おかんは神の手を持っていた
メイド服、慣れたら案外いいんじゃない?
散々笑う娘をチラッとみて、私も茶を入れようとケルナーの元へ行く。
しかし、室内にケルナーがいる時は、やらなくて良いと言われた。
私はとりあえず、化粧品を使えるものにしようと、メイクボックスを開けた。
いくつかみて見たが、シアバターのような質感のクリームはあるが、
化粧水や乳液はやはり無く、基本はパウダーで色味を追加する程度のようだ。
私はとりあえずローションを作ろうと思い
ボックスの片隅に材料を置いた。
私は欲しいものがあり、ケルナーに聞いてみる事にした。
「状態保存の瓶の使わない物はありませんか?」
ケルナーはふと考えて陶器の器を取り出して見せた。
瓶が欲しかったけど、この際器でも良いかと思っていたら、
彼の手の中で、
器がウニョッと瓶にかわった。
「あ、その手があったか!」
無かったら作ればいい。
そう教えてくれたのだろう。ついでに3個ほど同じ瓶を作り
全てに状態保存をかけてくれた。
「何かありましたら、いつでも頼って下さいね」
ケルナーはそう言って、私にもお茶を入れてくれた。
「お母さん、何してるの?」
瑠璃は、私が何か始めたことが気になり、
魔法の練習をやめて私の手元を覗く事にした様だ。
釣られてシュラーフもやってきた。
皆に見せる様な事では無いのだけど、見られているなら仕方がない。
「豆乳ローションとインチキなクリームファンデーション」
仕上げのパウダーは、ここにあるので良いだろう
「メイドインオカンだね?プフフ、メイドだけに」
娘よ、親父ギャグを人前で言うのは辞めなさい。
聞いているこっちが恥ずかしいわ?
私は娘に、心の中でツッコミを入れつつ作業に入った。
魔法はイメージが大事だ、頭の中で作業工程を想い出した。
空中で調合される様子もイメージして、瓶に入るところまでイメージできたら
魔法を発動する。
最初に動いたのはお酒だ。
アルコールだけを蒸留し、玉にして浮かす。次にレモンの果汁も浮かす。豆乳も浮かべる。
次の工程を短縮できないかと考え、完成品を思い浮かべ、今ある水球から不純物を取り除くイメージして魔法を発動
ローションと不純物に綺麗に分かれ、完成品は瓶に収まった。
できたローションは、瑠璃に渡して試してもらう。
昔から、私がハンドメイドのコスメを作ると
必ず触りにくるのだ。
瑠璃が自分で試している間に、クリームファンデーション作りだ。
こちらはボックスの中の粉をいくつか配合して肌の色に合わせるために
一旦入っていたクリームで混ぜてみる。
まずは少量で素材の色の濃さを見る。予測がついたらクリームと水を温め乳化する。
魔法だと簡単だ
そこへさっきイメージした色を思い浮かべ魔法を発動する。
本来は保存剤がいるけど、状態保存がきくから入れなくても大丈夫だろう。
「瑠璃、腕貸して」
瑠璃の腕で色味を見る。うん、ちょうど良い
私はそれを見てから、半分を自分用にと少し色素を足した。
ついでにアイブロウ用に黒と焦茶のパウダーも少量の油分で混ぜて押し固めた。
が、入れ物が無い。
瓶は使いにくいと思ったら、横からスッと
蓋つきのクリームケースが出てきた。
パッと振り返ると、ケルナーが一礼して去っていった。
仕事ができる男は何かが違う。
———素晴しい!婿に来ないか?
と心で大絶賛しながらも
「ありがとうございます」
と冷静に頭を下げておいた。
「こんなものかな?瑠璃、ローションはどうだった?」
瑠璃を見たらガッツリ顔に塗っていた。
洗顔は?と思っていたのが通じたのか
「シュラーフが洗浄魔法かけてくれたわ。お母さん、今回のすごく出来がいいわよ?聖女特製だから?ってシュラーフが言ってる」
と言っている。
ふとシュラーフを見ると瑠璃と一緒になってローションを堪能している。
なぜ君が?
「これ、気持ちが良いですね?目の疲れも取れるし。僕にも作ってくれませんか?」
豆乳ローションにそんな効果は無いはずだ。
「鬱血した目元が冷えたからでは?無いですか?」
冷たいタオル的な感じじゃ無いのかな?
「いや、違う。聖女の魔力によって作られたんだ、癒し効果がでるのは当然だよ?後から込めるのと違って濃度が濃いんだろうね?」
私から何が出ているんだ?
魔力って事は生命力的な何かかしら、使うとだんだん歳をとるみたいな?
あ、でも10歳若くなってるし歳を取っても誤差かも
「私のエネルギーが枯渇して、早死にするとかは無いですか?」
瑠璃の幸せを見るまでは、置いてはいけないわ?
「それはないよ?もしそうなら、僕はとっくに死んでるだろう?」
そっか、魔導士も同じか?
そう思ったら少し安心した。
私は話をしながら自分のメイクをした。
普段とは違う別の顔になるように、作ったアイブローや、パウダーを駆使して整えた。
勿論髪型もアップにして変えた。
「メイクとはすごいな?別人みたいだ」
シュラーフは目を丸くして驚き、
ケルナーに至っては固まっている。
「さすがお母さん。神の手だね!さらに若返ったじゃない」
神の手は、お客様達が過剰に褒めるときに言っていた言葉だ。
こちらに来てしまった事で、お客様達には多大なるご迷惑をおかけしてしまった。
もう、長らく店を休む事になる。
この先は店の営業は続けられないだろう。
———人生の半分以上やってきた仕事だった
未練がないとは言わない。寧ろ支えてくれたお客様に対しては未練しかない。
でも、娘が一人でここに飛ばされなくてよかった。
あのままでは、あのバカ王子に良いように
食い散らかされて終わっただろう。
自ら命を絶ってしまう未来しか見えない。
———娘が笑っている。
だからこれでよかったんだ。
笑顔で誇らしげな娘曰く、若返った10歳より更に5歳は若く見えると言う。
まじか38歳若いじゃない!
と思ったが、いくら15歳若くなったとて
———やっぱりメイド服は無しだよな
と思ってしまった。




