メイドインおかん
いがいと堅物じゃないのね?
シュラーフに瑠璃を任せ、ケルナーに色々説明を受けながら共に給湯室に向かう。
給湯室は比較的近くにあるが、
主人の使いで、厨房やリネン室、洗濯場等
あちこちに行く必要があるらしい。
「先ずは場所を覚えて下さい。シュラーフ様の部屋は、比較的全ての場所に近いので、覚えやすいかと」
ケルナーによると、シュラーフは元々は宮殿の奥に部屋があった様だ。
宮廷魔導師の前は、魔道具の開発、制作に携わっていた為、こちら戻って来た時、トラブルがある度に呼び付けられて、時間の無駄だと、居を利便性の良い場に移したらしい。
「シュラーフは働きすぎじゃない?修理くらい、他に頼めないの?」
宮廷魔導師の仕事もあるのよね?
「そうなんです。シュラーフ様は働きすぎなんです。お陰様で、私は癒しの魔法が得意になりました。先程、顔色が良かったのはもしかして、トーコが癒してくれたんですか?」
シュラーフ、普段からヨレヨレなんだろうな
「練習を兼ねてちょっとだけね?」
役に立って良かったわ
「ありがとうございます」
ケルナーが口にする頃給湯室に辿り着いた。
給湯室は一見閑散として見えるが、
引き出しそのものが空間魔法になっている。
中には様々な茶葉や、ハーブが入っている。
他の棚にはカトラリーと茶器、砂糖類と、数種類の酒と、濃度の違うミルク
フルーツティー用だろうか?
果物と菓子も棚に入っていた。
「良く使う物は、あらかじめポケットに入れておくといいでしょう。来客が重なったり、趣向を変えたい時は、こちらから持参して下さい」
私は茶葉を見るが、見ただけでは分からないので、ケルナーに質問した
「柑橘系の香りがするお茶とミルクに合うお茶はありますか?」
私は娘の気に入っている茶葉を、
ケルナーに尋ねた。
「それでしたら、こちらが宜しいかと、柑橘系の香りにはいくつか種類があるので、確認なさって下さい」
ケルナーは数種類の茶葉を出してくれた。
私は香りを確認してその中から
普段、使う物に近い香りの茶葉を選び、
数種類のミルクや砂糖
——コレは使えるわね?
ハンドメイド用に、豆乳と蜂蜜とレモンを
ポケットにしまった。
人数分の茶器と、ポットに入ったお湯も空間魔法のついたポケットに入れた。
なんでも入るのね、凄いわ
シルバーのカトラリーに
一瞬自分が写ったが、見なかったことにした
液体の入っているボトルには、状態保存が掛かっているから傷んだりはしないようだ。
魔法って便利だ。
菓子の棚から食べれるかどうか分からないので少しだけ焼き菓子を入れ準備は整った。
今から飲む分は、ケルナーが請け負ってくれるようだ。
「では一旦、戻りましょうか?ああ、ついでにリネン室もご案内します」
そう言ってケルナーは、給湯室の奥の
引き戸を開けた。
そこには、壁にいくつも区分けされた
棚が並んでいた。
「ここは随分沢山棚があるんですね?」
空間魔法があるのに、
分ける必要はあるのだろうか?と見ていたら
「これは、個人で分けられています。こちらが王族男性用、今はおりませんが、王族女性用、ここからは王宮にも部屋を持っている官僚たちの物」
更に男性、女性、既婚、未婚で別れている。
「国外貴賓客用に国内高位貴族用ですね。最後に、こちらはそれ以外の貴族や緊急来客用になります。」
驚いた。そんなに細かく区分けしてるんだ
「覚えるのが大変ですね?」
どこかに印があるのだろうか?
「基本的には、自分の主人の棚と、来客用しか使いませんから大丈夫です。来客がある場合は、客間担当がおりますので、そちらに声を掛けて下さい」
ケルナーはシュラーフの筆頭執事だから
全て覚えているだけだと言っているが、
多分、筆頭じゃなくても覚えるタイプの人だよなと私は思った。
「分かりました。私はどの棚を使えば良いのでしょうか?」
緊急来客用かしら?
「ルリ様は聖女様なので、国外貴賓用のこちらの棚をご利用ください。基本的に洗浄魔法で対応いたしますが、ヨレやほつれが出る前に新しいものと交換して下さい」
そうか、魔法で洗濯も出来るんだ
「3日に一度は交換して下さい。やり方は着替えと同じ、交換魔法を使います」
こちらでは何でも魔法を使うのね?
「皆さん魔法でやるのですか?」
人によって魔力も質も違うようだけど、王宮勤めだと、やっぱり有能なのだろうか?
「いえ、ほとんどの人は手仕事です。その、トーコなら問題無いと思い、楽な手法をお伝えしました」
そうか、ケルナーは私が聖女だと知っていたんだっけ?
「助かります。助言ありがとうございます」
あとで練習しよう。
私は棚の中から一通りのリネンをポケットに詰め込んだ。
「あの部屋は、二間続きになっています。ご夫婦で滞在される為の作りなので、リネンは2組準備なさって下さい」
あら、私にもお部屋あるのね
「本来ならトーコにこの様な事をさせるべきではないのですが、申し訳ありません」
ケルナーが"バカ王子のせいで"と小さな声で言ってのけたので、吹き出してしまった。
「心中お察しいたしますわ」
可哀想に主人があの様に疲弊するんだ。
付き従う者の心労は如何なるものか。
でもまさかケルナーが言うとは思わなかった。
お陰で堅物な印象が少し和らいだ。
私はもう1組リネンをポケットに詰めて、ケルナーと共に元いた部屋に戻った。
戻った時に瑠璃と目が合い、瑠璃が爆笑するまで私はすっかり忘れていたんだ。
それは、ふんわりしたモスグリーンのスカートの膝下ワンピースで、裾にフリルが付いたエプロンを纏い、足元は白タイツ。
先ほど見なかった事にしたが、
ご丁寧に頭にはエプロンと揃いのフリルが
存在感をアピールしている。
前から思っていたけど、
頭のフリフリって必要だろうか?
爆笑する瑠璃を見て、苦い気持ちになりつつも娘が笑ってくれるなら良いやと開き直り
「お嬢様、何かございましたか?」
私は全力の営業スマイルで
オカンメイドになり切ってみた。




