おかんのキッチン
新しいキッチンって、ドキドキするわよね?
ケルナーが支度してくれた食事を、シュラーフと瑠璃と共にした。
ケルナーは一緒には食べないのか?と尋ねたら、給仕が終わったら別室で食べると言う。
なんだかさみしいわね?
食事はなんて言うか、見た目はいいけど味は普通だった。
アスリート向けの食事の様な、シンプルでベーシックな味だから、
あまり印象に残らない。
個性が無い感じだ。
食べられるだけ有難いけど、私は料理が好きだから少しモヤモヤした。
瑠璃を見ると、やはりちょっと物足りない顔をしている。
自分で作っちゃダメかしら?
「シュラーフ、キッチンを使わせて貰う事は出来るかしら?」
食後のお茶を頂きながら、私は思い切って尋ねてみた。
今切り出すのは、食事が「気に入らない」と言っている様に思われるだろうけど、瑠璃の気持ちを上げるためにも
好物位は作ってあげたい
「キッチンですか?構いませんが、程度によってですが部屋に簡易キッチンを作りましょか?」
え?作れるの?
簡易キッチンって、ワンルームマンションのキッチンみたいな感じかしら?
無いよりは良いかな?
「そんな簡単に出来るのですか?」
工事とか大変じゃ無いの?
魔法があれば簡単なのかしら?
「ケルナーとりあえず使って無いキッチンを持って来てくれ。場所は…そうだなこの執務机の位置にやるかな?」
シュラーフは席を立ち、自分の書類を片付け出した。
「あ、あの、お仕事のお邪魔してしまいました。申し訳ありません」
私は慌てて謝罪をした。
まさか直ぐに動き出すとは思わなかった。
「ああ、とりあえずキリのいい所迄は終わったから、大丈夫ですよ?…この本棚も邪魔になるな?」
シュラーフは、さっさと本棚と執務机を鞄に仕舞い込んだ。
さっきまで、シュラーフが仕事をしていた辺りの空間が、
すっかり何も無くなった。
空間魔法の鞄ってやっぱり便利だわ
「ついでに配置も変えた方がいいかな?キッチンの側はテーブルの方がいいよね?応接セットと入れ替えた方がいい?」
シュラーフはウキウキしながら提案して来た。
彼は事務仕事より動く方が好きなのかもしれない。
ここは甘えた方が良いだろう。
「お願いしてもいいですか?お気遣いありがとうございます」
瑠璃は慌てて自分の広げていた薬草類を片付け始めた。
瑠璃、邪魔してごめん。
卓上の物を残さず鞄に入れた時に丁度ケルナーが戻って来た。
シュラーフはケルナーに色々指示を出している。
ケルナーから別の鞄を受け取ると、先程しまった執務机や本棚を移動させていた。
「一旦並べますが、不都合があればまた変えましょう。コンロは壁側角と中央どちらが良いですか?それに合わせて作業台を置きますが」
ケルナーが私に尋ねて来た。
私は一瞬迷ったが自宅のキッチンを思い出し
「コンロは壁側でお願いします」
と伝えたら、あっという間にコンロ、蛇口付き作業台付が置かれ、
更に隣には収納庫、振り返ったらもう一つ作業台が置かれた。
簡易キッチンと聞いていたけどコンロは三口だし、かなり使いやすそうだ。なんなら自宅より立派なキッチンだ。
「中央に置いた作業台にも収納庫があります。空間収納なので後から材料と必要な調理器具を持って来ましょう」
ケルナーは一緒に行ってくれそうだ。
「可能なら室内でやりくり出来たら安全だな。厨房はそれなりに遠い。僕かケルナーがずっと居るのは難しいから、トーコが離れる機会は出来るだけ減らしたい」
確かに、比較的近いとはいえ、
厨房だと往復で10分以上はかかるわね?
「困る事はないかと日に何度か顔は出すし、書類仕事なら今日の様に持参すれば良い。ただ、僕は立場的に外部に行かなければならない事も有る。その隙を狙われたらと思うと食事も厨房に取りに行けなくなるだろう?」
シュラーフが居ない時に、瑠璃を1人にするのは無理だわ。
我儘だと思ったけど、防衛面においてもキッチン作って貰えてよかったわ?
「色々配慮して下さってありがとうございます。確かに2人が居ない時にこの子を置いて出るなんて怖くて出来ません。助かります」
私は深々と頭を下げてお礼を伝えた。
「あの、シュラーフさん。私はいつまでこの部屋に篭って居れば良いのでしょうか?」
瑠璃がシュラーフに質問した。
当然だ。瑠璃は軟禁状態になる。
無闇に外出は出来ない。
それがいつまで続くのか気になるのは当然だ。
「とりあえず、精神干渉が出来る大魔導師がいるから、その方に王子の記憶を変更して貰うつもりです」
そんなこと考えていたのね…
「数ヶ月から数年に一度、巡回に回って来ますが、明日にでも、近日中にこちらに来る予定は無いか、調べてみる予定です。ひと所に滞在していないから、今すぐにとは行かなくて、申し訳ありません」
前に言っていた精神干渉が出来る大魔導師さんか、
精神干渉は…
私には怖くて流石に無理だわ。
相手を壊してしまいそう
「いえ、数ヶ月から数年、数ヶ月で会える事を期待しておきます。私は聖女の振り以外は、薬草の研究をしていても良いですか?」
室内でやりくりする話が出た時、瑠璃が外に行けなくて可哀想と、私が文句を言わない理由は
薬草さえあれば瑠璃はご機嫌だからだ。
今は魔法もあるからやりたい放題だろう。
「薬草はどれだけ使っても良いよ。必要な物が有れば、言ってくれて構わない。こちらのせいで不便をかけてしまい、本当に申し訳ありません」
普通、軟禁なんて酷いと思う。
でも瑠璃は若干ご機嫌だ。
「可能ならこの世界にある薬、薬品、化粧品、調味料のリストが欲しいです。ありますか?」
瑠璃、目がキラキラし始めたわ?
そう言えば貴方落ち込んでなかった?
元気ならいいけど
「明日にでもまとめさせます。纏まり次第持って来るので少しだけお待ちください」
ケルナーが請け負ってくれた。
引き篭もって好きな事だけするなんて最高に幸せじゃない?
キッチンも出来たし、私も明日から何を作ろうかしら?




