おかん、パーティーの準備をする 後編
後編です!
ケルナーにかぼちゃを潰してもらう間に、風魔法で玉ねぎをスライスし、グラタンに使う走り茸の下処理をする。
走りきのこは、絶対手を離してはいけない。
マッシュルームもそうだったけど、きのこ類は揃って足が速い。
——注意しないと逃げていく。
「トーコ、このぐらいでいいですか?」
かぼちゃを潰していたケルナーに声をかけられ、うっかり手を放してしまい、キノコに逃げられた。
キノコは即座にケルナーの手で回収された。
「ありがとう。かぼちゃも完璧よ」
キノコを受け取りつつ、かぼちゃの具合を確認すると、とてもいい具合に潰してあった。
逃げたキノコをしっかり掴み、スライスした後は、縞かぼちゃだけだ。
——ちょっと怖いわね。
私一人が失敗するのは構わないけど、もし落として爆散したら、ケルナーに痛い思いをさせてしまう。
それはいただけない。
「ケルナー、鞄から『縞かぼちゃ』出してくれる?」
私は気軽に声をかけたけれど、
「……縞かぼちゃ、やっぱり来てよかった。
トーコ、お願いですから、今後魔法食材の下処理は私がいるときにしてください。
1人で下処理するのは、危なすぎます」
ケルナーは、眉間に皺をギュッと寄せている
——ケルナーに怒られてしまったわ。
「わかったわ。以後、気を付けます。それ、癒しをかけるから、ちょっと押さえておいて?」
分かってはいても、ちょっと悔しかったので、私は縞かぼちゃと一緒にケルナーにも強力な癒しをかけておいた。
「ちょ、トーコ、やりすぎです!!」
いきなり、聖女の私からフルパワーの癒しを受けたケルナーは、一瞬びくっとしたけれど、縞かぼちゃから手を離すことはなかった。
「あら、失礼。ちょっと範囲が大きすぎたかしら?縞かぼちゃって怖いじゃない。手元が狂ったようだわ」
私はしれっと言い訳をした。
以前からケルナーは疲れているのに、癒しをかけさせてくれないから、ザマアミロだ。
「……ありがとうございます。おかげで、ここ数か月分の疲れが取れました。
これで、休暇をひねり出すための動きが楽になります。気を使わせて申し訳ない」
顔色が良くなったケルナーは、マイナス5歳くらい若返っていた。
「何言ってるのよ。ケルナーは身内みたいなものよ?癒しぐらいで遠慮しないで頂戴。
仕事で疲れたならいつでも癒すわよ?魔力はいつでも余ってるんだし、
使わなきゃもったいないでしょう?」
縞かぼちゃに魔導鍋で『時間経過魔法』を使って火を通し、私は、中身をくりぬきながら、ケルナーに「今更遠慮は無用」だと言った。
静かになったケルナーを見ると、なぜか天井を仰いだまま大きなため息をついている。
——癒しが足りなかったかしら?
私は気にせず、魔導オーブンにスペアリブをセットし、茹でた破裂豆と魔導鍋で作った炒め玉ねぎを岩かぼちゃと混ぜ、味を調えた後、
魔法で、一瞬のうちに衣をつけた。
「トーコ、そろそろ仕事に行ってきます。出来るだけ早くに戻ります」
手を洗い、身嗜みを整えたケルナーは、そう言って、裏口から出ていった。
「いってらっしゃい、がんばってね」
私が裏口から見送ると、一瞬、驚いて振り向くと、口角をあげ、片手をさっと振りながら、ケルナーは足早に仕事に向かっていった。
——誰かの出社を見送るのは久しぶりね。
私は、気持ちを切り替えるために、コーヒーを飲み一息ついた。
パイ皿に塩コショウで味を調えた岩かぼちゃと、玉ねぎと雷鳥を敷き詰め、中にチーズも忍ばせ、魔法でジャック・オー・ランタン風にパイの表面をアレンジした。
スペアリブとは別のオーブンの中に入れる。グラタンも一緒にオーブンで焼くから、パイはしばし待たれよ。
次に、風魔法でへたを切ったクリームかぼちゃに、ミルク、バター、塩コショウで味を調えて、かぼちゃスープを作る。
こちらは、魔導鍋で状態保存だ。
クリームかぼちゃをもう一つ使って、かぼちゃプリンを作る。
既にクリーム状だから、卵と生クリームを少量足して作ってみたが、いい具合になった。
仕上げに、赤牛のピンク色の生クリームと、棘マンゴーを添えれば、見た目にもカラフルになるだろう。
「棘マンゴーって、見た目がハリネズミみたい」
棘の取り方は……素手だと痛いので、シンプルに風魔法でカットするだけだった。
最後にグラタンだ。縞かぼちゃの中身と、雷鳥と、走りキノコをミルクで煮込むと、丁度良いとろみがついた。
縞かぼちゃの皮の器に戻し、チーズをたっぷりかけ、パイと一緒にオーブンに入れて、焼きあがったら状態保存をかけておく。
「とりあえず、これで全部かしら?」
あとは、店内の飾りつけと盛り付けだけだ。
時計を見たら、まだお昼前だった。
「ちょっと、張り切りすぎたわね」
準備したパンプキンメニューは
⚪︎クリームかぼちゃのスープ
⚪︎岩かぼちゃと破裂豆のコロッケ
⚪︎岩かぼちゃと雷鳥のパイ
⚪︎岩かぼちゃを食べて育った豚のスペアリブ
⚪︎縞かぼちゃと走り茸のグラタン
⚪︎クリームかぼちゃのプリン
赤牛のクリームと棘マンゴーを添えて
自分でも作りすぎだと思うけど、パーティーだし、いいわよね?
私はしばし休憩を挟んで、今度は店内の飾り付けに忙しくなった。
「明日は、お店休もうかしら?」
飾り付けが終わる頃には、私は張り切り過ぎたからか、クタクタに疲れきってしまった。
眠気を我慢できず、コーヒーを飲んでカウンターに突っ伏し、少しだけ眠ることにした。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました
パーティーは、どうなったでしょうね?
きっと瑠璃は凄く喜び、沢山の料理と、張り切り過ぎた店内飾りを見たケルナーは、苦笑いをしたでしょう。
また、時を見てイベント回を、追加する事もあるかもしれませんが、その時は遊びに来て下さいね!
お話、気に入ってくださったら、感想など、聞かせてくれたら嬉しいです。
365日、いつでもお待ちしてます!
それではまたいつか、お会いしましょう!




