前が真っ暗になった。
もう、これ以上は庇うわけにはいかない
国王、巨悪の根源です。
実は、ケルナーはめっちゃ足が速いです。
お話には全く関係ありませんが…
次回、忍び寄る魔の手 です。




