魔法少女に憧れて
瑠璃見て!お母さん魔法が使えるのよ!
娘を聖女に立てて、私は侍女として付き従う
やる事は、明確になった。
私はシュラーフに、
結界と生活に纏わる諸々の魔法を習う。
そろそろ娘も起こして話に参加させよう。
大丈夫だろうか?
私は娘に近寄り、寝顔を眺めた。
小さな頃から我慢してしまう子だった。
私には我儘言っても良かったのに
娘の笑顔と泣き顔が思い出され胸が締め付けられる。
———目覚めたら、また泣くのだろうか?
私は少しでも穏やかに過ごせる様に、傷付いた胸の痛みが和らぐ様にと、娘の頭を撫でていた。
すると"ポワッ"と私の手が光り
娘の身体全体を包み込んだ。
「聖なる浄化ですね…ルリはやはりどこか悪くしていたのですね」
シュラーフはそう教えてくれた。
心の傷が肉体にまで影響をしたのか、雨に打たれて、風邪を引いたのかも分からないが、
少しでも娘が楽になったなら、それでいい
——定期的にやれば良くなるのかしら?
「ねぇ、浄化って沢山やったらどうなるの?」
私は重ねがけが出来るなら
娘の傷が癒えるまで何度でもやるつもりだ。
「効果が、出る場合は先程の様に光りますよ。光らない場合はそれ以上は難しいです」
重ねがけ出来るなら、
光らなくなるまでまでやってみよう
わたしは瑠璃に、浄化を何度も何度も重ねていった。
———16回目に光らなくなった。
「トーコ、ルリは命に関わる病か何かだったのか?聖女の浄化を15回も…」
そうだったのか、
瑠璃はそんなに深く傷ついていたのね…
「瑠璃を起こしてくれるかしら?」
私はシュラーフに魔法を解くようお願いした
「瑠璃、起きて?るーちゃん」
瑠璃はピクッとして、ゆっくり目を開けた。
「あ、お母さん…私なんだか変な夢を見たのよ…」
そう言って周りに目を向け、
シュラーフを見てギョッとする。
瑠璃の息使いが、浅くなって来た。
「大丈夫よ、ここは安全だから大丈夫」
私は瑠璃を抱きしめて、
大丈夫だとゆっくり背中を叩き言い続けた。
段々と落ち着いたのかふぅー、と息を吐き
「お母さん、ありがとう。もう大丈夫」
瑠璃は私の背中をポンと叩いた。
私はそっと離れて瑠璃の目を見た。
———良かった、少し落ち着いたみたい。
口には出さないけど私の気持ちは伝わったのだろう。
「お母さん、大丈夫よ。それよりここは何処?病院?にしてはちょっと…」
周りを見渡して、病室では無いのは理解した様だ。
「瑠璃、お母さんがバカになったと思わないで聞いて欲しいんだけど…」
瑠璃は何?と首を傾げた
「お母さん聖女だったわ」
うん、言葉間違えたわね?
これで伝わるはずが無い。
しかも何だか、恥ずかしい宣言してる
「…くっ、ごめん。意味わからない。聖女?お母さんが?いや、何言ってるの?」
娘に笑いを提供出来たなら何よりだわ。
じゃない。ちゃんと説明しなければ…
「あのね瑠———
「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。私はフェルゼン王国宮廷魔導師筆頭のシュラーフ・ミユーディッヒと申します。以後お見知り置きを」
私の言葉に被せる様に
シュラーフは瑠璃に話しかけた。
「私から説明させて頂いてもよろしいでしょうか?…」
シュラーフは瑠璃に、誤った勇者召喚の事、帰るための条件、王子の懸念、今後の対策等
私と決めた内容を取りまとめ話してくれた。
「…何だか信じられないけど、とりあえず私はお母さんから離れずに、聖女のふりをし続ければ良いのよね?」
瑠璃は何事に対しても飲み込みが早過ぎる。
受け身すぎるわ?私のせいかしら?
だとしたら申し訳無いわ…
「瑠璃、あなたの事はお母さんが絶対に守るからね?だから心配しないでね」
私にはこのくらいしか言えない。
———誰も娘は傷つけさせない。
「お母さん、私なら大丈夫よ?心配かけてごめんね?」
瑠璃はそう言って、笑って見せた。
———もっと頼ってくれればいいのに
でも、これ以上は
返って私の気持ちの押し付けになる。
「謝らなくていいの。私が瑠璃の事を心配するのは当然でしょう?お母さんシュラーフに色々教えて貰ったから、瑠璃の影から色々やるわよ!そうだ?瑠璃も魔法使えるからやってみる?」
小さな頃は魔法少女に憧れていたわよね?
ちょっと大人になってしまったけど
「え?私も魔法使えるの?」
瑠璃はちょっとワクワクした顔をした。
良かった、浄化は効果あったのかもしれない
「使えるわよ。私も今練習中よ?」
私は瑠璃に手の上に水魔法で水球を出して、形をウサギにした。
そのウサギは瑠璃に手を振って見せた。
「わぁ!可愛い。お母さんもう出来るの?」
瑠璃はキラキラした目になって来た。
良かった、とりあえず安心だわ。
改めて娘を見る。悲痛さは無くなっている。
魔法を使えることに、ウキウキして居る娘を見て、皆が聖女だと囃し立てた理由を改めて理解する。
私の娘、清楚系美人で
透明感があって笑顔が優しいの
本当は娘が聖女だったのかもしれない。
召喚魔法が、上手く発動しなかったらしいし、あの時、咄嗟に抱きしめたから
間違えて、私に能力が来てしまったのかもしれない。
どう見ても聖女は瑠璃だ
「トーコ、ルリの魔法、私が教えてあげてもいいかな?」
シュラーフが名乗り出てくれた。
私は練習中だから
シュラーフが教えてくれるなら助かる。
「お願いしていい?聖女のふりをするのに、瑠璃自身が実際に聖魔法を使えた方が、何かと助かるだろうし」
私はノールック、ノーモーションで
遠距離に魔法を飛ばす練習をしていた。
瑠璃の魔法の練習を見ていたら、
瑠璃も直ぐに聖魔法は習得している。
若いし飲み込みが早い。
アニメや漫画で魔法を見ているからだろう、魔法発動後のエフェクトが私よりずっと様になっている。
なぜかキラキラと綺麗だ
聖女だと見た目で判断されたくらいだ。
これなら"私が聖女"だと間違いなく誰も気付かないだろう。
私は、シンプルな白い部屋着用のワンピースを身に纏った娘を見て
「聖女はやっぱり見た目が大事よね」
と、1人で納得をしていた。




