防衛の王命書
どうしてやろうかしら・・・?
王子が起きたと聞いて、一気に気持ちが引き締まった。
別に直接何かされた訳では無いけど、勝手に召喚して、勝手に連れ出して、
更に準備された部屋は、あからさまにおかしくて、それだけで
娘が危険に晒されている事は、充分理解した。
「ケルナー、王子がここに気付くとしたら、どのくらいかかるかしら?」
予測があれば、対処しやすくなるわよね?
「そうですね、ランドリーメイドの噂の速さからすると、早くて明日、明後日にはバレますね?」
ちょっと、速すぎない?
「既に痕跡はあるのです。王子以外は、仕事していればわかります。ただ、王子が気付いてメイドに尋ねた場合、メイドは言わない選択肢はありません。調べた結果、昨日用意された部屋も、王子付きの従僕が用意した物です。直属の使用人は逆らえないのです」
まあ、確かにそうよね?
「今日一日は、シュラーフ様の監視をするでしょう。明日は私じゃ無いかな?私の監視をすると、必然的に使用人との関わりが増えます。噂も耳にするでしょう」
私ですら気付いたんだもの、当然ね?
「ケルナーは王子に尋ねられたとして、大丈夫なの?」
1番詳しい人よね?
「聞いて来ますよ?私が言わないだけで。シュラーフ様の直属は、余程悪質な手を使われない限り、口を割る事はないでしょう」
それって大丈夫なの?
「王子に逆らって、罰を受けたりはしない?」
打首じゃー!みたいに
「ご安心ください。教育係になる際に、シュラーフ様の方が、立場が上にして貰っているので大丈夫ですよ」
そうなのか、え?て事は
「シュラーフが実質国のNO2って事?」
あら、そんなに偉かったのね?
ただの苦労人だと思っていたわ
「そうですね。本人は嫌がっていますが、王子のせいで王位継承権第一位です。忙しくて可哀想になりますよ」
バカだとは思っていたけど…
だから、王太子じゃなくて第一王子としか言わなかったのか。
なるほどねぇ
「じゃあ、私が何か言われたとして、やり返したらどうなりますか?」
表向きはシュラーフの侍女で、中身は聖女な訳よね?
「そうですね、何か言う程度なら問題ないかと。眠らせたり意識を刈り取るだけならまだしも、攻撃して害すると、アレでも一応王族の血なので問題になりますね」
あら、意外と緩いのね?
「たとえば、眠らせて場所が悪くて、階段から転げ落ちて首が折れても、跡形も無く治せるとしたらどう?」
これが通るなら、治せばいいって話よね?
「…人に見られて無ければ?あり?なのかな?ちょっと確認します」
ケルナーはメモを取り出し、サラサラと何か書くと
指を"パチン"と鳴らしてメモを飛ばした
幾つか確認していたケルナーの手元へ光の玉が現れた。ケルナーが手を開くと光の玉はパッと
一枚の紙になった。
「…え?そうか、早く知りたかった」
ケルナーの目付きが変わった。何が書いてあるのかしら?
「トーコ、死なない程度なら何してもいいらしいです。私にも王様とシュラーフ様から、王印付きでお許しが出ました」
ケルナーが私に紙を見せてきた。
書いてある内容は直ぐに判別出来ないけど、紙面の下に連盟のサインの様な物があり、立派なハンコの様な物まで押してあった。
「この印はそんなに意味があるの?」
確かに大きさといい、見るからに豪華ではあるけれど
「正式な書面である事の印です。書面に対して、署名とこの印がある場合は、内容はいかなる時でも覆りません。ただし一旦期間はあります。それを過ぎたら今一度検討し、続行もしくは中止します。この書面はとりあえず3年間有効みたいです」
3年あれば慣れるって事ね?
「助かるわ。万が一があった場合、ムカついて潰しそうだから」
私は手を出して、グッと拳を握った
「…何を、とは聞かないでおきます。でもお陰様で、私にもお許しが頂けて助かります。今まで立場的に、少し甘い対応しか出来なかったので、もしもの時は蘇生お願いします」
え?蘇生?
「いや、それはやり過ぎよね?それに蘇生って…出来る物なの?」
蘇らせるのよね?
「確か文献では、一定時間内なら有効だと書かれていました。もしかしたらトーコがエリクサーを作ったら、蘇生薬になるかもしれませんね?作ってみませんか?」
蘇生薬か…
確かに天寿なら仕方が無いけど、不慮の事故の被害者や、
身勝手な事件の被害者とかが、無駄に命を散らす事は無いわねよね
「強欲で人の命を軽く見る奴ほど、自分の命に執着して生き存える為に、エリクサーの存在を知ったら、買い漁るでしょうね?」
本当に必要な人には、回らなくなりそうね?
「確かに、王子は、正にそのタイプですね」
ケルナーはかなり辛辣だ。
日々迷惑をかけられているのだろう。王子を簡単に生かしてしまうと結局
俺は特別だからとか付け上がりそうね?
「王子のエリクサーには、回数制限をつけましょうか?使う程、明らかに分かるマイナスが増える様にします?目に見えて分かる感じなら、行動を改めませんかね?後から私が直せる様にしますよ?」
せいぜい恐怖に怯えるといいわ
「それ、いいですね?お願いします」
私とケルナーは、嬉々として王子を懲らしめる為の負荷を考えていた
「お母さん、聖女というか魔女みたい」
瑠璃に言われ確かにと思う。
相手が嫌がるダメージを与えるエリクサーを作ろうとする聖女なんて
普通ダメよね?




