番外編 闇落ち聖女セリナの帰宅
※本編未読の方は、先に『おかん転移』本編を読むことをおすすめします。
『おかん転移』を読んでくださった方から、
「闇落ち聖女が元の世界に戻った後の話」
と、リクエストをいただきました。
リクエストありがとうございました。
感謝の気持ちを込めて、その後の彼女の様子を描いた番外編をお届けします。
本編の延長線上の物語として、気軽に楽しんでいただければ幸いです。
「見送りは必要ないわ」
私は、元の世界に戻るために
既に開いている光るゲートを通り抜ける。
ゲートの光に晒された瞬間、意識はかすみ
真っ直ぐ進む事しか、考えられなくなった
——これから頑張るのよ
誰かが声を掛けていたけど、
全く気にならなかった
真っ直ぐ進んで、ふと意識が戻り
「ここはどこ?」
周りを見渡すが、景色に全く見覚えが無い
周りをキョロキョロ見るが、
知っている道ですら無い。
慌てて鞄からスマホを出そうとして、
「鞄は?って、は?何このもっさりした格好?」
鞄は無いし、見た事ない服を着ている。
なんて言うか、民族衣装?コスプレかな?
「なんなの?こんなの着た記憶無いわよ」
そんな事より、ここどこ?鞄とスマホは?
何でないの?
私は必死に記憶を思い出すけど、
「職場から帰宅して・・・何も覚えてないわ」
私の会社は、究極のブラック企業だった
毎日、深夜帰宅のせいで、記憶は曖昧だった
——とにかく、帰らなきゃ
でも、どうやって帰る?歩くの?
目の前に美容室がある。
とりあえず、ここがどこか尋ねてみよう
「あれ?休みだ」
美容室の入り口は、固く閉ざされている
チラッと見える店内は、センスもよく
いつか、また来てみたい様な気がした
——留守なら仕方がないな
ふたつの意味で残念に思いながら
お店から離れたら
通りすがりの人から、声を掛けられた。
「あなた、瑠璃ちゃんのお友達かしら?」
ご近所さんだろうか?
「ごめんなさい、違います」
私が否定すると
「あら、ここのお客さん?最近、お店閉めてるのよ。透子さんに何かあったのかしら?」
ここの店主は、透子さんと言うらしい
なんだろう?知っている気がした
「どうしちゃったのかしらねぇ」
そんな事聞かれても、私は知らないわ?
「旅行ですかね?あの、すみません、恥ずかしいのですけど、ここどこですか?」
私はとりあえず、現在地を聞いた
「あら迷子だったの?」
ご近所さんは、笑いながらも
丁寧に今の場所を教えてくれた
「ありがとうございました。考え事していたら迷ったみたいで。助かりました」
私は頭を下げてから、一度美容室を振り返り
「一度、来て見たかったな・・・」
と、つぶやいた
もう、二度と来る事はないだろうと
なぜかそう思いながら、その場を離れた
私が居たのは、駅を挟んだ隣の区だった
毎日使っていた駅前を歩く。
この格好が恥ずかしくて、私は早歩きをした
馴染みのコーヒーショップを通り過ぎる時
癖で何となくチラッと中を見てしまった。
1人の男と目が合うが、無視して通り過ぎた
あの男、以前何度か見たけど、
片っ端から綺麗な子に声かけるやつだ。
嫌な顔を見たな?とら思いながら早歩きする
私は、奴からお声は掛からなかった。
仕事で見た目がぼろぼろだったせいだろうか
かつてはそれなりに容姿に自信があった
忙しすぎて疲弊してから全く構わなかった。
全く見向きもされなかったわね?
それどころか、店内でぶつかった時、
舌打ちされた事すらあったわ
思い出してちょっとイラッとした時
「お姉さん、随分と変わった格好してるね?コスプレ?可愛いね」
男はわざわざ外に出てきて、
軽薄な笑みを浮かべ、擦り寄ってきた
——うざ、はなしかけんなや
私が、聞こえない振りで無視していたら
「ねえ、カバンすら持たないで、ひとりなんて、何か困ってるなら力になるよ?」
そう言って男が、二の腕を掴んできた。
ゾワゾワと鳥肌が立ち、嫌悪感が膨らんだ
ギロっと睨みつけ
「あんた、鏡見てから出直して来な。不細工な癖に、私に話しかけるんじゃないよ」
と、いい、肘鉄して男を弾き飛ばし、
ついでに足払いもお見舞いしておいた。
昔習っていた護身術が、役立った様だ
無償にイライラしていたから、スッキリした
倒れた男は、ギャーギャーと
何か叫んでいるけど
無視だ無視
そんなに遠くはない距離を
歩いて自宅に辿り着くも
——鍵がないわ
当たり前だ。鞄がないんだから。
スマホも無いから。電話すら出来ない
「もうやだ」
自分に何が、起きているのかわからない
私は疲れてしまって
とりあえず、玄関先で座り込んだ
何も考えたく無いと、うずくまってから
どの位の時間が過ぎたのだろう
辺りは、夜の空に変わり始めていた
コツコツと足音が響く。住人だろうか?
電話借りれないかな・・・
私が、顔をあげようとしたら
足音は私の隣で止まり
「大丈夫ですか?」
ハッとして顔を上げると、隣の住人だ
「どうかしましたか?」
尋ねる姿を見て、なんだか胸がキュッとした
「鍵を・・・無くしてしまったの」
住人は、直ぐに
管理会社に連絡をしてくれた
「直ぐにくるみたいだよ。あ、ちょっと待ってて」
そう言って住人は、隣の部屋に入って行った
「お隣さんだったんだ・・・」
知らなかった?いや、見た事はあったわ
そんな事考えていたら
ガチャッ
「はい、良かったらどうぞ」
お隣さんは、微糖の缶コーヒーをくれた
「ありがとう、私もコレよく飲むわ」
そのコーヒーは私の一番よく飲む奴だった。
管理会社が直ぐに来て、鍵を開けて貰った。
スペアキーは、家の中にあるから
とりあえずは何とかなる筈だ。
鞄は無いけど、財布とスマホしか入ってなかったから、さほど困らない。
カード類は家の中にある
「戻ったばかりだし、鞄ごと無いだろう?手続きは大変だろうけど、何かあったら手伝うから、気軽に声かけてくださいね」
そう言って、隣の住人はさっさと部屋に戻って行った。
「あ、お礼すら言えなかったわ」
また今度でいいか、と部屋に入り
カレンダーを見ると、
何故か1週間が過ぎていた
「は?どう言う事?何で記憶無いの?」
ヤバいな、病んでるのかな?
1週間無断欠勤・・・かなりヤバいな
どうしようかなと、焦っていたら
♬〜♬〜
インターホンが鳴った。
誰だろう?と画面を見ると隣の住人だった
「はい、先程はありがとうございました。どうかされましたか?」
インターホン越しに話しかけると
「良かったらこれ、貰ってくれませんか?沢山あるからお裾分けです」
と、紙袋を掲げている
私は玄関に向かい、扉を開けた。
貰ったのは、私の好物のアイスだった
「え?ありがとう!こんなにいいの?」
私は嬉しくなった。ちょっと待ってと言って
アイスを冷凍庫にしまい、玄関に戻った
「ある人から、昔教えてもらったんですよ。先日、急に思い出して、それ以来、違う種類を見るたびに買っていたら増えちゃって」
確かに、これ、種類あるもんね
「買ったけど、食べきれないから、良かったら、貰って下さい」
ファミリーパックだから、確かに増えるわ
「ありがとうございます。私、これ大好きなんで。助かります」
この人、コーヒーにしろ趣味が合うわね
「携帯が無いと、連絡に困りませんか?もし良ければ力になりますよ」
お隣さんは、いい人の様だ。
なんだろう?さっきのナンパ男とは
えらい違いに感じる
「あの・・・実は会社に連絡をしたくて。ちょっとだけ、携帯お借りしてもいいですか?あ、良かったら上がります?」
私が招き入れようとしたら
「いえ、一人暮らしの女性の部屋に上がるのはちょっと不味いので」
と、彼は困りながら笑う。
その困り笑顔を見て
また、胸がキュッとなった
「あ、じゃあちょっと待ってて!」
私は、部屋から折り畳み椅子を持ってきた
「これならいい?」
玄関に折り畳み椅子を置いたら
彼は、楽しそうに笑って
「変わらないな・・・」
と、呟いたけどあまり良く聞こえず
「え?何か言った?」
と尋ねたら
「いえ、昔の知り合いによく似ていたので」
と、懐かしむ様な顔をした
「会社は続けるんですか?」
と、彼から聞かれ、あれ?言ったかな?
と、思ったけど、記憶が曖昧だから
特に気にしなかった
「正直、迷ってる。1週間無断欠勤だし」
私は渋い顔をしていた
「倒れて入院した事にしたら?」
彼は、いい訳を考えてくれたけど・・・
「診断書、持ってこいって絶対言われる」
虚偽の診断書なんか手に入れる事は出来ない
「書こうか?」
彼はさらっと答えた
「は?」
この人、何言ってんの?
「俺医者だし」
ん?医者?
「え?そうなの」
医者なら書けるのかな?
「昔の知り合いが、病に倒れたからかな?気付いたら医者になってたんだ。ずっと気づかなかったけどね」
気付いたら医者って、
どんだけ頭いいのかしら?
「でも、嘘の診断書なんか書いたら、マズイんじゃない?」
迷惑はかけれないわ
「嘘は書かないよ。1週間前見かけた時は、過労死寸前だったと思うよ?」
う、確かに
「俺が、主治医として電話するよ。会社の番号教えて」
彼は。勤めている病院名を名乗り、私が過労死寸前だと会社に伝え、退職をごねる会社に対して訴えますよ?と脅していた
彼は、一方的に要望を伝え、必要書類を郵送する様指示を出して電話を切った。
「退職、出来て良かったね」
彼はあっさりと、退職代行までしてくれた。
「・・・ありがとうございました」
もう、いくら感謝しても足りない
「とりあえず、ゆっくり休みない」
と、医者らしい事を言って
彼は部屋を出て行く。
私は、帰りがけに
「今日は、本当にありがとうございました。
私の名前は、祈里 芹那です。貴方の名前、聞いてもいいですか?」
と、彼に言うと、
「俺は、正義と書いてマサヨシだ。まさか、また名前が一緒だとは思わなかったけどね。それじゃあ、またねセリナ」
と言って、隣の部屋に帰って行った
——誰の名前と一緒なのだろう?
その名前は、知らないはずなのに
なぜか知っている様な
そんな不思議な気分になり
彼に名前を呼ばれたら反応したかの様に
私の頬には一筋の涙が溢れた
彼の記憶の目覚めは、
セリナの目覚めと同時です。
他にも見てみたい視点など有れば、コメントに書いて頂けたら、時間ある時にちょこちょこ追加します。
ちょっとオネダリしちゃいますが、もし良ければ、レビュー書いて頂けませんでしょうか?
過ぎた願いかもしれませんが、
よろしくお願いします




